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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
1章 ダンジョンコアに取り憑きました
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16話 功労式

 謎の黒ローブたちが街を襲撃してから一週間。都から視察団がやってきた。この街の貴族や領主が死亡したため、一時的に都の国王が直接管理下に置くことになったらしい。

 視察団は大臣たちの直属の貴族たち、周辺領主からの使者など、即座に現場行ける者としては最上級の顔ぶれだ。


 幸いというべきか黒ローブの頭だった貴族を撃破すると即座に全員が帰ってくれたので、この一週間は外的要因による被害はなかった。しかし火事場泥棒やまとめるものが居なくなったことで生き残りはうまくコミュニティ同士で連携できず、非常に混沌とした状態にあった。

 冒険者ギルドや商業ギルド、魔術師ギルドたちが何とかまとめていたが、街の復興という視点で見るとやはり貴族といった為政者は必要なのだろう。


 視察団が来てからは街に活気がやや戻りつつある。街が壊れたことで仕事を失ったものが多くいたが、街の復興という仕事に割り振ることで一時的に景気が回復した、と言える。

 街の建物や城壁の修理、そこで働く者たちの食料の確保、情報を運ぶ配達屋、街の被害状況を調べる仕事など、街の回復に必要な仕事は多くある。国の首都から来た最高峰の政治家と学者が揃っているならば、この街の復興も順調に進むだろう。


「生命の原型、ちっさいな」


 そんな景色を横目に、セイはララを転生させていた。


 ドロドロしたスープに親指ほどの肉団子が浮かんでいる。よく言えば生命の神秘、悪く言えば気持ち悪い光景だ。

 鍋のようなケースに入った生命の原型に、保護していたララの魂を入れる。すると生命の原型は魂と混ざり合い、大きく脈打った。


「これで転生できた、のかな?」

『はい。人の赤子が生まれるのと同じ時間をかけて、新たな肉体を得て生まれます。ただ、記憶をどの程度持ち越せているかは不明です』


 生命の原型は神が生命を製造する際に使用したものであり、死者の魂から蘇生すら可能とする。しかし、そのためにはその使者と同じ程度の体積の生命の原型が必要だったのだ。

 つまり、セイの全財産を使っても、ギリギリ転生させられる程度の大きさの生命の原型しか作れなかったため、このような不完全な転生になってしまった。


「……まあ、いいさ。いやよくはないが、飲み込むしかない。俺が謝りたいだけだからな」

『位置的に考えてララ様の死をマスターが防ぐことは不可能です。謝罪する理由はないと思いますが』

「そういう問題じゃないんだよ。俺が武力担当、ララが武力以外担当。そう約束したのに、約束を果たせなかったんだから」


 ララを転生させたのはセイが勝手にやっていることであり、ララに感謝されるかは不明だ。もしかしたら死者の蘇生なんて道理に反していると怒られるかもしれない。

 しかし、怒られるかもしれない、というのは辞める理由にはならない。怒られるたらその時はその時だ。


「じゃあそういうわけだから、アサル、十か月くらい面倒を見ていてくれ」

「……かし、こまりました」


 今の肉団子のララは、言ってみれば人間の胎児と同じだ。激しい運動の際に持ち歩くわけにはいかないし、激しく動かないように戦う器用さはセイには無いので誰かに預けるのは正解のはずだ。

 しかし、心を壊して廃人に等しい状態のはずのアセルの目は、なんだかこちらを責めているように見えた。なぜだろう。


「じゃ、じゃあ、おれはそろそろ功労式に行ってくるわ」

「……いっ、てらっしゃ、いませ」


 セイは宿を出ると、もともとこの街の領主が住んでいた屋敷に向かう。

 功労式、手柄を上げた者に特別な報酬を与えるものだが、今回は義勇兵に対する褒美だ。

 黒ローブが街を襲撃したとき、この街に残っていた冒険者や傭兵、神官戦士が戦ってた。本来彼らに街のために戦う義務はないので、逃げても法律上非難は出来ないのだ。それを押して街のために戦った彼らにはその功績に報いるため褒美が与えられるのだ。


 セイも街来た視察団にたぶんパレードの時にいたあいつが黒幕だと伝えたところ周囲で見ていたものたちからの目撃証言もあり、セイが黒ローブの首魁を打ち取ってと正式に認められたようだ。


 館に入ると、既に多くのものが来ていた。

 冒険者達に神官に、避難誘導をした衛兵に民間人。皆フォーマルな格好だ。

 セイは普段から着ている私服兼冒険服だが、まずかっただろうか。


「ふむ、みな揃っているようだな」


 玉座の間、という程ではないが、豪勢な広間で待っていると、若い男を先頭に兵士たちが入ってくる。

 二十代だろうか。いや、この世界の人間が見た目は大人びていることを考えると、二十の手前、セイと同い年くらいかもしれない。


「控えよ!頭が高いぞ!」

「このお方をどなたと心得る!ラキア国第三皇子、アトラ・ラキア様であらせられるぞ!」


 兵士たちの言葉に慌てて、他の面々が跪く。あまりにも素早い行動であり、その顔には恐れ多いと言った表情が浮かんでいる。

 セイは隔絶した上流階級といったものと触れ合ったことが無いため、反応が遅れてしまったが、慌てて同じように跪く。


「貴様、名は?」


 しかし遅かったようで、王子に目を付けられた様だ。


 なんと言葉を返すべきか、いやそもそもこういう場合は返事をしてよかったのだろうか。だれか側仕えを仲介して会話をするとか聞いたような気がする。


「ふっ、そう硬くなるな。この場は貴様らへの褒美を与える場だ。多少の無礼には目を瞑ろう。そら、顔を上げ名を名乗るとよい」


 王子は常に礼儀にうるさい人柄では無いようだ。

 そのうえで罠かと警戒し……罠にはめる様な理由もないと思い直し、顔を上げる。


「セイと申します」

「セイだな……ほお、此度の襲撃者の首魁を討ったものか。素晴らしいな、何を望む?」

「私が決めてよろしいのですか?」

「無論だ。士官でも金塊でも、魔術書でもなんでも好きなものを言うがよい。活躍に相応しいものをやろう」


 自分で決めて良いとは都合のいいことだ。もとより、頼みたいことは一つしかないのだ。


「では、此度の首魁の奥様の助命を願います」

「……なに?」


 セイの願いは、貴族の妻、つまりララの妹の助命だった。


「あれの奥方……ふむ、確かにあれは捕縛され牢に入り、一族と共に処刑を待つばかりだ。なぜ助命を願う?懸想でもしているのか?」

「いいえ違います。ですがそのお方の姉とは親しい仲にありました。此度の襲撃でその姉は死にましたが、最後の会話では妹のことを気に掛けていたからです」

「ほお!それは良い。仲良きことは素晴らしきことであり、その遺志を叶えるのも徳の高い行いだ。

 しかし良いのか?先も言ったが、財を求めるか、ここで王子である俺に仕官しておけば、貴様の将来は間違いないぞ?」

「不要です。欲しいものは自分で手に入れます。役職も同様です。なのでこの場では、貴方に頼むことでしか成しえないことを望みます」

「……そうか。ならば叶えよう。その女は処刑されないように取り計らってやる」

「感謝します」


 セイはその後喋らず、だまって功労式の終わりを退屈そうに待った。





「さて、これからどうするかなー」


 論功式が終わると、セイは街をぶらついていた。

 実のところ、現在のセイは非常に不味い状態だ。セイはダンジョンマスターなので生存にはダンジョンポイントが必要である。正確にはダンジョンポイントがないとダンジョンコアが消滅し、その結果ダンジョンは存在を維持できなくなり絶命する。心臓がなくなると生物は死ぬのと同じだ。


 今のセイは生命の原型の製造にDPのほぼすべてを消費してしまったため、生存に必要なDPがほとんどないのだ。目算だが、一か月もあれば死ぬだろう。

 空腹ではなく魔力不足による餓死、あまり迎えたくはない最後だ。


(『マスター、ではマスターの魔力への供給はカットしますか?』)

(そうして。当面は自前の魔力だけでやりくりするよ)


 セイの肉体の魔力とセイのダンジョンコアとしての魔力は、例えるなら財布と口座の関係だ。財布があれば普段の生活費は賄えるが、口座が無ければ住居やライフラインが維持できない。

 いままではダンジョンがあったため竜脈から魔力を吸い上げて膨大な魔力を稼ぎ、DPに変換したりそこからセイ個人に魔力を供給したりということができた。しかしうっかり爆破してしまったので今はダンジョンが無い。


(大量のDPも溜まったし、A級冒険者並みの騎士を殺せば経験値も入るから景気よくダンジョンを丸ごと爆破したけど……早まったか)


 身も蓋も無い例えだが、まとまった金が溜まったため職と住居を手放して旅に出ようとしたら、事故に遭った身内の治療費で全財産を失ったようなものだ。

 後悔はしていないが、もう少し考えればよかったのではと思わないでもない。


 とはいえ、DPを稼ぐのは簡単だ。魔物を殺せばいい。いや、最近まで知らなかったが、セイの場合は人間を殺してもDPは溜まる。ならば人間でも魔物でも、殺せば生きていけるのだ。

 では今まで通りこの街でダンジョンに潜るのが妥当だろう。


(でもなあ、ララが死んだ街で縁起が悪いし、街自体の復興に時間もかかりそうだし、別のとこに行こうかな)


 生命の原型を使った転生はうまく機能したので、記憶の持ち越しはほぼ不可能だがセイとしては満足のいく結果だ。しかし大切な友人が死んだ場所に好んで長いしたいとは思わない。


「おい聞いたか!東部でシュラフのやつらを撃退したってよ!」

「ああ、追加の募兵もあるそうじゃないか。俺たちも行くか!」


 そんなことを考えていたセイの耳に、すれ違った男たちの会話が聞こえてきた。

 この世界は一般的に募兵制だ。稀に徴兵もあるが、立身出世を夢見るものや、一族の期待を背負って戦場に行くもの、戦場での活躍を仕事とするもの、生きていくために他に道が無いものなどが戦場に向かう。


(戦場には行ったことが無いな)


 地球にいたころ、当然だがセイは人殺しをしたことが無かった。

 人殺しは禁忌であり、いけないことだ。法的な根拠やコミュニティの秩序などいろいろ理由があるが、やってはいけないことと教わっている。

 しかしこの世界に来て殺してみた結果。聞いていたほどではない、というのがセイの結論だった。人を殺すのはいい気分はしないが、しかし害獣や魔物の駆除、家畜の解体などと同じ程度の不快さであり、特別視するほどには思えなかった。


(戦争。どんな感じなんだろうな)


 戦争は悲惨なものだ。平和な方がいい。その通りだ。

 しかし戦場に向かうスレイや募兵に志願する若者たちを見るに、あまりマイナスの思いはなさそうだ。

 やはり、実際に行ってみないと分からないものがあるのだろう。

 なにより、人間は稼げるDPが低いが、数でカバーできるのも利点だろう。


 そう思ったセイは、実益も兼ねて戦場に向かうことにした。

プロローグ完結

プロローグで7万時とかアホなのでプロローグではなく1章ということにしようか考え中

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[一言] 世知辛いダンジョンマスターだ、ダンジョン保険はどこで入ります?
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