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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
1章 ダンジョンコアに取り憑きました
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15話 黒ローブ

 冒険者ギルド跡地から市街地へ向かうと、そこは前世でも現世でも嗅ぎなれない匂いが満ちており、顔を顰めてしまう。

 家や人が焼け焦げる臭い、聞こえてくる悲鳴と断末魔、夫婦か恋人らしき男女の死骸が重なるように倒れている光景、地獄絵図という言葉がふさわしいだろう。もはや元の街の面影はない。


「衛兵たちは何をやってるんだよ」


 セイは悪態をつきながらも足は止めずに悲鳴の聞こえる場所へ走る。


「きゃあああ!!」

「ああ!キュベット様!あなたの忠実な僕は、また新しい供物も捧げますぞ!」


 悲鳴の下に行くと五人の黒ローブが一人の少女を囲んでいる。何やら黒ローブたちが呪文だが口上だかよく分からないものを唱えているが、それは神への祈りだろうか。一応邪神を信仰している狂信者でも、何かの信者であるなら儀式は付き物だ。

 ちょうど黒ローブが住民を殺すところだ。間に合った、と言っていいだろう。


「死ね」


 セイは一瞬で距離を無くすと背後から強襲し、最後尾の黒ローブの首を切り落とす。

 

「えっ?」


 最初に気が付いたのは襲われていた女性だ。正面にいたので異変に気が付きやすかったのだろう。

 しかし悠長にしていれば黒ローブたちも気が付くだろう。その猶予は一秒か二秒か。


(一秒あれば十分だな)


 一瞬のうちに剣戟を叩き込む【瞬剣】、その上位互換である【瞬連剣】を発動したセイは残りの黒ローブ全員に剣戟を一秒以内に叩き込み屍に変える。


「ご無事ですか。街の中央で反撃しようとしているようなので、生きる気があるなら向かってください。じゃっ」

「ふえ?あ、あなたはっ!?」


 助かった少女には目もくれず、セイは次の獲物を探しに向かう。

 といっても探すまでもない。なにやら黒ローブたちは決まりでもあるのか、冒険者や衛兵ではない民間人は殺す前に祈りを捧げている。神への供物がどうとか言っていた気がするので、そういった手順があるのだろう。

 おかげで気色悪い祈りが聞こえてくる方へ向かえばすぐに見つかる。


「死ね。死ね。死ね。……こいつら多いな」

「ちっ!なんだよこいつは!」

「気を付けて!こいつ、かなりの手練れよ!」

「衛兵には見えませんね、さては冒険者ですか!義務もないのに酔狂な!」


 黒ローブたちは見事なチームワークで連携しながらセイに対抗する。やはり同じ信仰を持っているというのはお互いを信頼し合うきっかけになり、連携に繋がるのだろうか。その強さは並みの兵士でも殺せるだろう。

 しかし、セイの技量は既に並みの兵士などとうに超えている。


 三人の黒ローブが槍を突き出してくるのを身のこなしだけで避け、奥にいる魔術師らしき黒ローブを突き殺す。


「えっどこに……ふぎゃ」


 三人の黒ローブたちが振り返ると同時に身を地面すれすれまで低くし、セイを見失った一瞬のスキを突いて一振りで三人の喉を同時に切り裂く。

 返り血を浴びないように一歩下がったセイは黒ローブが全員死んだことを確認し、ようやく納刀する。


「よし、次行くか。そっちの人、生き残りたいなら街の中央に行ってね」

「あ、ありがとうございます」


 少女が走り出すのを見ること無く、セイは次へ向かう。


 セイは興味が無かったので耳に入れていなかったが、いまこの街には戦力と呼べるものがほとんどない。通常、街には防衛戦力である兵士や治安維持組織である衛兵、予備戦力である冒険者に神官戦士がいるが、今は全員戦場へ行っている。

 貴族たちも敵国が主戦場を迂回してこの街を責めてくることは想定していたが、無関係の邪悪な神々を奉じる狂信者の動向は追っていなかったようだ。


 このタイミングを狙って仕掛けたのなら貴族たちが無能というべきか、狂信者たちが有能というべきか。


「切りがないな。頭を潰すか」


 セイは五十人の黒ローブを殺したあたりで少し頭が冷え、首領を探すことに切り替えた。


「おい、お前はまだ生きてるな。お前たちのリーダーはどこだ」

「はっ……いうわけ、ないだろ……」

「それもそうだな。無理やり喋ってもらおう」

「はっ、拷問なんて聞かな……うぐっ」


 セイは黒ローブの額に手を当てると、闇属性魔術【トリップ】を発動する。すると黒ローブの目が虚ろになり、目的からリーダーの場所までしゃべりだした。


「あれか。付与【浄化】」


 首領が黒い霧の中にいると知ったセイの判断は早い。瘴気を祓うは聖気を剣に纏わせ、即座に突っ込んでいく。


「だれだ!」

「お前こそだれだよ……って、パレードで見た顔、だな?」


 黒い霧の中に入ると、そこにはララの妹の貴族がいた。





「まさか、ここまでくるものがいるとはな。そんなものがいないからこそ今攻め込んだわけだが」

「運が悪かったな。お前が表の黒ローブたちの親玉だな?死ね」


 目の前の貴族が見た目通りではないと気が付き、間髪入れずに剣を振り下ろす。

 しかし、驚いたことに止められてしまった。


「まあまあ、落ち着き給えよ。この私の前にまで来るのだ。キュベット様も君のことをお認めになるだろう」


 そう余裕の笑みを浮かべる貴族の腕は、異形であった。

 ごつごつとしたその腕はまるで悪魔の腕だった。


「おいあんた。たしか昨日のパレードにいた貴族だよな。なんでこんなことをするんだ?その見るからに協会から異端認定されそうな悪魔の腕、そんなものに頼らなきゃいけないとは思えないが?」

「ふっ、知りたいか、いいだろう。我らが奉じる『邪血の邪神』キュベットの教えを聞かせてやろう」


 時間稼ぎのための質問だったが、意外にも答えてくれるようだ。

 喋りたいのだろうか。


 貴族の語ることは、この世界の神話だった。


この世界にはその昔、異世界から神々が攻めてきた。彼らは邪悪な神々と呼ばれ魔物を眷属としこの世界を侵略に来た。


 その結果この世界は汚染されてしまい、純粋なこの世界の魔力がある場所がなくなり、そのせいで神々は地上に居られなくなってしまった。

 そのため、魔物を殺し魔境を浄化し、穢れた魔力を完全に消し去りこの世界をかつての姿に戻せた時、神々は再び地上に降臨できると伝わっている。


 そして逆に、この世界の魔力が完全に汚染された時、邪悪な神々は降臨出来るようになってしまう。

邪悪な神々を奉じる信者たちの狙いはこれだ。


「そう!すなわちこの世界が瘴気で満ちれば、キュベット様はご降臨なさる!そして我らの穢れた血を救済してくださるのだ!

ダンジョンは汚染された魔力をため込むため、爆発させれば一気に地上に瘴気をばらまける!輝かしい未来へ近づくのだ!さあ、君もその素晴らしい力を正義のために、キュベット様のた――」

「分かった。死ね」

「なっ――!ぐっ!」


 その素晴らしい演説だが、セイは途中で興味を失ってしまったようだ。


「き、君は私の話を聞いていなかったのかね!」

「聞いていたぞ。そのうえで、殺すと言っている」


 相手の主張は理解した。

そのうえで、全く話に興味が湧かなかったし、殺すのを止めるほどの理由でもないと判断した。


 セイはダンジョンマスターであり、ナビという魔神の眷属から直接情報をもらえるので、貴族が言っていた神話がだいたい事実であることを知っている。知っているうえで、見逃してやるつもりもない。

新年自体は立派だな、とは思う。しかしセイからすればそれは他人事だ。

 邪悪な神々やこの世界の神々の話も、異世界転生してきたセイからすればただの侵略戦争だ。現地神と異世界神で戦争があり、それを今でも引きずっている。それだけの事なので、救いがどうとか正義がどうとか言われても困る。この世界では日本語が使われているので言葉は分かるが、会話が成立しない。


 それに、汚染された世界とかは困る。セイは人間のつもりなのだ。

 セイは幽霊がダンジョンコアに受肉した存在であり、生き物としていうなら魔物に近い。しかし心が人間であるうちは、人間であると思っている。そのためセイは基本的に人間社会で生きていくつもりなのだ。


「説明はできるが……まあいいだろ、殺す、が結論だ。なにかパワーアップする能力があるなら使っていていいぞ。邪神の使途がどんな能力があるのか興味がある」


 最も、めんどくさがりやなセイはそんな説明をせずに、結論である「殺す」しか口にしないが、それは拒絶の意思だ。

 目の前の貴族は、本人的には非常に考え抜いた先に今があるのだろう。ならば、戦死という答えを押し付けてやるのだ。


「くっ……やはり平和はキュベット様が降臨した世界にしかないというのか……ならば仕方がない!そんなに死にたいのならば、神の威光に触れて死ぬがいい!【御使い降臨】!」


 【御使い降臨】。それは神に選ばれし聖者のみが使えるというスキルだが、邪悪な神々に選ばれし邪悪な聖者でも使えるのだ。

 空から漆黒の光が降り注ぎ貴族を包むと、彼の体が黒い靄が包み込み、頭上には黒い光の輪が発生し、背中には同じく黒く輝く光の翼が生じる。

 さらに全身にどす黒い血液の様な刺青が発生した。その入れ墨は肉体を変質させ、悪魔のような異形に変わっていく。


 邪神の御使いを己の肉体に降臨させ、あらゆる能力値を増強する奥の手だ。


「ふっは、ふはっはは!すばらしい!ああ、キュベット様!あなたの忠実なるしもべは、貴方の敵を打ち取ってみせましょう!!そおら【一閃】!」


 ぼこぼこと膨らみ尖った腕を剣のように使い、剣術スキルを発動する。駆け出しでも使える初級の武術だが、その威力は絶大だ。剣の達人の人間と剣の初心者のゴリラが戦えだゴリラが勝つように、大きすぎる能力値の差は技量の差を無くしてしまう。


「おお、確かに強くなった」

「なぁっ!」


 しかし、同時に大きすぎる技量の差は能力値の差を無くしてしまうのも事実だ。

 セイは完璧に見切り、紙一重で回避する。


「早いけど、スレイほどじゃないな」


 セイの頭に浮かぶのはセイの剣の師匠だ。あの女、瞬間移動のごとき速さで高速移動し剣の一振りで山さえ両断する異次元の剣士を見てきたのだ。

 目の前のただ早いだけの剛腕の怪物ごとき、攻撃を暗いはずもない。


「ばかな!なぜだ!なぜ当たらん!」

「鍛えてるからな」

「ふざけっ――ぐっ!」


 素早く胴体に潜り込み、【四六斬】を叩き込む。四種六方向から繰り出される鋭い剣戟は胴体を切り捨てコマ切りにする。


「ぐああああああ!ま、まだだあああああ!!!!わ、わたしはあ――■■■■■■!!!」

「なに言ってるのか分からん。……自爆か?」


 魔力の動きから爆発すると見抜きセイは風属性魔術【強風】を発動。天高く打ち上げられた貴族は爆発し、その光景は町中のものが目撃した。

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[一言] やっぱ邪神の命名法とか御使い降臨とか生命の原型とか四度目は嫌なやつの影響受けてるだろww
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