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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
1章 ダンジョンコアに取り憑きました
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13話 戦争告知

 セイのダンジョン、人間曰く魔族の災厄は崩壊し、ダンジョンコアは破壊された。本来はダンジョンコアとはダンジョンの心臓であり、すなわち破壊されるとダンジョンマスターは死ぬ。


「【ダンジョンコア接続】。ダンジョンコア製造……っと」


 しかしセイの手には破壊されたはずのダンジョンコアと全く同じものが握られていた。新しいダンジョンコアを製造したのだ。

 とはいえ、これはダンジョンコアと融合すればだれでもできるが、誰もしなかった。なぜなら魔物は基本的に人間を害する本能があり、ダンジョンコアと融合するということはその本能が強まってしまうのだ。そのため不利な戦場でありダンジョンの外に出ることがなくなり、結果的に人間社会ではダンジョンコアの製造が容易であると知られていなかった。

 もっともダンジョンコアとは心臓であると同時に魂の総量でもあるため、製造には魔力の最大値を削る率用があり、また破壊されると削った最大値分を戻せなくなるという欠点もあるのだが。


「よし、ここに置いておくか。見張りは任せたぞ、アセル」

「かし……こ、まりま、した」


 セイは新しく製造したダンジョンコアを黄昏の鉱脈十層に作った拠点に設置すると、となりにいる少女に見張りを任せることにした。

 アセル。一年前にセイのダンジョンに攻め込むも破れ、セイが闇属性魔術の精神操作の実験台にした少女だ。心が壊れて、機械のようになったが、なんとか会話は成立するのでハナビの世話も押し付けている。

 セイとしても自分でやっておいてなんだが、かなり悲惨な境遇だと思うが、生きた戦利品くらいにしか思っていないので後ろめたさはなかった。


『では私はこのダンジョンコアに宿っておりますので、ご用件があればまた念話をおかけください』

「そうしてくれ。あと少しでハナビだけでも地上に出せるから」

『出す必要はあるのですか?』

「生存のためなら無い。……けどまあ、育てることになった以上は普通の人間らしいくらしもさせておきたいからな。物心つくのが三歳くらいらしいから、その頃までには地上に連れていくよ」





 その日は迷宮都市タリオン中が……いや、ラキア国中が湧きたった。

 戦争を行うという告知がされたのだ。


 元よりこの世界で戦争は人間同士でも頻繁に起こるが、ここ最近ラキア国は参戦していなかった。そのため兵士や傭兵、戦争向きの冒険者などは食うに困ってしまい、他国へ移ろうかという話まで出ていたのが実情だ。

 しかし彼らも母国を離れたいわけではなかったため、ラキアが戦争に参加することは喜ぶことなのだ。職業軍人だけでなく募兵も開始されたため口減らしをするしかなかった農村の若者たちももろ手を挙げて喜び次々と人の流れが始まった。


「というわけで、私たちも戦場に行きますね」

「達者でな。結局お前はうちの団には入らなかったが、うちで教えたことは忘れるなよ」

「思っていたよりもあっさりした別れに驚いています。……まあいいか。じゃあまた会いましょう」

「セイくん。受け入れるのがあなたも速いです」

「セイ、神はあなたに剣の才能を与えなかったようですが、剣の道に才能はあまり関係がありません。どういう時にどう振るか、どうされればどう返すか。それをしっかり覚えて行動に移せば相手は切り殺せます。実践あるのみですからね。忘れてはいけませよ」

「わかってますよ。何回もスレイには切り刻まれたので、覚えました。スレイより弱い奴には負けませんよ」

「よろしい。その意気ですよ」


 そして告知があったその日のうちに、スレイたち傭兵団は戦地へ向かった。

 地球で生まれ育ち武術とは縁がなかったセイにとっては、スレイは戦いの師匠だ。別れは悲しいが生きていればそのうち会えるだろうと、セイはあっさりと別れた。





 スレイたちが出立した翌日、貴族が王都からやってきた。パレードというには地味だが、大通りを普段見ないような豪華な馬車が通る様に民衆も熱気に包まれている。

 当然セイも暇なので見に来た。


 タリオンは鉱物の街であるため同時に武具の生産地でもある。戦争が起こればダンジョンから鉱物(ゴーレムの死骸)を運び出す冒険者とそれを武具に作り変える鍛冶師や裁縫師、これらをマジックアイテムに作り変える錬金術師は休む暇がなくなるほどの繁忙期を迎える。

 作られた武具たちは馬車や魔術師たちが運搬し最終的に戦場へと運ばれる。このタリオンは迷宮を持つ採掘都市であると同時に補給拠点の最も基礎的な役割も担っているのだ。


 それはすなわちこの街の戦争における重要度も非常に大きいという意味であり、軍事を担当する貴族が視察に来たのだ。


 それ自体はおかしなことではないのだが、この場合の『貴族』とは正確に言えば貴族の家の当主に任命された代理の者のことであり、貴族の当主本人が来ることはまずない。

 まずない、はずなのだが。


 セイの目線の先、上半分が取り除かれた馬車から見えている男女二人は、どう見ても貴人だ。

 男性の方は三十代だろうか。綺麗な金髪を後ろで束ね、顔立ちも整っている。体格も過剰に肥えているわけでもなく、服装も仕立の良さを感じさせつつ嫌みは伝わってこない。冒険者などの大半の市民のような落としきれない油や臭みなども無く、同性であるセイから見ても美しいと思う。人でありながら美術品のようだ。

 総じて言えば、貴族らしい貴族、といえるだろう。


 しかしそんな男性よりも、セイその隣に座っている女性に目を奪われた。


「なあララ、あの人お前に似てないか?」

「ちょ、ちょ、ちょ!見ちゃだめです!」


 貴族の男性の傍には、女性が座っている。微笑みながら手を振る様は同様に貴族然としており、男性のパートナーなのだと分かる。

 年齢は十代半ばだろうか。男性の方の年齢を考えて娘かとも思ったが、手を握り合っているし距離も近いので、おそらく夫婦なのだろう。貴族社会では親と子、場合によっては親と孫ほどに年の離れた夫婦もいると聞く。


 明るい金髪に空のように青い瞳。青い清楚な衣装は白い肌とコントラストになり静かな美しさを魅せている。それでいて瞳には強い意志が宿っており、色気よりも野に吹く風の様な明るさを放つ女性だ。

 ララは動きやすい冒険者の服装をしているため両者の雰囲気が違うが、それでも間違えようがない。顔立ちがララにそっくりだ。


「ララ、なんでお前そっくりの人があそこに居たんだ?何か知っているか?」

「……言いますよ。言いいますから。一端帰りましょう。ここに居たくないです」


 ララに腕を引かれ、連れてこられたのは一緒に泊っている宿屋だ。宿と言ってもセイの感覚ではアパートに近く、キッチンもリビングも個室もあるのだが。

 まだ真っ昼間であり、外からは変わらず民衆の熱気が伝わってくる。ハレの日と言ってもよいはずだが、ララはララそっくりの少女を見てから気が沈んでいる様だ。顔色が悪い。

 セイも一年も一緒に居ればなんとなく分かる。つらい、よりも、後ろめたい、という感情が渦巻いている顔だ。


「私、貴族の娘なんですよ。」


 黙って横で座っていると、ララはおもむろに口を開く。


「そうなんだ」

「反応薄くないです?」

「まー、読み書きできる時点でさ」


 その内容に驚きつつも納得する。予想が的中したわけではないが、予想の一つではあったからだ。

 この世界の識字率は非常に低い。大半の人間は一生を街や村から出ることは無く、読み書きが出来ても収入に繋がらないため覚える必要が無い。

 そのため読み書きを出来るものは裕福な商人か貴族、変わり種で代筆業者などだが、ララが冒険者などの知識が豊富で正義感も強いため、やんごとなき身分なのだろうとは予想していたのだ。


「うへー……そんなに分かりやすかったですか」

「なんで冒険者やってるのは分かんなかったけどね」

「まあ、大した理由じゃないですよ」


 ララが眉を顰める。感情が悲しみから嫌悪へ、後悔から怒りへと変化していくのが見て取れる。


「私、家でしたんですよ」

「家出」

「これでも伯爵令嬢だったんですよ。でも結婚したくなくて飛び出しちゃいました」

「ええ……」


 拗ねた子供の様なトーンで喋っているが、その内容はだいぶ恐ろしい。


「一応聞くけど、なんで?よく知らないけど、政略結婚?ってのは普通なんでしょ?そんなに嫌な人だったの?」

「んー、私も伯爵家で令嬢を『やって』いたんですけど、その人と結婚も嫌だったわけじゃないですよ。今はどうだか知らないですけど、家柄も格上の公爵家で、愛人もいて私には干渉してこなさそうなのも高評価ですし」

「……そうなんだ」

「でもまあ、結婚まであと少しって時に、お父様が倒れたんだすよ」

「倒れた?」

「ええ、病気です。いや呪いだったかな?まあすっかり弱っちゃって」


 あんなに恐ろしかったのに、閉じた口から、そう言葉が聞こえた気がした。

 しかし、再び口を開くと、から元気のように明るくなった、


「そしたらなーんか。バカバカしくなっちゃったんですよ」

「バカバカしく?」

「ええ。なんでこんな人に黙ってにこにこしてたのかなーって。お母さんの葬式にも来なかったの奴に」

「で、家を飛び出しだと」

「そうですね。そっからはまあ、日銭も必要ですし、仮にも貴族ですので、民衆も見捨てられないしで……兵士か悩んだんですけど、結局は冒険者になりました。家の者がいるかもしれない街には近づかないで、田舎にずぅーといて、あの日、あなたにあったんですよ」

「じゃあ、さっきの子は?」

「……妹です。私の代わりに嫁いだんでしょうね」


 私の代わりに、というと黙ってしまったララを見て、セイは思う。


(こいつ、結構えぐいことやってるな)


 いろいろ言っているが、ようするに貴族家同士の契約に知らんぷりして勝手に飛び出したわけで。損失がどうなっているのか分からないが、家の信用をだいぶ失わせたんじゃなかろうか。

 現代日本で生まれ育ったセイからすれば自由恋愛が当然で政略結婚は事例遅れの悪しき風習であるが、同時に現代から見て数十年前は自由恋愛の方が異常であり、家同士の婚姻が常識だったことも知っている。


 この世界でも都心部はともかく、農村部では年齢が十になるころに村長と家長たちが話し合い結婚相手を決めることが多いらしいので、やはり『変』なのはララだろう。


「それで、どうする?こっそり会いたいというなら、出来る限りのことは手伝うが」

「……怒らないんですね。こんな厄介な事情を黙っていたのに」

「お前は俺の相棒、それが全てだ。今は一緒にダンジョンに潜っていないけど、相棒なのは変わらないさ。何も怒ることなんてないよ」

「むぅ……」


 ララはセイにもたれかかり、口をとがらせて足をける。

 なんか不機嫌そうな行動だが、怒ってはいなさそうなので、セイたちはしばらくそのままだった。

作者があほなせいで増えてしまった本編前の前振りはあと3話で終わります。その後は戦争編で兵士になります。

……3話で終わるよな(プロットを見返す

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