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ダンジョンコアの闘争  作者: ライブイ
5章 世界が壊れる音
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83話 決闘権

誤字報告ありがとうございます。

 ある日セイが捌いても捌いても減らない報告と書類の山を今までの五倍速で捌いていると、まるまると太ったおじさんが部屋に入っていた。


「セイ様。昨夜北東にある瓦礫の国で反乱が起こりました。なんでもセイ様が派遣している代官が娘たちを攫っていたらしくて、ついに元王族に手を出したことで我慢が限界に達したとのことで」

「また反乱かよ。北東の瓦礫の国っていうと……シレステンか。じゃあ代官は処刑を前提に調査、被害者たちには賠償と必要なら精神魔術で治療、反乱は――」

「今朝には鎮圧しました。続きはジョンが担当するとのことです」

「ジョンか。あいつならうまくまとめるだろう。…………ん、お前誰かと思ったらフーディか?」

「ええ。私の顔をお忘れですか?」

「覚えているから分からなかったんだよ。そんなに太ってなかったよね」


 フーディ。クロナミ国がまだただの自治区だったころに襲撃してきた貴族に雇われていた冒険者で、捕虜にした後は指揮官の一人にした覚えがある。

 近隣の国の生まれだったため早期に軍から抜けて現地の領主をやらせて、最近はこのクロナミ国中央政府の指令塔に出向を命じたところまでは覚えがある。


「いやあっはっはっはっはっは!実は結婚しましてな!食事なんて体が動かせれば十分だと思っていましたが愛情という調味料が加わっただけでこれがもう食事が進む進む!」

「幸せ太りというやつか。まあ、幸せそうでなによりだよ」

「セイ様も結婚してはいかがですか?毎日が幸せになりますよ?」

「俺は今が幸せなんで」


 元A級冒険者として活躍していたころとは違いお腹がとても大きくたるんでいて、実用性だけしか気にしていなかった無骨な服はおしゃれになっている。奥さんの趣味だろうか。

 安酒と煙草を常に携帯していたはずのポーチは無くなり、厳つかった表情も話しかけやすそうな柔和な笑みを浮かべている。すっかりおじさんだ。


 所帯を持つと人が変わると言うが、ここまで大きく変わる人を見たのは初めてかもしれない。


「報告は以上か?」

「おっと失礼。夫だけに。実は不審人物がこちらに近づいてきているとの報告が入りました。場所は西に国を三つほど。まだこの司令塔が目的地かは不明ですが、定期連絡を兼ねて念のため私が直接」

「ご苦労。今は監視網を張り直してるから漏れがあったんだろう。俺が様子を見ておく」

「え、セイ様が直々にですか?」

「ああ。と言っても俺の従魔に行かせてだけどな。ここに俺以外の武力は置いていないんだ」

「なるほど。では、失礼しました」


 冒険者時代を知っていれば目を疑うほど変わったフーディは一礼して退室した。


(もう大丈夫だと判断して監視は切っていたけど、ここまで変わるもんなんだな)


 扉が閉まるとセイは自分にしか見えないダンジョンのモニターを表示させる。召喚できる様々な種族の魔物の中から移動能力に長けた魔物を選択し、ランクも決め、追加で搭載する能力は無しにする。

 数は十五。大きさは一メートル程度。最も近いシティコアを端末にして召喚。視界をリンクさせて不審者とやらを探し始めた。


 召喚した魔物は飛竜系と狼系と海豚系。空から目視で、陸から臭いで、少し浮いて音で捜索する。

 監視網を再編中といっても街中ならばすぐに見つかるし続報も出るだろう。ゆえに探すのは関所の無い森や山に魔境。水中も探したほうがいいだろう。


(いい景色だな)


 共有した視界には雄大な大自然が映っている。広い空、どこまでも広がる森、岩盤が剝き出しになった山々。システムの一部となって報告と書類を捌くには部屋に籠っていた方がいいが、やはりセイは外の方が好きなのだと実感する。


(ん、人だな。こんなところに?……ってこいつが不審者か。この格好はニアサダンの生き残りか?良くここまで歩いて来れたな)


 身に着けている衣服は火口で暮らしているもの特有の薄さと断熱性に優れた黒い布の鎧。目と髪はマグマのように赤く四肢は獣のようにしなやか。一説には獣神の一柱に祝福を受けた人族の末裔ともいわれる民族、ニアサダンの民で間違いないだろう。

 団結性と気高さで有名だが、セイが見つけた彼女は一人ぼっちで格好もボロボロ、目は血走り今にも死にそうだ。


 たぶんセイのせいだが。


(魔物を差し向けて皆殺しにしたつもりだったけど、どうやって生き残ってんだろう)


「セイ様、いかがなさいました?」


 同じ部屋にいたサンドラが不安そうに話しかけて来た。

 視界を使い魔と共有していても、眉を顰める動きは執務室にいるセイにも出てしまうため第三者からすれば急に何故か眉を顰めたようで不安になってしまうのだろう。


「んーこの間滅ぼした国の生き残りが、たぶん俺を殺すためにこっちに向かってるのを見つけた」

「あら、珍しいですね」

「ああ。気持ちは察しがつくけど、せめて俺が作った決闘権を手に入れて正攻法で殺しに来てほしいものだよ」

「……実はその法律を聞いたときから思っていたのですが、決闘法と決闘権は己と組織の尊厳と方針、力を示すためのものですよね。でしたら、全てを失ったものは従わないのではありませんか?」

「俺も作ってから気が付いた。うまくいかないものだな」


 共有した視界でニアサダン族の少女を見ながら思案する。今のトトサワルモ地方ではセイが法であり絶対の存在。多少特別な力があるだけの少女なぞ遠隔の使い魔越しにも瞬殺できるし、誰も文句を言うものはいない。

 まだ確定ではないが、まず間違いなく殺しに来ている相手を殺し返すことも街の外ではよくあることなので、そういう意味でも非難されることはないだろう。セイも今までに何度も殺した。


(うーん……)


 しかしそのうえでセイは悩んでいた。

 昔とは違い、今のセイは強い。積み重ねた技量ではなく、生物として強い。首を刎ねられ心臓を潰され、臓器を摘出されコンクリートで固められた後に海に沈めて魚の餌にされても問題なく復活できる。


 もしもこの少女が魔術でセイを丸焼きにしても、炭化した肉片から全身を再生できる。

 というか、セイの持つ【魔術耐性:9Lv】を突破できず服を焦がすことしか出来ないだろう。【再生:10Lv】も持っているので、皮膚を一枚焦がされても再生するスピードの方が速い。


 ようは命の危機を感じないのだ。セイの領地で無差別に暴れられれば殺すが、セイを殺しに来ているならば、襲撃事件が起こっても何もなかったことにしてもいいくらいに何も影響を与えられない。


 その程度の相手を殺してもいいのか。赤子が豆腐を鈍器にしているほどにも脅威を感じない相手を、一般的な常識という曖昧なものを理由に殺していいのか。

 相手を舐め腐った考えだが、セイは本気でそう考えていた。


「……ニアサダン族の希少な生き残りと捉えて、保護しようかな。暮らしと生活、もしあれば知識を提供してもらって、何年か後に決闘権か安全な暮らしを対価にする。こんな感じでどうかな」

「セイ様、知識欲が旺盛なのは結構ですが、己を殺しに来た者は殺すべきです。甘すぎですよ」

「分かってはいるんだけどなぁ……あの程度の奴が俺を殺すとか絶対無理だし、頑張ってるなぁ、としか」

「……はぁ」


 呆れたようにため息をつくサンドラだが、セイとしては本当に本心だ。


「セイ様、私はセイ様の目的を知らないのですが、このままでいいのですか?」

「?なにが?」

「なにがって、世界征服もあと四分の一を残して進んでいませんし、統治も反乱が頻発しています。あまりうまくっていないように思うのですが……」

「そう見えるのか」

「はい……。私は一度生きる理由を失い、己を捨てました。そして、あなたに拾っていただきました。ゆえに、私の全てはあなたのものです。あなたの一番の目的を教えていただかなくとも、あなたに与えられた命令をこなします。ですが……」

「ああ、不安は分かるよ。ごめんな。俺が誰にも一番の目的を言わないのは誰も信用していないからだけど、お前たちが悪いわけじゃないんだよ」

「ならなにが悪いんですが」

「強いて言えば神が悪い」

「うぅん?……ならロダン様やカラザ様、スイーピー様に話しているのは」

「強いて言えば神に匹敵しているからだな。あいつらは例外的に信用できる」


 サンドラの疑問ももっともだ。

 いや、今のサンドラの顔に浮かんでいる感情は疑問ではなく怒りだろうか。話をはぐらかしているセイへの怒り……ではなく、話して貰っている彼女たちへの嫉妬と、話してもらえない自分の無力さ。


 大した忠誠心だと心の中で賞賛する。どうしてそこまで自分に忠誠を捧げるのかセイには理解しきれないが、サンドラが自分に向けている忠誠心は本物だとは理解している。

 それゆえに本当に申し訳なく思うのだが、こればかりは本当に言えないのだ。言ってしまえばサンドラを通じて情報が洩れるかもしれない。本人にその気がなくとも。


 だが確かに言えることもある。


「確かに世界征服はあと一息という所で中断し、既存の統治は反乱が相次ぎ情勢は常に不安定。民間ではお前の幼馴染のようにトトサワルモ地方全土から勇士が集まり巨大な反乱組織も出来つつある。服従している国々も周辺国家との繋がりを強め俺に対抗する力を付けている。ハイディ神聖国も深淵回廊から呼び寄せた救世主たちと合流した。ベルゼラード帝国も搾り取った税で軍備を強化している。完全な世界征服にはあと一歩だが、そのあと一歩が今までで一番遠いだろう。もたもたしていれば俺に征服されたトトサワルモ地方の四分の三が丸ごと敵になる。多くの者がそれが分かっているからこそ支配を受け入れている面もある。まあ客観的に見れば不安にもなるだろう。」


 セイが述べた事実は多くの国々が認識していることだ。


 しかし、と、セイはにやりと頬を吊り上げて嗤う。


「しかし、全て俺の掌の上だ。予想外なことも予定外なことも多いが、計画は順調に進んでいる。時間は俺の見方だ」


 セイが浮かべているのは絶対の自信に満ちた嘲笑だ。

 誰も気が付いていないだけで、確かにセイの……いや、セイ達の計画は進んでいる。


 それこそ、一番の計画の八割あたりまで既に進行していて、世界征服が完遂出来なくても良いのだと気が付いているのは、人類にはほんのわずかだ。


「見てな。人類がほろ……ああいや何でもない。なんにせよ、この世界の誰も見たことが無いほど大きくて綺麗な花火が見られる日は近い」


 ふふふふふふふふふと笑うセイを少し気持ち悪く思いながらに、サンドラははぁ、と頷き目の前の仕事に戻った。

終わりが見えて来たので、一つ謝罪をします。三部構成でしたが当初の予定から大きく変わったので一部で完結にします。

消えた要素は次回作で使うつもりです。


予定通りならあと二十話か三十話くらいで完結です。たぶん。終わる。かな。

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