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第二章 兄の車は痛車でした

 学校生活2週間も過ぎると必要な物がそこそこ出始めてくる。


兄にそれを言うとすぐに家に届く・・・・・・って、ママが使いこなしているのと同じ南米密林さんの箱じゃん。って、


「お兄ちゃん、靴サイズ合わないから返品して、ねぇ~買い物連れて行ってよ~」


「イーアスつくば近いぞ」


「流石に一人でイーアスつくば行くのってハードル高いよ~付き合ってよ~」


イーアスつくば、それは大型ショッピングモールで、内ジャスと並ぶ茨城二大ショッピングモール。三大ショッピング施設と言うと牛久大仏様近くのアウトレットモールが入ってくる。


「行くか、原稿も送ったし、デート取材もかねて。だが、アニ●イトがあるから土浦イ●ンのが良いのだけど」


つくば市付近は大型ショッピングモールが乱立している。イーアスつくば・土浦イ●ン・つくばイ●ン。


「イ●ンは水戸でよく行ってたから今度で良いよ。初めての所連れて行ってよってか、お兄ちゃん、少しここら辺案内してよ~」


「まぁ良いけど、ちょっと待ってろ、着替えるから」


「萌えな絵服は禁止ね、クラスメイトに会ったらなんて言ったら良いかわからないもん」


「ばっ、お前な~嫁を身にまとって出かけるからこそ良いんだぞ」


「お兄ちゃんの嫁って何人いるのさぁ~部屋のキャラクターみんな違うじゃん、シャツの女の子だって毎日違うしさっ」


「お前それは言ってはならないのだ」


「オタクの人の常識なんて、わかんないもん」


鋭い突っ込みをされると言い返せなかった。


基氏は無難な誰もが知っているメーカーの黒のジーンズと、白の絵柄のないシンプルなTシャツの上に、淡いブルーのジャケットを着て部屋から出て来た。


碧純はそれをチェックすると匂いまで確認する念の入れようだったが、柑橘系の自然なコロンの香りを醸していた。


碧純はふんわりとした桃色のワンピースを着て、髪をポニーテールに縛っている。


まるで春の桜の甘い匂いが漂いそうな優しい光のようだった。


部屋を出ると、碧純はバス停の方向に進もうとする。


「おい、碧純、そっちじゃない、こっちこっち」


「お兄ちゃん?バス停あっちだよね?つくば駅行くんじゃないの?」


「え?車あるから」


「えぇ?お兄ちゃん車買ったなんて聞いてないんだけど、車あるなら大子にいつでも帰って来れるじゃん」


「ん~それは無理?」


「無理?なぜに疑問形?なんで?お兄ちゃんお家嫌いになったの?やっぱり・・・・・・えんりょ?」


寂しげで不安な顔を見せる碧純に全力で否定する基氏。


「違う、違う、単純に物理的に勘弁してくれ。俺の車で実家の道走ったらハマるし、腹擦るし、周りの草木でボディー剥がれるから」


実家は舗装された道から入り、狭い砂利道を走らなくてはならない。


所謂酷道だ。


「え?ハマる?下擦るの?なんでボディー剥がれるの?ちょっとちょっと、お兄ちゃんの車恐いんだけど、ダンボールか何かで出来てるの?大学で作ったとか?」


「ダンボールで出来ていたらエコだな。軽くて燃費良さそう。ただよく燃えそうだな」


「お兄ちゃんの『もえそう』って『萌えそう』に脳内変換されるんだけど。ねぇ~もしかして幌付きオープンカーとか?ちょっと憧れだったんだよね~」


どんなボロボロの車なのか?ハラハラドキドキ、そしてちょっとのワクワクで兄の後ろを付いて行くと、隣の大きな家の大家さんのガレージに向かった。


「な~んだ、パパの知り合いから借りるだけかぁ~」


「ん?ガレージ借りているんだよ。息子さん達が仕事で東京とかに出たから開いてるんだって。俺の車、海外で高く売れるからって車窃盗に狙われるんだよ。アパートの駐車場だと、ちょっとな・・・・・・ほら、この車」


大家さんも農家で、敷地は広く農機具を入れる倉庫の脇に4台入るガレージがあった。


開いているシャッターの奥には高級SUV車が見える。


その車と反対の端のシャッターの鍵を開け基氏は、ガラガラガラガラと、金属製のシャッターが上げられると、スポーツカーが。


暗いガレージの中をよく目をこらしてみると碧純は驚愕した。


一目で兄の車だと確信した。


「やだやだ~何これ、お兄ちゃんちょっとお兄ちゃんなにこれ~、っとに本当にバカ兄貴になっちゃったよ!キモい通り越してるよ、セクハラだよ、公害だよ、訴えられるよ!」


碧純は大混乱、そこにあった車はRX-7と言う世界で唯一無二のMAZDAが成功させたロータリーエンジンを積む背の低いホルムと、パカッと開くヘッドライト、リトラクタブルライトが特徴的なスポーツカーだった。


「ん?スポーツカー嫌い女子だっけ?やはりSUVか?猫も杓子SUVかって、車はSUVだけじゃないんだって、なんだそれともミニバンか?右を見てもミニバン、左を見てもミニバン、後ろを見てもミニバン、前を走るのはSUV色も白か黒、日本にはその色しか許されない決まりでもあるのかっちゅうねん」


何かのスイッチが入った基氏は昨今のSUV車ミニバン車、人気を強く抗議したが、碧純が否定したのは、そこではなかった。


「違う、そんなこと言ってない。車の形なんて別になんだって良いし、スポーツカーだって好きだよ。パパのセダンだって好きだし、エアコン効かないようなぼろい車でも別に仕方ないって思うけど、でも何よ、これ、この絵、私はこの絵が可笑しいって言ってるの」


基氏の愛車RX-7は、俗に言う痛車。


ボンネットには基氏が書いているライトノベルタイトル『お兄ちゃんのためならパンツもあげるよ』と、大きく書かれ、4人の二次元美少女がパステルカラーのシマシマ模様のパンツを手に差し出しているイラストが描かれていた。


ドアには2人ずつ左右に描かれていた。


オタク大好きパステルカラーのシマシマパンツを手にはしているが、制服はちゃんと来ていて露出度は低い。


実際にはペイントではなく、ラッピング車だが、碧純はそこまでは知識はない。


「自分の作品を愛さないでどうする?しかも、神絵師が担当になってくれたんだから普通に痛車にするだろ」


「お兄ちゃんの普通の基準が、わかんない~、ほんと、バカ兄貴だよ」


大粒の涙を碧純は流しながら、基氏に小さなショルダーバッグで尻をブンブンと殴った。


痛車、彼氏が乗っていて欲しくない車ナンバーワン。


例えそれが高級外国車でも、多くの女性は拒否権を発動する。


女性に人気のアニメだったとしても、多くの者は拒否権行使、二度と連絡は来ない。


基氏の愛車は、痛車でなかったなら格好いいスポーツカーって評価だけだったはず。


しかし、『お兄ちゃんのためならパンツもあげるよ』のロゴは衝撃過ぎた。


それに妹を乗せようとする兄、正気を疑われてもおかしくないだろう。


「これやだ!電車で行こうよ」


「しかしだな、買い物だろ?車で行かないと荷物多いし、それとコストコも寄りたいし」


「え?コストコ?」


「そうコストコ、車で行かなかったら、ちょっとした買い物も厳しいんだって」


今まで手の付けられないほど泣いていた碧純にとってコストコと言うキーワードの魅力は大きかった。


「ソフトクリーム買ってくれる?」


「あぁ、あの濃厚で美味しいやつは絶対だな」


「ティラミス買って良い?」


「二人で食べるのはキツいぞ。碧純が食べるっていうなら買ってやるけど」


「うん、食べる」


今まで泣いていた碧純は食欲に負けた。


日本車には珍しいほど車高の低いRX-7に乗り込むと、


「この車、最近あの少年名探偵で出て来て人気の車なんだけどな」


と、言いながらエンジンをかけた。


「コ●ン君?あっ!出て来た出て来た、え?これなの、お兄ちゃん、イラスト全部消して色塗り直そうよ~、真っ赤にしようよ。真っ赤のスポーツカー格好いいよ。それだったらちょっと自慢できるのに」


「絶対、嫌だ。これで飯食ってるのに、なんで恥ずかしがらなきゃならん」


「お兄ちゃんの萌え豚」


「萌え豚上等って、どこでそんな言葉覚えた?」


「ネット」


 そう言ってスマートフォンを見せていた。


「ほら、運転手はスマホ見ちゃだめだからしまって。ほら出発するからシートベルト」


 走り出すと独特のエンジン音が耳に入ってきた。

 

 少しかん高いエンジン音。モーター音に近いなどとも表現される音。


「この音が良いんだよ」


「うん、女の子は走れば何でも良いと思っているから」


「だったら痛車だって」


「それは絶対だめだと思う。だって妹がパンツ差し出してるイラストの車に実の妹乗せているんだよ、バカ兄貴通り越して変態兄貴だよ。弩弓の変態だよ!まだ大洗の、あのアニメだったら『茨城県愛』で、ごまかせるけど」


「バカ兄貴がジョブチェンジすると変態兄貴なのか?実の妹ではないけどな」


「うん、それはね。でも、妹でしょ私」


 実の兄妹ないのは二人とも知っている。


 だが、実の兄妹のように育っていてそれを『兄妹』と呼ばない方が違和感が大きかった。

 

 基氏も『実の妹』そう強く思うことで自制心が働いている。


「だな」


 そう答えるのが精一杯だった。


「お兄ちゃん、これ確かにうちの砂利道だと入れないね、つんのべりそう」


「だろ?」


「パパに言う?ショベルカーで山崩すよ?砂利道も舗装すると思うよ」


「マジで始めるからやめて、俺の車のために山崩し始めて、それこそサーキットとか言い始めそうだから父さんは」


「あははははは、確かに。遊び場、黙って黙々と作っちゃったもんね」


「んだから」


「お兄ちゃんがザリガニ採りしやすいように川も流れ変えちゃったし」


「しまいにゃ~岩魚やら鮎やらニジマスやら放していたろ?父さんは、やり過ぎるんだよ」


「確かに。遊ぶ池まで作っちゃったもんね~今、あそこでスッポン飼い始めてるよ」


「ペット?」


「食べるんだって」


「流石、父さん」


 真壁家は田舎、ポツンと一軒家がいつ取材にくるかわからない山奥。


 その山はすべて真壁家所有の山林。

 

 田畑だけでも東京ドームで表現するような広さを持つ裕福な農家。


 娘や引き取った甥を大学まで出させるお金に困るような家ではない。


 だからこそ、佳奈子と忠信はどこぞの馬の骨より、基氏と碧純の結婚を望んでいる。


 なにより基氏を可愛く思っている。


 基氏の愛車がスポーツカーなのを知れば、忠信は本当に庭にサーキット場を作り始めてしまうだろう。


 ポツンと一軒家で、休耕田をゴルフ場にしてしまうのと同じような感覚で。


「次の印税入ったら、普通のSUVかミニバン買うつもりだけどな」


「あはははっ、普通の車?あはははっ、さっき否定しまくってたくせに」


 基氏の愛車が異常なのを本人が認めているのが碧純にとっては笑いたい所だった。


「父さん母さん連れて、温泉に行きたいからな。ほら、これ、四人乗られるけど後ろ狭いだろ」


「え?嘘、この車って四人乗りなの?」


 碧純が後ろを見ると、碧純ですらお尻がハマってしまうような座席と、四人乗りの証である後部座席のシートベルトが見えていた。


「構造の前に、この痛車ってのにパパは乗りたくないと思うよ。ママは大笑いして近所で笑い話にしそうだけど、あっ見せびらかしに行きそう」


「確かにやるよな母さんなら。MT車も平気だし」


 そんな想像を苦笑いで話しながら、約15分ほど片道3車線もある太い道を進むと大きなショッピングモールが見えてきた。


「わ~凄い大きい~」


「内ジャスと負けないくらい広いぞ」


 その近くにはタワーマンションが建ち、アメリカの会員制大型スーパーもあり、道路を挟むと高級車の販売店が何店舗も並ぶ地になっている。


 つくばエクスプレスが開通して再開発が急激に進んだためだ。


 ここを見てしまうと茨城県の中心はここなのではないか?と、錯覚するほどだ。


 水戸の駅前、特に20年前まで繁栄していた水戸駅北口通り、今はその痕跡が消えかけている。

 

 南口のが発展している。


 しかし、茨城県県庁所在地水戸市も例外ではなく、郊外型のショッピング施設が人気で、駅前は完全に時代遅れになりかけている。

 

 やはり無料の平面駐車場がないのが影響している。


 百貨店の多くが持つ古い設計の立体型駐車場。

 

 昨今の大型化した車だと大変使いにくい。


 百貨店が時代の負け組になった要因の一つと言って良いだろう。


 それでも水戸の百貨店はすぐ近く、地下に公営の広い駐車場と面しているから、まだ良い方なのかもしれない。


 つくばは東京へのアクセスもよく、ちょっと筑波山の方に行けば自然豊かな土地となり、東京勤めの人達の為の新しいベッドタウンとして人気。


 これからも開発は続いていくだろう。


 広い駐車場に車を止めると、二人は店に入った。


「こら、腕にしがみつかない」


「え~だってこうしてないと迷子になるじゃん、お兄ちゃんが」


「俺が迷子かよ?」


「うん、お兄ちゃんが迷子、はははははっ、碧純的に今のポイント高い?」


「どこで覚えた?それより、何が買いたいんだ?」


「運動靴買いたいんだよ。それと鞄、教科書学校に置いて良いって言うから、通学用に小さい鞄が欲しいかな」


 昨今の学校は生徒の負担を考え、宿題が出ていない教科やテスト前でなければ教科書を机に入れたままで良いと言う風潮に変わってきている。碧純の通う学校は柔軟で先進的、そう言う物はすぐに取り入れるタイプの学校だった。


 成長期に重い教科書を毎日背負わせるのは、医学的にも良くないと発表され、海外では、キャスター付きの鞄がスクールバックになっていたりもする。


 日本は遅れているのか?それとも鞄業界との忖度なのか?祖父母のささやかな楽しみを取るなと言うのか未だにランドセルが続いているが。


 一時期テレビで取り上げられ話題になったのだが、今は忘れ去られている。


 日本で最大ショッピングモール運営会社がランドセルのCMをやっているのを見ると、そう言うことか?と勘ぐってしまう。


「先ずは靴屋だな、何件か入っているが運動靴なら、ABCかな?」


「うわ~流石都会、流通センターじゃない」


「いや、流通センターも悪くないだろ」


「うん、そりゃ~ね、でもお兄ちゃんサイズないじゃん」


 基氏の足をちらっと見てケラケラと碧純は笑った。


「どこだってほとんどないよっとに29センチで止まってほしかったよ」


 事実、基氏は大足30センチの靴、田舎だとなかなかない。いや、都会でもなかなかなく、基氏は靴を買うときは通販が多かった。


 慣れ親しんだメーカーなら、ほぼ通販でも問題なく、探す手間が省けた。


 お洒落な者なら、今ならスポーツメーカーの公式サイトでカスタマイズして作れるらしいが、基氏も碧純もそこまでは手を出してはいなかった。


 靴屋は三階にあり、基氏は慣れた様子でエスカレーターで上がると、碧純は目をキラキラさせて周りを確かめていた。


 吹き抜けを上るエスカレーターは周りがよく見える。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん、アクセサリー屋さんあるよ」


「うん、あるなぁ」


「あとで見て良い?」


「かまわないけど、高いのは買えないからな」


「大丈夫、おこづかいいっぱいパパくれたから」


「無駄遣いするなよ」


 軽くチョップを頭に当てると


 舌を軽く出して笑った。


「ふるっ、今、それやる?」


「誰もやらな~い」


 にんまりと笑って突っ込まれた腹いせに、基氏の横腹を握りこぶしで軽くドスドスと殴った。


 ショッピングモールの中は休日のため、人は多く、本当に手を掴んでいないと離れてしまいそうだった。


 慣れているなら離れても問題ないだろうが、初めてだと待ち合わせも少々やっかい。


 エレベーターやエスカレーターがあっちこっちにあり、立体的迷路と言えば立体的迷路だ。


 車だって置いてある場所、入ってきた入り口を間違えば見失いそうになる。


「すごいねぇ~」


「俺、曜日気にする職業じゃないからな平日にしか来ていないし」


「だよねー」


どことなくアニメで聞いた返事を返してくる妹に基氏は疑問を抱きながらも目的の靴屋さんに入った。


「選んで来い、俺は一周したら、ここで待ってる」


 そう言う基氏に、疑問も持たずに碧純は棚の靴を手にしては見ていた。


 兄はだいたいサイズがないから諦めている。それを知る碧純は靴屋での兄の行動を熟知していた。デザインよりまず12インチと書かれている箱を探して、開けて確かめるのを基本としている。極端に小さいサイズの靴や大きなサイズの者とっては普通の買い方だろう。


 基氏は店を一周して12インチの箱を3箱を見つけ中身を見て、好みの物ではなかったらしく、碧純が見える所にある試着用の椅子に座った。

 

 碧純のサイズは一般的な24センチくらいだ。サイズも色も豊富にあり、服を買うように時間がかかる。


 さらに履き心地を確かめるのだから、服より時間がかかる。

 

 30分経過しても兄は碧純の行く先を目で追っていた。


 スマートフォンでもいじれば良いのだろうが、基氏にとって妹は大事な預かり人であり愛する人、隣で靴を選ばないまでも、保護者としての目線、ナンパなどされないか気がかりだった。


 身内のひいき目ではないが、実際、碧純は可愛い方の部類に入る。


 身長は低いが、胸は・・・・・・スレンダーと言ってこう。


 目は大きく、キラキラと輝く。鼻筋も通っていて顔の造形に文句を言えば謙遜になるほどだ。


 周りと比べると少々幼くは感じる顔立ちだが、それがまた可愛さを倍増している。


 1人にしておくのを心配をしてしまう。


 碧純は何足か試し履きをしては、棚に戻すを繰り返していた。


 ちょこちょこしていて小動物のように可愛かった。


 基氏は飽きずに見ている、見とれている。


45分経過、


「お兄ちゃん、これどっちが良いと思う?」


 片方が国産メーカーで、軽さ重視、ランニング向きの通気性の良い物、片方は海外メーカー1・2を争うブランドのバスケットボール向きのシューズだった。


 エナメルがお洒落にあしらわれて、少々通気性は良くなさそう。


 最新モデルでどちらも『万』単位の値段だ。だが、靴は足にしっかり合う物が良い。


 重要視するのは履き心地、そこから財布の中身と相談。


「ん~これから蒸れる季節だから通気性が良い方が・・・・・・いや・・・・・・雨も多い季節だから、少しの雨なら水を通しにくい、そのエナメルが綺麗なバッシュも良いか」


「あっ、意外にまともの答えだ」


一言驚いたように悪戯混じりに言い、その後真面目な困り顔で続けた。


「そうなんだよね~足蒸れるんだよね~って私の足臭くないからね!お兄ちゃんが変なこと言うから気になって仕方ないじゃん。バカ。靴の中、毎日確かめる変な癖つきそうだよ。っとに。それより、運動靴さぁ~学校推奨のをママが買ってくれたけど、合わないんだよね~長距離走足痛くなるし、2足は予算オーバーかな、ママも贅沢だって怒りそう」


 学校推奨の運動靴と言うのは流石に高校ともなれば強制ではなく、ただ、昔の名残なのか、推奨運動靴として存在する。


 大概の入学生は買い、周りの様子を見ながら自分の好みの物に変えていくのが多い。

 

 空気を読む、高校生活で勉強より重要なのは、そう言う人間関係性の勉強な気もする。


 中学までではそれは完成されない。

 

10代後半戦、そこが大切だ。


 心身共に完成形に向かっている最後の仕上げ。


 必ずしも学校と言うくくりの必要性はないが、社会性を学ぶ手段はあった方が良い年頃だろう。


 碧純も空気を読むその一人で、周りが少しずつ履き慣れた靴などにしているのを目にしてそろそろ良い交換時期だと感じた。学校推奨靴は皆が買えるように安物でクッション性が悪かったりもする。


 靴は日々研究され、次々にクッション性の良い物や、それこそ長距離を走るためにバネ板まで入っている靴が存在する。


 学校推奨は大概時代遅れ。


 靴を推奨品を校則で指定しているのは実はブラックに近い。みんな気がついていないようだが。


「蒸れる足・・・・・・蒸れる妹の足・・・・・・蒸れるJKハァハァハァハァ」


「はい、ストップ、お兄ちゃん別世界行きだしてなかった?変態兄貴になりだしてたから」


「すまん、ラノベ作家脳がつい妄想の暴走を始めて」


「それキモ、お兄ちゃん、犯罪に走らないでよ、妄想は口に出さない」


「犯罪は大丈夫だよ。二次元の妄想が楽しいのであって、三次元には興味はない」


「益々キモいよお兄ちゃん、キモ兄だよ・・・・・・」


 ジト目を通り越して、鷹の目ミホークのごとくにらんでいた。


「一足分は俺が出してやるから二足買ったらどうだ?一足分は母さんからので必要経費にしているんだろ?」


「え?良いの?」


「脳内妄想が暴走する前に店を出たい」


 兄にそう言われると納得の表情を見せレジを済ませ店を出た。


「お兄ちゃんさぁ、彼女さんと買い物とかしてもこうなの?」


「彼女?いないぞ」


「え?だって平日にここ来るんでしょ?隠さなくても良いよ。看護師さんとかそう言う職業の人?」


「買い物くらい1人で来るから。ここ、本屋でかいし。だいたい俺に三次元美少女と買い物に来いと言うのか?ホログラフィックな彼女を連れてこいと?等身大美少女フィギュアと?」


「うん、テレビで見たけど実際自分の兄がそれをするのは想像したくない。お兄ちゃんさぁ、ガールフレンドくらいいないの?見た目は悪くはないんだしさぁ」


「オタクの兄にそれを聞くとか、常識を知らないようだな」


「ごめん、いないのね」


 そう言うとなぜか一安心と言うため息をしにんまりと笑いを見せていた。


「ほら、次は鞄買うよ」

 

 碧純は兄の手を取り次の店を促した。靴と鞄、なんで似ている漢字にしたんだろう。作った人を恨みたいと思った人は多いはず。特にテストの時。


「鞄は適当にふらふら店を回るしかないな。女性物の店入ったことないし、あっ、本屋寄らして」


「あっ、うん、私も見たい本あるから良いよ」


 大きな本屋が入っており、碧純も何冊かファッション雑誌と料理本と、勉強のための参考書などを手に取っていた。


「あれ?お兄ちゃん?ん?誰かと話してる。本探しているのかな?」


 近づくと基氏は店員さんにペコペコしていた。


「え?お兄ちゃんなんか犯罪やらかした?なんで謝ってるの?書店で覗きする人多いって聞くし」


 本屋は実はのぞき魔に人気のスポット、本に集中している女性に近づきスカートの中を盗撮する。


 触ったり近くに行って匂いを嗅いだりすると言う。


 卑劣だ。神聖な本屋でそんなことをするやつは、ロシア文学の刑にすれば良い。感想文20枚。


 碧純はすぐにそちらに向かっていき、陳列棚に隠れながら会話が聞こえる距離に近づいた。。


「茨城先生、本良い具合に売れてますよ。こないだ書いて貰ったサイン効果もあって」


「ありがとうございます。店長、今度新刊も出ますから、良い位置に並べていただきたく」


「大丈夫です。地元在住作家としてポップ書いて平積みさせていただきますから」


「ありがとうございます。是非よろしくお願いします」


 お兄ちゃん仕事だ。ちゃんと社会人してる。

 

 碧純はその姿に感動した。だが、声がかけられない。


 なぜなら『お兄ちゃんのためならパンツもあげるよ』今出て行けば、店長さんらしき人に、どんな目で見られるか想像してしまったからだ。


 自分で会計済まして、店の外で待つか・・・・・・。


「あれ?碧純?碧純どこ行った?」


「え?先生どうしました?」


「妹と一緒に来ているんですけど、見当たらなくなっちゃって」


「え?先生の妹?実在するんですか?店内放送で呼びましょうか?」


「はははっ、店長酷いなぁ~実在の妹いますよ。あっ、店内放送お願いできます?あっ、スマホ、ちょっと失礼します」


 ポケットの中で振動するスマートフォン。画面に碧純からのメッセージが表示された。


『店の前で待ってるよ』


「あっ、メッセージ来ました。買い物済んで、もう出たみたいなので大丈夫です。では、よろしくお願いします」


 基氏は丁寧に頭を下げて店の前で待つ碧純に向かった。


 店長はそっと見ていると、ちんまりとした女性がいるのに驚いた。


 妹いるのに妹物書くんだと。


「お兄ちゃんちゃんと社会人してた」


 憧れの眼差しで見る碧純。


「驚いたか?」


「うん、ちょっとね」


「俺は碧純がいなくて驚いたぞ。店内放送で呼んで貰おうかと、いたっ、なんで蹴る」


「バカ兄貴、スマホあるじゃんっとに、それにお兄ちゃんのいや、茨城基氏の妹だって見られたくない、タイトル恥ずかしすぎるんだからね。少しわかってよ」


「ごめん」


「ほら、次行くよ次」

 

 意外に重い雑誌多めの袋を基氏に突き出すと、基氏は当たり前のごとくそれを受け取った。


 ふらふら回りながら、少しずつ買い物袋は増えていく。それを当然のごとく基氏が持つ。


 服も春夏物を買い求めていた。部屋着なども生活に必要な物を少しずつ増やしていく。


 特に贅沢品を買っているわけではない。あとからチェックすることになっている母親もレシートを見れば納得するような買い物が続く。


 そこそこ多めに預けられているお金の管理は後から母親にレシートを送る約束になっている碧純。


 贅沢品で自由に使えるのは父親から貰ったお小遣いだった。でも、無駄遣いを避けている。


 碧純が選んでいた服は、ふんわりとしたワンピース物が好きなようだった。


「碧純、一、二本動きやすいズボンも買っておけ、お兄ちゃん出すから」


「ん?持ってる事は持ってるよ。でもお兄ちゃん出してくれるなら新しいの欲しいけどなんで?」


「そういう所に連れて行ったりすることもあるから」


「あっ、案内してくれるって事?お兄ちゃんまだあの趣味続いているんだ?うん、わかった」


「うん、たまにだけどな。続いてるぞ」


「そっちの趣味に集中してくれたら、恥ずかしくないのに」


 小声で言った。先ほどの本屋で作家としての行動を目の当たりにすると全否定がしにくくなっていた。

兄の趣味を知っている碧純はそれだけで納得してちょっと嬉しく、春夏に活躍しそうな薄いブルーと、グレーの七分丈の通気性の良さそうな布のパンツを買った。


「ちょっと疲れた。取り敢えず昼飯にしよう」


「うん、良いよ、だいたい買えたし。それにしてもここ広いもんね~なにげに私も疲れたよ、なに食べようかな~」


「ここに来たら、とんかつだ」


「え~パスタとかお洒落なの食べたい、ねぇねぇドリア専門店もあるよ」


「いや、とんかつだ。これは譲れない」


「なにそれ~まぁ~荷物持ちしてくれている兄の言うことも聞くのが優しい妹かにゃ?」


「優しい妹は兄に荷物持ちをさせない気がするがな」


 基氏のこだわりで、このショッピングモールに来ると、決めているとんかつ屋があり、そこで遅めのお昼ご飯となるのだが、サラダ食べ放題が付いてきて碧純は意外にもお洒落なとんかつ屋でご満悦だった。


「お兄ちゃん、肉、ぶ厚いよ、凄い、衣サックサック、ご飯も炊き込みご飯や雑穀米も選べてサラダも食べ放題なの?」


 最近多くなってきたちょっと高めのとんかつ屋は進化している。


 とんかつは家庭料理ではなく、外食料理だと進化した感じすら最近している。


 高級銘柄豚で、極厚とんかつ。家庭ではなかなか揚げるのは難しいものだ。


 お腹いっぱいになった碧純だったが、まだ買い物をする気力はあり、


「お兄ちゃん、あとアクセサリー屋さんちょっとだけ見たい、お願い」


 手を合わせてウインクして頼む妹の頼みを断る事が出来ない基氏は碧純が目を付けていた店に入った。


 リーズナブルな普段用アクセサリーから、ブライダル商品も取りそろえるお店だった。


 商品棚には、キラキラと輝く色とりどりの宝石が並んでいた。


「碧純、父さんからのお小遣い無駄にするなよ」


「わかってるって」


 商品棚を碧純はぐるっと見て回ると、ブライダルの棚で足を止めると


「良かったら試着してみません?未来に向けて今から彼氏さんと考えるって楽しいですよね」


 二人は、え?とした顔を一瞬してしまった。あからさまにまだ結婚の歳でないのがわかる碧純を見ながらも、そうやって店員さんが話しかけてきた。営業トーク。店には客がまばらで忙しくなかったのだろう。


 そこから話を拡げ、上手く彼氏にほどほどの値段のプレゼント出来るような商品に誘導していく高度な営業テクニック。


 碧純は上機嫌で、


「はい、高校卒業したら結婚する予定なんですよ」


「おっおい、碧純、ちょっ」


「なにダーリン?」


 お尻の肉を軽くつねってニコッと笑うとそれ以上の言葉を言わせないと言う鋭い目に変わっていた。


 妹のお遊びに付き合うのも兄の役目か、そんな風に思いそれ以上の言葉をあきらめた。


 碧純は進められるがまま、サラリーマン平均月収三倍の商品を二、三点見せて貰っては、


 ほっそりした指に合わせてみた。


「ダーリンどう?」


「おっおう」


「よくお似合いですよ。綺麗な指ですもの」


 にこやかにセールスの微笑みを見せていた。


「最近だと値段を抑えて結婚指輪だけになされて、その結婚指輪がちょっとゴージャスになっていたりもするんですよ。こちらなんてそう言った商品です。婚約指輪ってなかなか普段使い出来ませんからね」


「へぇ~そうなんですか。でも、やっぱり憧れます」


「はい、女性の一生の宝物ですから気持ちはわかります」


 碧純が見ている隙に基氏が少し距離を取る、すると心引かれる商品棚、


「お兄ちゃんどうしたの?ん?」


 茶番に気がついている店員さんは特に無反応で、


「こちらは最近人気のライトノベルとのコラボレーション商品となっております。ヒロインがアニメの作中で身に着けているんですよ」


「青春豚野郎は妹と結ばれることをただ願っている・・・・・・」


「あら、よくご存じで」


 基氏にはそのタイトルは知らないはずがないものだった。


 基氏がライトノベル作家になるきっかけとなったライトノベル、兄と妹が結ばれる物語。


「碧純、これだったら買ってやるぞ」


「え?いいの?」


シルバー925製で、天使羽をモチーフにし真ん中にはキュービックジルコニアが輝いている商品で、一万五千円と手頃なネックレスだった。高校生なら親や祖父母、彼氏にプレゼントされてもおかしくない値段。


 これが倍の値段になれば高校生向きではない。


 女子高生が友達と遊びに行くときにしていても、妬まれる事もなく、そして本人も友人を羨ましがる事を避けられるギリギリのラインの値段のものと言えるだろう。


「入学祝いだ。買ってやる」


「やったー、お兄ちゃん大好き」


 腕にしがみつくと店員さんは目のやり場に困ったのか少々目を泳がせていたが、


「仲がよろしくて羨ましいです」


 営業スマイル満点を見せた。


「あっ、着けていきます」


 基氏が会計を済ませると、碧純がラッピングしようとする店員さんの手を止め、鏡で確認しながら今買ったばかりのネックレスをすると、


「お兄ちゃんどう?可愛い?」


「うん、この作品に出てくる妹が神でな」


「お兄ちゃんに聞いた私がバカだった、イー」


 歯を食いしばって見せた。


 それでも基氏に買ってもらえたことが嬉しく、鏡を見直してはニコニコしている碧純、後ろから基氏は暖かな目線を送っていた。似合うぞと素直に言えない。


「ほら、次行くぞ、食料の補充とティラミス買うんだろ?」


「あと、ソフトクリームも」


「はいはい、わかってるって」


そう基氏は促し、いつまでも鏡で買ったばかりのネックレスを楽しんでいる碧純手を引き、近くのアメリカから上陸した会員制大型スーパーに痛車で移動した。


この店は写真付き会員証が必要で、年間会員費を支払っている。


「ひたちなか店にママとよく行くけど、他の店舗って初めて」


「そんなには変わらないぞ、パンの種類が少々ちがかったりするくらいで」


 両店舗を知る基氏は碧純が過度な期待をしないように言うと、


「でも、ソフトクリームはあるんだよね?」


「あるよ」


 イートインコーナにあるソフトクリームはとても濃厚で量もあるが、安い。


 それ目当てにくる客も少なからずいた。


 そのコーナに入るのにも会員証は必要で、碧純が1人で入る事は出来ない。


「ソフトクリームは買い物が終わってからだ」


「は~い」


 その店は入り口からまず家電や、季節のアウトドア用品とかが出迎える。


 流石に引っ越しを済ませたばかりの碧純は家電も買いそろえたばかりなので、特に興味を示さず、お菓子のコーナーとなる。


 そのお菓子の袋ときたら、ごくごく普通のスーパーで売られているお菓子の倍以上、もしくは箱入りのまま、まとめ買いとなる。


「お兄ちゃん、お菓子買って良い?」


「遠足のおやつは500円までだ」


「お約束なんだろうけど、ここで500円は厳しいよ。一番でかいポテチをリュックに詰めていくだけになるじゃん。そんなことしたら、他が入らないよ」


「冗談だ。賞味期限までに食べきれるなら二つ三つ買ったら良いさ」


「だよね」


またどこがで聞いたフレーズをどこかで聞いた言い回しで返事をした。

基氏は気にもしていなかったが。



~真壁碧純~


お兄ちゃんを二次元から連れ戻すにはまずは2.5次元まで引き釣り出さないと。


そんな考えから碧純は、スマートフォンで見られるアニメのサブスクリプションに登録した。月額500円。


そのくらいの登録ならスマートフォンの料金管理をしている母親も許した。


アパートにはWi-Fiが引かれており通信料の心配はない。


そこでまず見たアニメは現実離れした異世界ものでなく、自己投影しやすい青春ラブコメだった。


『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』何が間違っているのか気になり見たが、こじらせた男女の物語。


碧純も同じ高校生の為かこれならと、見入いり、二度目を見て、ちょっとギャル系のヒロインと妹の口癖をチェックしていた。


基氏にそれで返事をしていれば、妹の魅力とアニメの魅力がマリアージュして、2.5次元、もしくは3次元に興味が戻るのかと打算していた。


『妹的にポイントが・・・・・・』『だよね』『そだねー』、日常でも使いやすく違和感がないものだ。

だが、基氏はそんなことは特に気にするそぶりも見せないでいた。



~真壁基氏~


 お菓子を買ってカロリーメイトも箱買い、一箱多めに買っておくか。碧純もいるし非常食として・・・・・・。


「お兄ちゃん、そんなにカロリーメイト買わなくて良くない?お昼ご飯くらい私用意するからさっ、お弁当にしてあげようか?実家からも米と野菜届くじゃん、あとパパが絞めた鶏と、仕留めた猪」


「うん、届いてた。一人暮らしで困るくらいに届いてた。自炊しないからほとんど大家さんにあげたけど。これは非常食だよ。碧純の分まではなかったから」


 碧純はそれ以上言うのをためらって無言で頷くだけだった。


 基氏の本当の両親は自然災害で亡くなっている。その為、基氏は自然災害に敏感だった。


 心の傷を触るほど碧純は非常識ではなく、基氏の事をよく理解していた。それでなくても、非常食は大切だ。三日分の水と食料の備蓄はしておかないと。


「じゃ~水も買っておかないとねってさぁ~、お兄ちゃんのあの変な車に入るの?」


「変な車言うな。大丈夫、後部座席を前に倒せば入る」


「そうなんだ~」


 車の構造をまだ理解していない碧純にとって後部座席が倒れたくらいで荷室が確保できるのかと疑問だったが基氏に任せておけばなんとかなるだろうと、それ以上口にはしなかった。


「でもさぁ~流石にお肉とか買いだめは出来ないよね~実家みたいに冷凍庫ないし、猪だけじゃなくて牛肉も食べたいし」


「父さんに牛肉を頼むなよ。飼い始めて自分で絞めるぞ」


「パパなら確かにやりそう・・・・・・」


「冷凍庫だけってのが家にごくごく普通に家にあるってのも田舎の証明だから、あまり口にしない方が良いぞ」


「お兄ちゃん、流石にそれは考え古いよ。偏見だよ。今は冷凍食品が充実しているから、冷凍庫だけ別に買い増やすご家庭も当たり前なんだってテレビでやっていたよ。ほら、ここの冷凍食品だって凄いじゃん、あっカタツムリあった」


碧純はエスカルゴを見つけて買うかどうか迷っていた。忠信のつまみでたまに食卓に出されていた。勿論、畑のカタツムリではなくちゃんと買った物。


日本のカタツムリは食用ではない。それどころか様々な病気を引き起こしかねないから食べてはだめだと、言われている。エスカルゴはちゃんと食用として育てられた物だ。


「碧純、多分入らないから。そっか、最近冷凍庫って普通なんだな。借りてるガレージに置けなくはないから、検討の余地はあるかな。物語でも注意しないと・・・・・・」


「お兄ちゃんの車では運べないけどね」


「実家みたいに軽トラはないからな」


 田舎の足、一家に一台、1人一台と言って良いほど、田舎には軽トラが普及している。


 小回りがきいて山道もガンガン登り、壊れにくく、自転車代わりに近い。


 ちょっとした家電なら自身で積んで持ち帰るのもごくごく普通。


「お兄ちゃん、ティラミス忘れないでよ~」


「本当にそのバケツサイズの食べられるのか?お兄ちゃんは1人分だけで良いんだぞ」


「大丈夫、私みんな食べるから」


ニヒッっと白い歯を笑って見せたその白い整った綺麗な歯が虫歯にならないと良いがど、基氏は思っていた。


 体重より虫歯の心配。


 碧純は食べても太りにくい体質なのか、代謝が良いのか心配はする必要はなく、もっと身長に栄養行けば良いのになっくらいにしか思っていなかった。そして、ちんまりした胸にも。


 常温でも保存の利く食料と水をカートに乗せ、朝食用に人気の袋詰めパンもカートに乗せ、忘れずティラミスを入れると碧純はカラフルな大きなケーキにも目が食いついていた。


「碧純、ティラミスかどっちかにしなさい」


「わかってるよ、もちろん、でも可愛いなぁ~って」


 アメリカンな、その大きなケーキには色とりどりのクリームやチョコレートでデコレーションされておりカラフル。現代的に言えばインスタ映えはする。


 女子高生の碧純にはそんな考えがよぎっていたのかもしれないと、基氏も理解はしていた。


「ほら、シャンプーとかボディーソープとかもここで碧純の買って行くから、化粧水くらいは使うんだろ?化粧品も必要なら買うし」


「え?良いの?」


「友達やクラスメイトがしているくらいの事なら別にかまわないぞ。ケバケバしい化粧は許さないけどな」


 化粧水なども3本セットで売られており、高いのか安いのかわからない基氏だったが、必要な物はこの際だと買って行こうと考えた。


 化粧水の他、日焼け止めや制汗剤など次々にカートに入った。


 いつの間にか大きなショッピングカートは満杯になる。


「やっと、ソフトクリーム食べられる」


 レジを済ませイートインコーナーのソフトクリームを買うと、2人は空いている席に腰を下ろした。濃厚なソフトクリームで量もたっぷり。本当にこの値段で良いのか?と思わせるソフトクリーム。


「お兄ちゃん、デートみたいで楽しかったね」


「普通に家族の買い出しだろ?」


「も~お兄ちゃん、こんな可愛い妹が一緒に買い物してあげてるんだよ?」


「いや、碧純が必要な物を買いに来てるんだよ。今のお兄ちゃん的にポイント高い」


「高くない」


 イーと食いしばり見せる唇の脇にはソフトクリームが盛大に付いていた。


 基氏は、指でちょいっと拭いてあげそれを自分の口に運び舐めると、碧純は顔を真っ赤に染めていた。


 兄が妹のはみ出したソフトクリームを取ってあげるのは、小さい頃からならごくごく自然事。


 この2人にとっても小さい頃の夏休みの記憶にはあるが、今それをされると、碧純はむずかゆく、そして恥ずかしくだけど嬉しいと言うなんともいえない不思議な温かさを感じていた。


「も~うお兄ちゃん、子供扱いまたして~」


 と、返すのが精一杯だった。


「お兄ちゃん、今更だけとこれ本当に車に入るの?」


「このくらいなら、後部座席を倒してと、あと助手席に乗せれば」


「お兄ちゃん、それ1人の時でしょ?助手席、私が座っているんですけど~」


「あっ」


女性が乗りたくないナンバーワンと言われる痛車、当然隣に人を乗せる経験は少なく失念していた。


「ティラミスとパンは抱いてくれ」


「うっ、ティラミスを抱く妹・・・・・・お兄ちゃん、ラノベに書こうとしているでしょ」


「あっ、面白いかも」

「も~車買い換えてよ~、絶対、痛車にしちゃだめなんだからね」


 碧純は念押しをして、ソフトクリームを食べ終えるとやはり碧純は、ティラミスとパンとお菓子を抱いて帰るはめになっていた。


「お兄ちゃん・・・・・・苦しい」


次の日の朝、碧純は学校で


「真壁さん、昨日、イーアスにいたよね?男の人と。彼氏?」


 そう聞いてきたのは隣の席の、久滋川亜由美だった。


「碧純で良いって」


「碧純ちゃん?で良い?」


「うん、あゆちゃんって呼ばして貰うね」


 久慈川亜由美は小さなターコイズのピアスを長い明るめの茶髪で隠している、クラスでは少し珍しいギャル系に近い女の子だった。ケバケバしいわけではなくちょっとだけ垢抜けている。


「ねえねえねえ、彼氏?いけない関係?」


 碧純はやっぱりまともな服装をさせておいて良かったと思った。


「あれ、お兄ちゃんだよ。お兄ちゃんと2人暮らしなんだ。今、休学してるけど、大学生」


「へぇ~つくばで大学生って、頭良いんじゃん」


「うっ、うん、成績は良かったと思うけどね」


「良いな~お兄ちゃん。ねぇ~知ってる?ライトノベルなんだけど『妹のためならなんでもしたいお兄ちゃん』お兄ちゃん、憧れなんだよねぇ」


「あゆちゃんって、もしかして一人っ子?」


「ううん、弟がいるけどさ~ガキで中二病真っ最中、左手に包帯巻いてさ~なんかの力が宿っているとか、バカだよね~」


「はははははっそっか」


 碧純は昔の基氏の姿を思い出していた。


「男の子ってみんなそんな感じなんじゃないかな~」


「え?碧純ちゃんのお兄ちゃんもオタク?」


「うっ・・・・・・うん・・・・・・極度のってか通り越してしまったオタクって言うんじゃないかな」


「なにそれ?」


「はははははっ、なんだろうね」


 ライトノベル作家だと言い出しづらい。妹物を書いているお兄ちゃん。誤解を与えかねない。まだ、友達関係が構築されていないクラスで変な噂になってしまうことを恐れて、碧純はそれ以上言うのをやめた。



翌週の土曜日の朝


「碧純、ここら辺案内して欲しいんだろ?筑波山神社行くから用意しな」


朝食を珍しく一緒に食べる基氏が言うと、


「え?デート?」


「ヒット祈願の祝詞を上げて貰うんだよ」


「お兄ちゃん、そんなことしてるの?作家さんはみんなしてるとか?」


「ん~Twitter仲間の作家さんでやっているのはほとんど見ないな。初詣に商売繁盛の御札貰っている人はたまに見てるけど」


 初詣で商売繁盛の御札を貰う作家や、参拝してヒット祈願をする物書きはたまにいるが、社殿で祝詞まで上げて貰っているのは珍しいだろう。

 

 しかも、一冊ごと出すたびにヒット祈願の祝詞はかなり珍しいのではないだろうか?

編集部がまとめてヒット祈願を正月にしていそうだが。


「お兄ちゃん、寺社仏閣お城史跡巡り続いていたんだね」


「良いだろ別に」


「うん、それは良い趣味だと思うよ。悪いなんて言ってないよ~」


「ほら、軽く山登りになるから、ズボンスタイルで」


 基氏の趣味は寺社仏閣お城史跡巡り、パワースポット巡りや御朱印集めが流行っている昨今、男性がこれを趣味としていても批判されることはない趣味だ。


 合コンなどでは食いつく女子もいるだろう。


 相変わらず痛車で出発する。碧純は二回目でも抵抗感があったが、諦めモードで乗った。約1時間弱のドライブ。


「同じ、つくばなのに一気に山だね、田舎だね~田植え終わったね~」


 広大な田畑が続く道に碧純は実家の風景を重ねていた。


「つくばが最近、都会の人に人気なのは、このおかげだろうな。駅に近いところはほどよく都会で、山に向かえば自然溢れる緑って」


「だよね~」


「碧純、なんかアニメ観たのか?」


「うん、お兄ちゃんかまってくれないからサブスクリプション?契約して観てるよ」


「いやいや、かまってるだろ、こうしてドライブ連れてきてるし」


「碧純的にはもっとかまってくれたらポイント高いのに」


「なんのポイントだよ、集めるとなんか特典あるのか?春のパン祭りか?」


「得点はわ・た・しってお兄ちゃん、危ない」


 思わずハンドルを握る手に変な力が入ってしまった基氏は痛車を揺らしてセンターラインをはみ出してしまった。幸い対向車はなく事故にはならなかった。


「碧純が変なこと言うからだろっとに、あぶなっ」


「ねぇ~筑波山神社って恋愛の神様なんだよね?」


「夫婦の神様だったから、そうなんじゃないか?でも確か、伊弉諾と伊弉冉って離婚するんじゃなかったっけ?」


「え?神様も離婚するの?」


「離婚ではなく死別か?確か伊弉諾が黄泉の国まで迎えに行くけど朽ちた体の伊弉冉に驚いて逃げたとか・・・・・・」


「私だったら好きな人がゾンビになってても抱きしめてキスしたいけどな~」


「脳みそくれ~って言うゾンビでもか?」


「それ、お兄ちゃんが好きなスプラッタ映画じゃん。昔だまされて観たやつ」


「あはははははははははっ、んなこともあったな」


「おかげでトイレ行くの恐かったんだからね」


「実家の別棟トイレがリフォームされて、本棟に付いた事件」


「他で絶対言わないでよ」


「言わないけど、書く機会があったら書くかも」


「ますます、お兄ちゃんの作品だって言えないじゃん」


 と、口をとがらして抗議していた。


 駐車場に着いて、大きな鳥居の前で一礼して、10分ほど歩くと社務所に向かう。


 駐車場には多くの車が止まっていた。筑波山神社もパワースポット好きには有名だが、ケーブルカーで山頂まで行ける入り口。

 山登りを趣味としている人にとっては筑波山登山道の入り口となっている駐車場。


 週末になると結構な観光客が訪れている。


 今はカタクリの花が咲き始めて、一目見ようと山野草ファンが来ていた。


 参道には筑波山温泉宿が何件か並ぶ、絶景のロケーションの露天風呂が人気らしい。


 料理も常陸牛や茨城のブランド豚ローズポークを使い、それ目当てに来る観光客もいる。


 お土産店も何店かあり、懐かしい駄菓子が売っているのが見えたりした。

 

 まだ若干の桜が残り、新葉の緑と桜色のコラボレーションと、菜の花の黄色が。


 2人はそこを通り過ぎお守りなど売っている社務所で巫女さんに声をかけた。


「あの~ヒット祈願のお祓いをお願いしている茨城基氏です」


「あっ、はい、社殿にお進みください。準備できているので先に来ている方の祭祀が終わりましたら始めますから」


「お願いします」


 様々な願い事を受けている神社にとって『ヒット祈願』もさしたる珍しいものではなく、特に反応はなく、お祓いのお金を支払って社殿に向かった。


 手を清め、口を清め。


「碧純はここ始めてだっけ?」


「ん~多分。来てないと思う。ほら、五穀豊穣の笠間稲荷神社にはパパ行くけど」


「だな。確かによく行った気はする」


「あと金砂郷の神社とか、日立の神社とかなら、あっ!知ってる?最近、御岩神社が凄い人気なんだよ」


「あ~なんか、都市伝説で話題になっているのは見たぞ、あと、人気の女優さんがネットにあげてたな」


「凄いよね~昔はそんなんでもなかったのに」


「逆にさらに昔だと水戸藩主の祈願所として大事にされていたから、今より繁栄していたんじゃなかったっ

け?鉱山が盛んな頃とかも」


「行く途中にその痕跡はあるもんね~郷土の歴史の授業で習った気はする」


「一本杉とかの近辺だな」


「うん、あの木も凄いよね~道路の真ん中だもん。今でも元気だよ。もっと育ったら道路どうするんだろう」


 御神体として奉られている太い一本杉は道路の真ん中に鎮座していた。道路の真ん中に、都市伝説が好きな者なら根拠の乏しい噂で知っている。

 

 伐ろうとすると何やら事故が起きたとかで。実際は御神体として奉られている杉だ。


 ネットで『日立の一本杉』と検索すれば様々な言われようをしている。


「ちょっと懐かしいな」


「今度、実家帰るときに寄ろうよ。日立中央インターから帰るルートなら通るでしょ?」


「あの車で実家帰るのか?」


「うっ・・・・・・やめて、ねぇ~早く買い換えようよ~」


「買い換えじゃなく買い増しだ。あの車は直せなくなるまで乗り続けるつもりだからな」


「車は別に良いんだけど、イラストはどうにかしようよ~塗り直そうよ、あの車でも実家の山の下に止めて

パパに迎えに来て貰えば良いし」


「新刊に合わせてラッピングの図柄も変えろと?新刊の表紙はスクール水着だぞ」


「バカ兄貴、やめてよね、益々、乗りにくいじゃん」


 そんな会話をしながら社殿の前でお賽銭を入れて参拝した後、脇の巫女さんに祝詞の件を言うと、準備が出来ていたので中に入ってと促された。


「お兄ちゃん、私、久しぶりなんだけど、こういうの」


「大丈夫、頭下げていれば良いから」


「うっうん」


 そうすると、他の参拝者もぞろぞろ入ってきた。あれ?


「本日はお日柄も良く参拝する方が多いため、合同で上げさせていただきます」


 神主さんが現れ一言断ってから祝詞を唱え始めた。参拝者が多く祝詞の依頼が多いときなど神社ではよく合同で祝詞が上げられる。特段変わったことでなく、また、御利益だって変わらない。長い祝詞と一連の動作を済ませると


『払いたまへ清めたたまへ守りたまへ幸与えたまへ、願い奉りますは福島県いわき市に居を構える稲川権蔵~商売繁盛のよし~願い奉りますは茨城県日立市に住む佐藤貴史~家内安全のよし~願い奉りますは茨城県土浦市市に商いを行う株式会社南茨城酒造商売繁盛のよし~願い奉りますは茨城県つくば市に商いを行いますライトノベル作家茨城基氏~『妹のためならなんでもしたいお兄ちゃん』4巻~『お兄ちゃんのためならパンツもあげるよ』3巻~ヒット祈願のよし~~~~~~』


 神主さんが真面目に祝詞を上げている中、周りがざわついているのがわかった。


 みんな必死に笑いを堪えている。

 

 当の本人はいたって真面目。自身の作品のヒットを願っていた。


 神主さん、よく笑わずに言えたなって思っている人もいるだろう。


 隣では顔を真っ赤にして、ぷるぷる震えている碧純、耐える兎に角耐える。


 笑いたいし恥ずかしいし、怒りたいし。


 お祓いを終えて御札を受け取り社殿から出ると、


「この変態兄貴うりゃ~、神主さんになんちゅうこと言わせるのよ。神様もビックリだよ」


 基氏の尻を思いつきり蹴る碧純。


「バカはお前だ、こっちは商売、真剣なんだからな。みんなに面白いと思ってもらえるように真剣に書いた作品のヒット祈願なにが悪い」


「もう、知らない、帰る」


「おいおい、せっかく来たんだから山頂行こうよ」


「やだ、今日はもう帰る。こんな恥ずかしい思いするなら、お兄ちゃんに付いてこなければ良かった」


『あっ、あの子がお兄ちゃんのためにならパンツあげる妹?』


『へぇ~結構可愛い妹なんじゃん、そりゃ~書きたくなるかぁ~』


『あんな妹のパンツなら欲しいかも』


『俺読んでいる作品なんだよなぁ~サイン欲しい』


 合同お祓いを受けた人が、こそこそと言っていた。


 碧純は逃げるように車に向かう。

『お兄ちゃんのためならパンツもあげるよ』と書かれたスポーツカーを蹴り上げたい・・・・・・破壊したい衝動に駆られたが流石にぐっと堪えて、・・・・・・秘密ならあげてもいいげと・・・・・・。


「ほら、バカ兄貴さっさと帰るよ」


 後ろから追ってきた基氏を急かした。



帰り道、お昼に寄ったファミレスでこれでもかと言うほど食べると、基氏の財布を空にすることで怒りも少し収まったらしく、


「次はヒット祈願はペンネームだけにしなさいよね。変態ラノベ作家のクソ兄貴」


「碧純、言葉が汚いぞ」


「お兄ちゃんにだけよ。なんだかなぁ~だよね」



~真壁基氏~


 よく出来た妹、料理はしっかり基礎を学んだらしく、経済的、そして健康的。


 実家からは時たま野菜や今が旬の山菜が届く。俺一人の時は料理はしないからと断っていた物。それでも届いたときには大家さんにあげていた。地の物は田舎を思い出させる。


「お兄ちゃん、タラボばっかり食べないでよ。ふきのとうも食べてよ」


 大量の山菜を天ぷらにしてくれた碧純。サクサクとする天ぷらを作れるって、なかなかの腕前。


「ん~ふきのとうの苦みがどうも慣れなくて」


「この苦みが良いんじゃん。お兄ちゃんみたいな冬眠しているかのような人には特に良いんだよ」


「良いのか?」


「冬眠していた熊が体内毒素出すのに食べるとかパパ言ってたよ」


 まことしやかな情報を言う碧純は俺の天つゆの入った皿に、ふきのとうを3つ入れた。

戻すわけにもいかず口に入れる。


「お兄ちゃんの毒素ねぇ」


「お兄ちゃん、毒溜まり過ぎてるじゃん。萌え~萌え~萌えって中毒症状の毒素だそうよ」


「・・・・・・碧純、世のオタクに謝れ」


「なんでよ?意味わかんない。みんななにか謎の病気にかかっているんだよ」


「秋葉原病的な?」


「お台場病?脳みそくれ~の萌えバージョンゾンビになっているんだよ。ニュースで放送されているの見た

けど、うなだれてぐったりしながら歩いているじゃん、みんな」


「・・・・・・それ夏コミじゃないか?暑くてぐったりしているんだよ」


「わかってるよ、っとに。それより外食ばかりだったんでしょ?こう言うの食べて健康志向になろうよ」


「ちゃんと、サラダは頼んでいたぞ」


「ちょっぴっとじゃん。これからお兄ちゃんの健康管理は私がさせていただきます」


「ポイント高くないぞ・・・・・・」


「良いのっ、とに作家さんって不摂生になりがちってネットで見たよ」


「わざわざ調べたのか?」


「たまたま、お兄ちゃんの為に調べたんじゃないんだからね。なに勘違いしてるの?キモッ」


「キモ言うな」


「キモいよ」


「キモ食べたいなぁ~」


「鮟鱇の季節は終わりましたー」


 自身をよく知っている人ほど会話は楽しい。何かを言えば何かが返ってくる。


 基氏はニヤニヤとしながら苦みが強い、実家の田んぼの土手に生える、ふきのとう天ぷらを薬だと思い食べた。

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