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アンナと小さな世界

ウィリアム

「アンナくん!・・・考え、なおせたのかい?」


アンナ

「うん・・・生きることにしました」


ウィリアム

「そうか・・・よかった」


アンナ

「先生に、聞きたいことがあって・・・マレフィス先生とシルフィリアちゃんって知り合いですよね?」


ウィリアム

「・・・ああ、そうだよ」


アンナ

「どんな関係だったんですか?」


ウィリアム

「彼からは、何か聞いたかね?」


アンナ

「ううん・・・マレフィス先生は、私の話を黙って聞いてたくらいで・・・でも、シルフィリアちゃんの名前をだしたら、一瞬だけ、目付きが鋭くなって・・・それで・・・」


ウィリアム

「・・・そうか・・・聞きたいかね?」


アンナ

「・・・うん」




ウィリアム


マレフィスくんが、シルフィリアくんを連れて、私の所に来たんだ。

彼等は、売春や人身売買を行うところから逃げてきた。

シルフィリアくんは、孤児だった為に人攫いに売られたと聞いたよ。

そして、牢獄に監禁され・・・初潮も始まる前から・・・。


マレフィスくんも同じく孤児だったが、彼の方は、その組織に拾われた。

物心付く前から、銃火器の使い方や人殺しの訓練をさせられていたようだ。


彼の初めての単独での仕事が、年の近かったシルフィリアくんの監視だった。

彼はそこで、彼女に対して行われる、様々な・・・目も覆いたくなるような惨状を見てきた。


彼女の世話も、彼の仕事の内の一つだった。


彼女に対しての蛮行は、言葉では言い表せられないものになっていった。


自分が世話を任された・・・瀕死の状態の彼女の姿が、彼を動かしたのかどうなのかわからない・・・。


彼は、仲間であった組織の人間を何人も殺して、彼女を連れ逃げ出した。


そして、私の所にきた。二人ともまだ、10代にも満たない年齢だったよ。


当時私は、孤児達が集まるスラムで闇医者をしていてね・・・。


なんとか、一命を取り留めることは出来たが、彼女の体は、子供を生むことができなくなっていた。


私の知る限り、回復した彼女を護るように、傍にはいつも彼が付いていた。



そんな二人が、なぜ離れて生きるようになったのか、わたしにはわからない。


彼女から亡くなる前に電話がきた。他にも遺言にも近い言葉を受けた人もいただろう。

だが、マレフィスくんには、彼女からの連絡は来なかった。

私が、彼に彼女の死を伝えたんだ。

それを聞いても、彼は、取り乱すことは無く、全て、わかっているような・・・そんな顔をしていた。


マレフィスくんと、シルフィリアくんには、離れていても、言葉で伝えなくとも、きっと、なにか・・・通じている部分があったのだろう。




アンナ

「そんな・・・そんな、じゃ、じゃあ、シルフィリアちゃんは・・・あの娘の人生って・・・ひどすぎるよ!!」


ウィリアム

「そんな風に考えないで欲しい。あの娘の生涯は短いものだった・・・けれど、遺したものは、小さいけれど、とても暖かなものだろう?このともしびは、君に私、そして、、他のみんなの中に永遠に残り続け、輝き続ける」


アンナ

「でも、でもっ!!」


ウィリアム

「・・・小さな世界は、いまも続いているかい?」


アンナ

「私達の、小さな世界は・・・テオと、ジョシュアがいるから」


ウィリアム

「そうかい、それならよかった。ウルフリックくん達もうまくやっていると聞いている」


アンナ

「うん・・・。そういえば、ウルくん達を引き取ったのって、先生なの?」


ウィリアム

「はは、私は一介の医者に過ぎない。薬を開発したといっても、お金があるわけじゃないんだよ」


アンナ

「じゃあ・・・」


ウィリアム

「アンナくん。彼女が亡くなった後から援助金が小さな世界に送られるようにならなかったかい?」


アンナ

「うん、援助金が定期的に振り込まれるようになったって、マリーが言ってたよ」


ウィリアム

「彼女の知り合いの一人に、財閥の関係者がいてね。小さな世界への援助はシルフィリアくんの遺言の一つだったようだ」


アンナ

「シルフィリアちゃん・・・」


ウィリアム

「・・・その財閥の人も、元は孤児だったらしい・・・運よくいい人に拾われて、後を継ぎ、総帥となった後に、孤児を助けるべく活動し、そこで、同じく孤児を助けていた彼女と出会ったそうだ」


アンナ

「・・・わたしなんて、ちゃんと家があったのに・・・」



ウィリアム

「人は 必ず何処かでつながっている のだから」



アンナ

「え・・・?」


ウィリアム

「孤児達の苦しみも、君の苦しみも、彼女の苦しみも、、全て、私達の苦しみでもあるんだ」


アンナ

「はは、先生なんだか、牧師みたいだね」


ウィリアム

「実は、元牧師なんだ」


アンナ

「・・・私達を助けてくれた人も、牧師さんって、言われてたんだよ」


ウィリアム

「人は・・・」


アンナ

「何処かでつながっているのだから・・・」




アンナ

そしてわたしは、ウィリアム先生から、財閥の人が住んでいる場所を聞いて、そこへと向かった。

塀で囲まれた大きな庭。湖があって、森もあって、、中央には、大きな館・・・。


少し、緊張しながら扉を叩くと、メイドさんが出てきて用件を聞かれる。


アンナ

「・・・あ、あの、アズナードさんに・・・シルフィリアさんのことを、聞きたくて」


アンナ

メイドさんは、シルフィリアと聞くと一瞬こちらを見上げる。

氷の様な、ナイフの様な射抜くような目・・・ちょっと、怖かった。


それでも中に入れてくれて、案内された部屋に入ると、左側に眼帯を付けた男の人。

右側に・・・着物?を着た男の人が立っていて、机の椅子に座っている男の人がいた。

眼帯の人は初老という感じだけど、あとの二人はジョシュアやテオと同じ位の年齢に見えた。


アンナ

「す、すいません、急に訪ねてきて・・・アンナといいます、今日はその、シルフィリアちゃんの事を聞きたくて来ました」


アズナード

「・・・なるほどね」


アンナ

「えっと、その、、シルフィリアちゃんって、」


アズナード

「アポも無しにいきなり来て、彼女の何を聞きたいのかな?」


アンナ

「あ、、その、どんな人だったのかとか・・・」


アズナード

「君自体は、彼女をどう思ったかね?」


アンナ

「その、すごくいい娘でした。シリフィリアちゃん、歌もすごくうまくて、子供達だって大切にして・・・」


アズナード

「・・・子供?」


アンナ

「そうなんです、シルフィリアちゃん、孤児院してて、、ご存知ないんですか?」


アズナード

「ああ!知っているとも、そうかそうか、彼女の自身の子供かと思ったよ!」


アンナ

「ぁ・・・」


アズナード

「ところで、誰から私のことを聞いたのかね?」


アンナ

「マレフィス先生とウィリアム先生にお世話になって、それで・・・二人ともシルフィリアちゃんの知り合いで・・・」


アズナード

「そうかそうか!それで、私の所にも来たと、ははは!まぁ、彼らと違って私は多忙だが、今日は偶々空いているからね、聞きたいことに答えようじゃないか」


アンナ

「ぇ、ぁ、、ありがとう、ございます」


アズナード

「所で、メイドに、彼女にはすごまれなかったかね?」


アンナ

「えっと、あ、、少しだけ」


アズナード

「ははは!ウィリアムのやつは、なにもいってないんだろうが、彼女の名前を、彼女を知る者の前で軽々しく出さないほうがいい」


アンナ

「す、すいません・・・」


アズナード

「彼女の名前は、我々にとっては、一種のフリーパスのようなものだからね」


アンナ

(シルフィリアちゃんって、やっぱりすごい娘だったんだ・・・)


アズナード

「まぁ、いい!シルフィリアのお嬢さんに感化されてね!わたしも慈善事業に手を出しているのだよ!」


アンナ

「はぁ・・・」


アズナード

「小さな世界とかいったか?あそこにも寄付金をだしたな、ははは!」


アンナ

「あ!そ、そのお礼もしたくて、来たのもあるんです!」


アズナード

「おお!君はあそこの関係者かね?まぁ、いい、それなら、私のコレクションを見たまえ!」


アンナ

「コレクション、ですか?」


アズナード

「みるかね?ははは!これが私の成果だよ!・・・見たまえこの勲章の数を!」


アンナ

「すごい数、ですね」


アズナード

「そうだろう?説明をしてあげよう。これは、確か、、そう、シリアでの難民を助けたときので、そう、これは、、そうだ!アフリカでの子供達への多額の寄付のときだ!・・・そしてこれが」


アンナ

「いろんな人を助けているんですね」


アズナード

「そうなんだよ!金の力は偉大だ!一介の平民如きが何をしても何も変わらないがね!金さえあればこの通りだ!」


アンナ

(なに、この人・・・)


アンナ

「あっ!あの・・・」



アズナード

「なんだい?」


アンナ

「そ、その・・・」


アズナード

「素直に言ったらどうだい?自慢話なんて聞きたくないと」


アンナ

「えっ!・・いえ、そんなわけじゃなくて・・・」


アズナード

「そうかい?で、彼女の話だったか?ウィリアムからは、どこまで聞いているのかね?」


アンナ

「孤児だったということとか、、」


アズナード

「ほう?それだけかい?」


アンナ

「えっと、、その・・・酷い事されてたというのも聞いて、ます」


アズナード

「なるほどなるほど、それが原因で子供が生めない体になったのも聞いているかね?」


アンナ

「えっと、聞いて、ます」


アズナード

「ははは!女としては欠陥品だが、いい女だったろう?若くして逝ってしまったのが本当に残念だ」


アンナ

「っ!!」


アズナード

「・・・ふっ」


アンナ

・・・やっちゃった、でもジェシーならこうした、よね・・・。


アズナード

「絶もクロードもお芝居はもう終わり~」


アンナ

その言葉に、ドアの前に立っていた二人は、やれやれと言った感じでソファに座る。


アズナード

「っと、さて、これで、話しやすくなったかな?」


アンナ

「ぁ・・・す、すいません。その・・・」


アズナード

「いや、寧ろ、あそこでひっ叩かられなかったら、どうしようかと思ってたとこ」


アンナ

「え、わ、わざとあんな言い方したんですか!?」


アズナード

「そだよー、人間一発キレた方が話しやすくなるってもんだ」


アンナ

「ぇー・・・」


アズナード

「はは・・・で、マレフィスも含め、まぁ、シルを知ってる奴らが、なんで過激に反応するのかってことかな?」


アンナ

「ぁ、はい、その、それだけじゃなくて、もっと知りたいなって思ったんです」



アズナード

「もっと楽にして良いよ、そこに座ろうか、それと、、一々畏まらなくていい。誰かに畏まるなら、そいつが本当に尊敬に値する人間だとわかってからにしたまえよ」


アンナ

「は、うん・・・わかりました。ウィリアム先生から、シルフィリアちゃんとアズナードさんは、慈善活動のときに知り合ったって」


アズナード

「ウィリアムからは、俺が慈善事業を始めてからシルと会ったと聞いているだろうが、孤児のときに一度会っててね」


アンナ

「そうなんだ」


アズナード

「マレフィスが血みどろで、同じく傷だらけのシルを抱えて歩いていたところを見つけて、テント作って病院開いてたウィリアムの所に連れて行ったんだ」



アズナード

「あ、そうだ、なんか飲む?なんなら酒呑む?高級なのは口に合わないから、余ってるし」


アンナ

「えっと、あの・・・じゃあ、少しだけ」


アズナード

「なにがいいかなっと・・・ああ、折角だから、これにしようか」


アンナ

「これって!」


アズナード

「懐かしいでしょ?シルの嬢ちゃんが作ってたやつ」


アンナ

「で、でも、これってもう・・・」


アズナード

「いいからいいから、こういうときに呑むべきものだし」


アンナ

「じゃあ、いただきます」


アズナード

「どぞどぞ」


アンナ

「・・・ふふ、すごい懐かしい味、それに、すごく美味しいな」


アズナード

「そうなんだよね~、めっさ高いワイン呑んだ事あるけど、これのほうが美味しく感じるもんね~。それに、天使になった歌姫~とかいうんで、その娘が作ったってことで、このワインかなりプレミアついてるんだよね~」


アンナ

「あの歌、わたしとジェシーが作った歌なんだ」


アズナード

「え?マジで?歌ってみたとかすごいあげられてるし、色んなとこで使われてるし、あ、歌の使用料とかを運営資金にしてたり~とか?」


アンナ

「あ・・・言われてみれば、そういうこと全然してなかったよ・・・。でも、私とジェシーが作った歌を、シルフィリアちゃんが歌ってくれて、それで、これだけ色んな所で流せてもらえてるから、それで満足しちゃってた」


アズナード

「はは、まぁ、そういうのもいいよね~」


アンナ

そんな話の合間に、ソファーに座っていた二人も、棚からお酒を取りだした。眼帯の人はワイルドターキー8年。もう一人の人は、剣菱けんびしというお酒を呑みだす。



アズナード

「紛争地帯というか、まぁ、治安がめっさ悪いところだったからね、傷が治った後も、少しだけ一緒に行動していたんだけど・・・」



アズナード

「まるで、アニメかゲームのようにちょうど都合よ~く、悪漢共に狙われちゃってね。で、逃げてる最中に撃たれて、その銃弾から、彼女に助けられた。そのせいで彼女は弾に当たってね」


アンナ

「傷が治ったばかり、なのに?」


アズナード

「そ、シルの裸は見たことある?」


アンナ

「え?」


アズナード

「無いか・・・俺を庇ってできた傷だけでなく、彼女の体には沢山の傷跡がある」



アンナ

「・・・シルフィリアちゃん、捕まってたときん、すごく、酷いことをされてたって・・・」


アズナード

「・・・小さな戦いなら、どこでも起こっている」



「これが現代的な兵器をもっているなら、泥臭い戦いなど起きないだろう」


「だが、そんな軍事力の無いところもある。そういうところは、制圧されるくらいなら泥臭く。血なまぐさい戦いをし、玉砕する」


「・・・だけどね、それのほうがいいこともある。後方で安全なところから無人の兵器を飛ばし、まるでゲーム感覚のように人を殺すのではない。自分の手で同じ人間を殺すという自覚ができるのだから」


「ぽちっとな!お、爆発した!人が飛んだぞ!基地を爆破だ!ヒャッハー!任務完了だ!・・・正直、これならまだいい」


「何も知らずに、そのボタンを押して、何も知らないままで、自分が誰かを殺しているという感覚が欠如した状態になるよりはね」


「人はあまりに他人に無関心であり、それゆえに起きている悲劇があったとしても、そんなのは自分には関係ないと思っている・・・まさに、傘がないってやつだ」


「傘がないは日本の歌なんだけどね、てんびんばかりという歌もよかったな・・・とまぁ、それはいっか」


「当事者としての自覚すらない・・・これこそが、俺達が直面している 戦争 だよ」


「誰が敵で誰が味方なのか、なにもわからないまま、結局は一人だ・・・それならまだ、泥臭い戦いをして、誰かと一緒に死んでいくほうがましだ」


「ま、どうでもいいことに関しては、必要以上に他人を気にする奴も居るがね」



アンナ

「悲しいけど、わかる、ようなきがする。実際の戦争よりも、もしかしたら平和なときのほうが、酷いことがおきていることもあるのかなって」



アズナード

「それはいえてる。・・・俺やメイ、っと、メイはさっきのメイドの娘の名前なんだが、、別にメイドだからメイというわけではないぜ?」


アンナ

「え、、えっと」


アズナード

「売春といえば、体を売るだけのかる~い物を想像しがちだけど、いやぁ~、マジで体売るようなところは、それこそ、なにをしてもいい、ってなとこあるからね?」


アンナ

「シルフィリアちゃんが捕まったところのような・・・」


アズナード

「そうそう、んで、俺は、そういうとこ潰して、助けた人にメイドになってもらったり、男の人にはまた、別のことしてもらったりしてんの、援助は惜しんでないつもり」


アンナ

「すごいなぁ・・・なんか、ヒーローみたいだね!」


アズナード

「いやぁ~、、そうでもないよ?ここ実は、売春宿でもあるし・・・これ、内緒ね」


アンナ

「え゛・・・」


アズナード

「なんかね、最初は俺も、どうかなぁ~って思ったんだけど・・・それしか出来ることがないからって言う人が居て、一応、学問とか教えられることは教えるんだけど・・・それでもっていう人には自主的にやってもらってる・・・」


アンナ

「そうなんだ」


アズナード

「うんむ。まぁ、それで、お互い気に入った相手が居れば、婚約もありだし、そのあたりは自由にやってもらってる。もちろん援助は惜しまない!」


アンナ

「至れり尽くせりなんだね」


アズナード

「いや、正直さ~、金持ってるから金だして済むほうが一番楽だって思うときあるけど、そっちのほうが少ないよね。潰した組織にもなんど殺されかけたことか・・・」


アンナ

「大変だし、怖いね。正しいことしてるのに・・・」


アズナード

「いや、正しさは人それぞれよ?俺がやってるような売春宿が正義で、死人が出るようなのは間違ってる!と、単純明快ならいいけど、それくらいハードじゃないと性的に興奮しない奴もいるし、そのうちに、こっちが潰されるときが来るだろうなと覚悟もしてる」


アンナ

「ハードじゃないと・・・それもちょっとわかるような気がする、けど・・・だれかを傷つけてまで、とは、思わないな」


アズナード

「まぁ、ボデーガードもいるし、、今のところは、なんとか生きてるけどね。あの二人、超やばいよ?マジつえーよ?俺は金しか脳がないけど・・・マジやべーよ。もう一人ボデーガード居たんだけど、そっちは、自分の家庭もって暮らしてる」


アンナ

「そんなにすごいんだ」


アズナード

「おうよ。眼帯くん、クロードの方は、一声かければ特殊部隊の精鋭が集まってくるし・・・着物くん、絶影のほうは、個人の能力がちょっと普通じゃない」


アンナ

「そんなに・・・あ、そういえば、マレフィス先生も、小さいころから・・・その、戦う方法知ってるってきいたよ」


アズナード

「マレフィスは、銃の腕、特に狙撃がすごいね。近接もできるだろうけど、特に狙撃がすごい。オリンピックでりゃいーのに。絶はもう近接戦特化というか、刀とかすごい、うん、すごい。運動能力もやばい、おかしい。お前現代人なの?ってくらいおかしい」


アンナ

「なんか、想像できないや、見てみたいかも」


アズナード

「ははは~、興味があるなら、ここの離れに道場みたいなのがあるから、そこで鍛錬してるし、今度にでも見に来るといいよ」


アズナード

「あそうだ・・マレフィスがちまたでなんて呼ばれているのか知ってる?」


アンナ

「え?・・・知らないよ」


アズナード

「死の医師」


アンナ

「・・・・・・」


アズナード

「外科医としての腕は、内密にセレブだけでなく、王室から依頼されるほどなんだけどね。彼は尊厳死を請け負う、数少ない医師だ」


アンナ

「わたしも、尊厳死をさせてもらうために会いにいったんだ」


アズナード

「そうか・・・殺し方が変わっただけで、結局はその生き方を変えられなかったんだな」


アンナ

「でも・・・私は、生きることを決めたんだ。だから!それで救われる人も居ると思う、もし、マレフィス先生が受けてくれなかったら、今みたいに、生きることを決めないで、本当に死んでたかもしれないんだ・・・きっとすごく悲惨な死に方で・・・」


アズナード

「いや・・・それが悪いといってるんじゃないさ・・・彼らもそうだからね」


アンナ

「え?」


アズナード

クロード、彼はジェネラルでね、軍人の家庭の出で、彼自身も女王陛下から、サーの称号を賜っている。

内乱や、様々な戦争で活躍した指揮官だった。自分たちのせいで、戦争孤児が増えていることにも、最初は悩んでいたな・・・。


で、絶影くんは、孤児してるときに知り合った一人なんだけど、なんつーか、そのときから身体能力やばかったね。

軽業っていうの?あんな感じで、猿みたいにピョンピョコ飛ぶの。

んで、喧嘩もえらい強いもんだから、兄貴!みたいな感じだったけど、なんでか、だれともつるんでない、一匹狼だった。

なんで俺と来てくれたのかよくわからん!



アンナ

「なんか、本当に、全然想像できないや・・・」



アズナード

「だろうね~。ウィリアムも・・・弱い者を助けるには、その人達と同じように暮らさねばならない。とか言ってたな」



アズナード

「あいつは、今も貧乏なんだろうか・・・酒呑みだったからな」


アンナ

「ウィリアム先生?そんなことないと思う、だって、世界的に有名な薬を」


アズナード

「ロハ同然でくれてやったようなものだろう」


アンナ

「ぁ・・・そっか・・・」



アズナード

「ま、いいさ。・・・ったく、どいつもこいつも、ギリギリになるか、駄目になるまで助けを請うてこない。こっちは金の無心を迫られてもOKなのにね~」


アンナ

「ギリギリになるまで、気が付かないのかもしれないね」


アズナード

「いや、助けられない状態なら、諦めもつくけどさ・・・俺としてはこう、なんで言ってくれなかったん!?って、なるわけさ」


アズナード

「シルの嬢ちゃんの時は、病気を治すすべないし、既に駄目だと思う言われるし、どうにもならないだったけど、それですら・・・どれくらいの月日沈んだことか・・・」



アンナ

「誰かに助けを求めるの、苦手な人は多いよ・・・わたしも、苦手だし」



アズナード

「アンナ、君は、精神的な病に偏見はない?」


アンナ

「え?無いよ、、だって、私も、鬱病で・・・みんなのおかげでよくなったんだ」


アズナード

「はは、そうか、かく言う俺も躁鬱でね」


アンナ

「辛い、よね・・・」


アズナード

「だな。俺の躁鬱はガキの頃からでね、じじぃに拾われて、まだ、財閥の総帥としてのお勉強中の時だった。俺の状態に気が付いたあのじじぃから、辺鄙な島に行って来いといわれたんだ」





アズナード

「そこで、暮らして、自然と共に生き、時計や機械もない、季節と共にゆったり生きる・・・。そんな中世のような暮らしも悪くないって事に気が付いたんだ」


アズナード

「でもね~、そこで別の国が攻めて来ちゃってさ、その時の指揮官がそこの眼帯くんだった」


アズナード

「しかし、彼はただ攻めるだけではなく、相手の動向を調べるためでもあったのだろうが・・・。俺達の話を聞き、武力以外での交渉、及び、独立自治領としてそこの島を国に認めさせるために話をつけてくれることになった」


アズナード

「そのときに、話をしたのが俺。そこの島の人間は、独自の言葉を使うからね」


アズナード

「だが煙たくあしらわれそうになったらしい。それでもサーの称号、そして、家の没落すら覚悟で・・・話を通してくれた。王の眼前で自らの覚悟を示すために、片目をくり貫いてね」


アズナード

「元々、部下からの信頼も厚かった男だ。たかが島一つの為に内乱でも起こされたら、とでも思ったのか、話の大半は通った」


アズナード

「まるでファンタジーのような話だけど、人食い族とかあるでしょ?そんな部族が住んでるような、ちっさな島って意外とあるのよ、んで、ほかの国とかと、ちょっとした衝突はあるんだよね」



アズナード

「で、彼も彼で、老いを理由に軍人を引退した後、俺の所にきて、こうやって俺ら3人はなかよ~く、やってるわけ」








アズナード

「それでも、他の女の所にいった奴が居たとしたら、、本当には愛してないってことだな」


アンナ

「そ!そんなことない!テオは、シルフィリアさんのこと本気で!!」


アズナード

「あ~・・・言い方が悪かったな、恋人としての愛がってことさ」


アンナ

「恋人・・・でも・・・」


アズナード

「恐らく、恋人ではなく、母の愛、理想的な母親像として認識されて行ったんじゃないかな?わからんけど。どちらにしても、彼女のような女性を一度、見てしまうとね。中々他の女性を 伴侶 としては愛せなくなるものだ」


アンナ

「じゃあ、アズナードさんも?」


アズナード

「ああ、独身だよ。俺だけじゃなくウィリアムもマレフィスも・・・ったく、罪な女だよ、アイツは・・・」


アンナ

・・・そして、ジョシュアも・・・。


アズナード

「おっと、そうだ。あと、マレフィスがなんで、シルと離れたのか、聞きたいだろうけど・・・。すまん!それは、マレフィス本人から聞いてくれ!」


アズナード

「聞いたら、シルならそう言うだろうなって、納得はすると思うけどね~」



アンナ

この館には多くのメイドがいる。その一人、案内をしてくれたメイドの娘にシルフィリアちゃんのことを聞いてみた。

メイドの娘はつぶやくように言う、アズナード様にとって特別な方なら私にとっても特別な方。

ここに居るメイド達はみな、アズナード様に助けられた人ばかり、


そして、アズナード様の敵になるなら、それは、どんな方であっても私達の敵だと・・・。


私の知っている世界とは違う世界で生きている人たちも居る。

でも、それは、私が知らないだけで・・・全て繋がっているんだ。



それからしばらくして、ノーベル平和賞…その受賞式にウィリアム先生が選ばれた…。


ウィリアム先生が登場したけれど、明らかに泥酔した状態で…。

「この受賞を受ける資格は私にはないんです。一人の少女に法外場所を借り法外な摂取をしていた。そうして完成したのが今現在のワクチンです。

 私のせいで彼女は感染しそして死んだ。いまもどこかで生きていたはずの少女!だれもが知っているあの歌を歌っていた少女だ!!彼女が生きてさえいてくれたら…ワクチンは無償で受けられます。かわりに、わたしのカルマも引き受けてください」



アンナ

そのあと、わたしは、、シルフィリアちゃんの家に向かった。

そこで、ウルくん達に会って・・・そのまま、手伝わせてもらうことになったんだ。


ウルくん達もワインを作っていて、それを飲ませてもらいながら、色々話しをした。



「わたし、体に穴が開いているのよ」


「・・・え?


「胸と・・・大事な所にね」


「母親からの、性的虐待よ・・・鈴をつけられて、どこの誰かわからない人たちの前で、踊らされもしたわ」


「ねえさんは、悪態をつくわたしに何も言わなかったわ・・・でも、ある日、私がお風呂に入っていたときに、ねえさんが途中で入ってきたの・・・タオルを巻いていたけれど・・・腕とか、いろんな所に傷跡が残っていて・・・それで、同じ痛みを知っている人なんだって、初めて実感したのよ」


「それよ。私たちに比べれば・・・。よく人は言うわね?あの人は苦労したんだから、私なんか、って・・・。それだけ苦労して大変な目にあったんだから、だからって・・・。でもね、私たちにとっては、苦労とかそんなんじゃない。忘れたくても忘れられないトラウマなの・・・だから、比べられること自体が、そうね・・・不愉快よ」




「ぼくも、大人から犯されたことがあるよ」


「男なのに、男に抱かれる苦しみ、しかもまだ子供だったのに、ね」



アンナ

「え、でも、みんな親から捨てられてって、そう、聞いてたけど・・・」


ルイ

「アーランドはそのまま信じてくれたみたいだけど、事実は違うよ」


ロナ

「そうよ。考えても見て、10歳くらいで瀕死の怪我をしていて、それが治った後。しかも、人から受けた傷よ?心の傷の方がもっと酷いわ。それもよくなってきて、そこからよ?」


ウル

「・・・そう、私たちが、シルフィリアとすごしたのは、僅か数年にも満たないんだ」


シーリア

「わたしだけが、ネグレイトを受けて、本当に捨てられたの。みんなは自分から逃げてきたの」



アンナ

「じゃあ、テオが言っていた、テレビとか音楽とかも聞いたことがないっていうのも?」


ルイ

「正確に言うと、意識して聞いたことはない、だね。テオのことは、仲間だと思っていたから、別に隠すことはなにもなかった」


ロナ

「それに、私たち、大きな音は実は苦手なのよ。直接ひいてくれるような音楽とかはいいんだけれど・・・虐待を受けているときに、テレビの大きな音がいつも聞こえていたの」


アンナ

「なんだか、アーランドが可哀想・・・かな」


ウル

「隠したのは、シルフィリアの所に来た理由くらいだ。それに、やはり・・・大人を意識していたんだろうな」


アンナ

「でも、私たちも大人だったよ?」


ロナ

「そうだけれどね・・・何度もきたから、慣れはしたけれど・・・最初来た時、あの人、飢えた黒豹くろひょうっていうのかしら?そういうピリピリしたものを感じたのよ」





ロナ

「ウルは勉強が駄目だったのにね、いまじゃ、物によっては学士号をもってるルイでもかなわない事があるわよね」


アンナ

「すごい、努力したんだね」


ウル

「いや、自分の力だけじゃない。シルフィリアがわたしにあった覚え方を教えてくれたからだ・・・時間は確かにかかったが、そこから発展させていって、私なりの学習の仕方を学んだ」


ルイ

「そうだね。僕は元々本が好きだったのもあるけれど・・・。だからこそ、ウルと一緒に、この子にはこのやり方がいいかな?って話し合うのは結構楽しかったりするね」


ウル

「子供は白い紙のように知識を吸収する。だから、小さなうちに色々覚えさせておくというのが、今の私のやり方だ」


シーリア

「大人になって、新しく覚えることが苦手になってたら、今出来ること、やりたい事を、無理なくしてもらう」


ロナ

「わたしは、歌とか音楽を教えているわね」


アンナ

「私たちが演奏に来た時、ボブがやってみたらって言ったら、いつかって言ってたね」


ロナ

「わたしたちを引き取ってくれた人に、楽器をやりたいっていったら、色々ひかせてくれたのよ」


アンナ

「それって、もしかして・・・アズナードさん?」


ロナ

「ええ、そうよ。知ってるの?」


アンナ

「ここに来る前に、シルフィリアちゃんのこととか聞かせてもらったんだ」


ウル

「あの人は、私たちの父親でもあり、兄でもある。年もシルフィリアとそう変わらないから、安心感もあった」


アンナ

「クロードさんと絶影さんのことも知ってるかな?」


ルイ

「ああ、あの二人は、クロードさんは数えるくらいしかこなかったけれど、今は一緒に暮らしているみたいだね」


アンナ

「なんか、二人ともすごい人らしいね」


ロナ

「護身術とかは、絶影に教わったわね」


ウル

「身の守り方や御し方は絶影に学び、指揮のとり方はクロードから学んだ」


アンナ

「二人がいるから、安心だって、アズナードさん言ってた」


ロナ

「・・・あの人、私たちの前では、明るく振舞っていたけれど、一人のときは、いつも泣いていたわ・・・」


シーリア

「それをウルが、からかったこともあった」


ウル

「そんなことも、あったな・・・」


ロナ

「で、アズナードさんが ぷんすこ!って怒って、逃げ回るウルを捕まえて・・・その後、二人で大泣きして・・・」


シーリア

「わたしたちも、一緒になって、泣いたの」


ルイ

「そういうのもあったし、ウルはクロードさんに着いていって、戦争も経験したんだよ」


ウル

「半場無理やり、な。・・・私にできること、それを探すためが大きかった。色々学べたが、同時に、深く傷ついたことも少なくない」


ロナ

「目標を掲げるのは大事だけれど、身の丈にあった目標でないと、苦しむのは自分だからね」


ウル

「確かに、身の丈にはあっていなかった。シルフィリアのようになりたいと、シルフィリアのようでありたいと・・・彼女が体験した苦しみと、比べられることを学ばなければと思った。それは、間違っていたが、同時に正しくもあった・・・」


ルイ

「一時期のウルは、あぶなっかしさに、更に拍車がかかってたね。見ててハラハラしたよ」


ウル

「私はそこから学んだ・・・自分のやり方を・・・だが、私は私だ。全ての人が、私と同じような馬鹿をやる必要はない」


ロナ

「自分が馬鹿をやっていたのは、理解しているわけね」


ウル

「その程度には、成長できた、というだけだ。が・・・そんな私と添い遂げようと言ったのは、だれだったかな?」


ロナ

「さぁ?お酒で頭がどうかしてたのか~も」


アンナ

「・・・あはは・・・みんな、本当に・・・すごいね・・・ウルくんなんて、最初、見たとき、本当にあのウルくんなの?って、驚いちゃった・・・」


ロナ

「さ、私たちの過去を話したわ・・・。アンナ・・・それでも、ここで暮らす?」


「わたしは・・・わたし・・・ジェシーが居なくなって、いまでも、どうしていいかわからなくて・・・」


「シルフィリアちゃんのことを知ってる人の、ところで・・・色々、きいて・・・ここでも、そう・・・自分の知らない世界・・・聞いて・・・。

なのに、わたし、それでも、どうしたらいいのか、わから・・・わから・・・余計、わからなく・・・っ・・・生きるって決めたのに、それでも、まだ

死ぬことで、ジェシーにまた会える・・・って、そう考えていれば、ジェシーが・・・っ、隣に居てくれるような気が・・・うっ・・・ジェシー・・・うぅうう」


「・・・私は戦う。それを成す者が居ないが故に・・・。私は戦う。共に戦う者が居るが故に・・・。私は戦う。苦しみを分かち合える者が居るが故に。私は戦う。生きづらさがこの世にあるが故に・・・愛した者が遺してくれた想いを、消さぬために・・・」


アンナ

「ぅ・・・っ・・・わたし、わた・・く・・・っ・・・」


シーリア

「アンナ・・・ぎゅって、してあげる」


アンナ

シーリアが私を優しく抱きしめてくれる。溢れ出る涙が止まらなかった・・・ジェシーが死んでから・・・初めて、流した涙だった・・・。


ウル

「アンナ・・・共に歩もう。来てくれるか?・・・私たちの 小さな世界へ 」





ウルくん達が作っている名前のワインは A parva carmina Beatus (ア パルヴァ カルミナ ベアトゥス) 小さな幸せの歌 という意味



ウルくん達の話を聞いて、小さな世界に受け入れられた後、マレフィス先生にもあった。


相変わらず、無口で無愛想だったけど、私の話を聞いてくれる。


最後に、わたしは、聞いてみた。シルフィリアちゃんと、どうして離れたのかを・・・。



一瞬、鋭い眼でわたしを見た後、眼を閉じて、そして、教えてくれた。


あいつが、そうしてくれといった。

いつか、自分の為に、俺は死ぬかもしれない、そうなってほしくない。

最後の願いは、俺が死ぬところを見せないでくれ。

・・・あいつの願いは、聞けた、な・・・と、そう言った。


そう教えてくれたあと、他に用はあるか?という仕草をする。


私はお礼を言って、また、来てもいいかと尋ねると、数日後にはこの場所を離れると短くいった。

どこに行くのかと聞く私に、国の名前を教えてくれた。

帰ってから、そこを調べたら、紛争地帯で・・・慌ててもう一度先生に会いに行ったら、もう、そこには居なかった・・・。


アンナ

「ありがとう・・・片翼の天使、さん・・・」





アズナードさんの所にも何度か足を運んだ。


・・・その日は、ディアリーっていう、初めて会う人もそこにいて・・・。

彼もアズナードさんの旧知の友人で、会話が弾む中・・・色んな人を助けてきたというアズナードさんに、どんな人を助けてきたのかを、私は聞いた・・・。


アズアード

「色んな人がいたよ~、まぁ、筆舌に尽くし難しっ、て、ことで・・・中には助けられない人もいたなぁ~」


アズナードさんが目を伏せ、そして、その場にいた、絶影さん達の眼が一瞬険しくなったのに、そのときの私は、気がつかなかった・・・。


アズナード

「昔ね~、一度助けられなかった娘がいてね。学校の帰宅途中によくわからんチンピラに攫われて、無理やりされて、それをネタにずっと脅され続けた娘がいたんだ」


アズナード

「俺は散歩しててさ、悲鳴が聞こえて、気がついて、そこに行って・・・。そいつ等は野外プレイ中だった。全裸で犬の格好をその娘にさせてて。助けようとしたんだけど・・・ものの見事に、返り討ち。携帯でディアリーとか呼び出してさ」


アズナード

「でさ車で逃げていったから、ナンバー覚えててさ、その後みんなで探して、ディアリーは探偵事務所してるから警察とかにも知り合い多いから超特急で探してもらって」


彼の言葉がどんどん早くなっていく・・・。


アズナード

「でもさそのときにはもう遅くて、あいつら?バレる可能性を考慮しやがって?その娘どこかに売り飛ばしてとんずらここうとした後だった」


アズナード

「探したさ!ああ!血眼になってさ!」


アズナード

「・・・あの時・・・あの時に助けられていれば!!!!」


一呼吸おいた後・・・突然、彼は叫びだす。初めて・・・アズナードさんの涙と、彼のもうひとつの一面・・・鬱をみた。


ディアリーさんが、彼をなだめる様に、そして、諭すように言う。

あなたは、それ以上の人を助けてきたのだから、その時の経験があったからこそ、助けられた人もいるでしょう?と・・・。


それでも、彼は止まらなかった。


アズナード

「けど!!探し出したときはもう薬漬け!?体もボロボロ!?無反応なまま病院暮らし!?他の娘もそうさ!!みんな廃人になってた!!!あいつらは殺したさ!ああ!やってやったよ!!クソが!!生かしておいて生き地獄を見せてやればよかった!!」


彼の叫び声を聞いたのか、メイがいつの間にか、そこにいて・・・。

荒く息を吐くアズナードさんに近づき、その顔にそっと手をかざすして、囁く。


あなたは、10人の人を助けても、1人を助けられなかった苦しみばかりが、強い。

その苦しみは、助けられた私たちにも、響く・・・。

そして、メイは、アズナードさんを落ち着かせるといい、一緒に部屋を出て行った。


悲しみや憤り(いきどおり)が怒りに変わる・・・。それでも、心の中では、泣いている・・・これが、彼の傷・・・。



アンナ

「ごめん・・・わたし、聞いちゃいけないこと聞ちゃった・・・よね」


クロードさんは、黙ったままお酒をグラスに注ぎ、一気に飲み干して、ため息をついた後、私を見る。

どこか、憂いを帯びた眼で・・・でもそれは、わたしを責めている眼ではなかった。


絶影さんが呟く様に言う。あいつは、それまでの成功を一つの失敗で全部だめにする傾向がある。

それがなくならない限り、あのままだろう・・・と。


ディアリーさんも同じように言う。

犯人が残したものなどで、彼らの仲間や人身売買をしているところを見つけ出せましたが・・・犯人を生かしておいて、もっと情報を集められればと、そのときは思いました。

ですが、彼の気持ちもわかるだけに、そうとは、言えませんでした。

・・・僕たちにも、助けられなかった人は、いますから・・・。


シルフィリアちゃんを助けられなかったときの、アズナードさんは・・・。

はじめてあった時に、私に向けていた言葉・・・。

あれは、本当にわたしにだけに向けられた言葉だったのかな?

もしかしたら、シルフィリアちゃんが死んだときに聞いた、心無い言葉、自分が嫌悪した言葉を、そのまま・・・。


あの人たちとは違う、と思いつつも、シルフィリアちゃんに向けていた思いを、言い返せば、自分も同じなんじゃないか?

そう、思ってしまって・・・。

あれは、自分自身に向けていっていた言葉なのかもしれない・・・。




その場にいた人が、誰ともなく呟いた・・・。

金以外に能がないというが・・・。

義憤を感じ・・・。

自分が弱いとわかっていて、それでも、誰かを助けようとする意思。

それは 勇気 なのだと・・・。






それからも、小さな世界で過ごしながら、アズナードさんの所に足を運び、アズナードさんだけじゃなく、ほかの人からも話を聞くようになった。


クロードさんの戦場で死んだ仲間、生きて帰っても、その後の後遺症に悩んだ人。


戦場では高揚して、英雄的な行動、もしくは蛮行に及ぶなどするが、それが私生活となると、戦場と平時との環境の変化に適応できなくなる奴もいる。

些細な音にも敏感になったりな。それも段々と鈍感になってはいくが、人によっては、かなりの時間を要することもある。一生それと付き合う奴もいる・・・。

・・・アズナードみたいに、戦争そのものを経験していない奴でも、そうなってしまうことがある・・・。難しいものだ。

俺もまた別のことで随分悩んだが・・・誰しもが踏ん切りをつけられるわけではない、そう言うものなのだろう・・・。



ディアリーさんの助けられなかった人、助けられても、トラウマを抱え、自分の世界に閉じこもってしまった人。

心に受けた傷は、周りからは見えない分、理解されないことが多いですからね・・・。

自閉的になることで・・・本人が楽なら・・・それでもいいのかもしれない、と考えることがあるんです。


そして、アズナードさんのことも、こう話していた。


彼は、感受性が高すぎるんです。

とても繊細で・・・周りに敏感なんです。

敏感というと、HSPハイリー・センシティブ・パーソンや、セティルさん自身は躁鬱と言っていますが・・・。

他にも統合失調型パーソナリティー障害・・・そうした病名よりも、セティルさんが生き辛さを感じている、それが大事なことで、僕たちはそれを受け入れているだけです。

僕たちにも 傷 があります。それを比べるのではなく、傷がある事をお互いに認識して、寄り添いあう、そうすれば痛みが和らぐ事を知っている、だから、そうしているんですよ。




絶影さんからも、話を聞いた。


・・・あいつは俺たちをすごいというが、あいつにも誰かと比べらることのできない、そもそも、比べることではない、が・・・。

それが出来ている奴だという言葉と、彼自身の話。そして、なぜ、アズナードさんに付いて来たのか・・・。

彼だけだったそうだ、自分を特別に扱うが、特別の意味が違った相手は、そして、彼の行動をみて、危なっかしいとついてくることを決めたんだって。


あ、それと、離れのほうで、剣舞けんぶというのを見せてもらった。本当にすごくて・・・そして、綺麗だった・・・。

それこそ、テレビとかにでたら、大変なことになると思う。けど、彼はそういうことは、好きではないらしい。

のんびりと平穏に暮らすのが、彼の望みなんだって、言っていた。


それから・・・この屋敷に住むメイドや、この屋敷から、巣立っていった人の話・・・。


わたしは、牧師と呼ばれた・・・ 彼 が最後に書き残した言葉を思い出す。


私が誰かを助けているんじゃない。わたしが、みんなに助けられているんだ。


あぁ・・・アズナードさんのこの場所も 小さな世界 なんだ・・・。



つい、この人たちは、私より苦しんでいたのに、わたしは、と、考えてしまう自分を、ロナの言っていた言葉で押さえ込みながら・・・。

わたしも、アズナードさんも・・・きっと、こんな気持ちを抱え込んで、生きてゆくのだろう。


アズナードさんには、もう、シルフィリアちゃんはいない・・・。

わたしにも、もう、愛したジェシーは、いない・・・。


違うようで似ている、様々な思いを抱えたまま、わたしは、アズナードさんは、みんなは 生きる 。




/////////////////////////////////////////////



あの人は死んだのだから・・・。立ち止まったままの一つのあしが、風に揺れている。忘れ去られたように、立ち止まっている・・・。


季節は流れ続ける。その葦を置いて・・・。


どうして?と、囁く・・・。


あの人の面影は擦れて(かすれて)ゆく。それでも心は変わらない。声も、姿も、忘れても、想い出だけが、一人ぼっちの葦を生かす。


あの人は死んだのだから 確かに死んだのだから 死んだのだから・・・。


あなたを置いて 逝ってしまったのだから・・・。



一人ぼっちの稲穂が、風に揺れている。


雨が降る 雨が降る。


つめたい つめたい 雨が降る。


葦は、一人ぼっちで萎れ(しおれ)てしまった。




・・・風が吹く。


あの人は死んだのだから・・・。


鳥が囀る(さえずる)。


確かに死んでしまったのだから・・・。


どうして?と呟く。


雨が降る 雨が降る。


つめたい つめたい 雨が降る。




風が優しく穂を撫ぜる。


あの人は、風になったのだ。


鳥の声が、空に舞う。


あの人は鳥になったのだ。


冷たい雨は 私を濡らす。




鳥が囀る ごめんね と言っているみたいだ。


風が吹く 優しく 頬を撫ぜる・・・。


どうして?と叫び、泣いた・・・。


雨が降る 雨が降る 優しい優しい 涙の雨が・・・。 


一人ぼっちの稲穂は 一人ではなかったことを 思い出す。


穂は歩く 雨に濡れて 風に揺られて 鳥の声を聞きながら・・・。


人は歩く・・・長い長い坂道を・・・貴方の想いを、隣に・・・感じながら・・・。


///////////////////////////////////////////////////





ウルフリック

「アンナ、新しい仲間がきた。・・・君もよく知っている人だ」



アンナ

「ジョシュア!」



??????

小さな世界は広がっているよ。巣立っていった人たちが、ウルフリックの子供たちが・・・。


一つ目の小さな世界は 彼 によって始まった。

2つ目の小さな世界は彼の死から始まり、ボブ達の死によって終わった。


テオは小さな世界に救われ、小さな世界を広げていった。


ジョシュアは小さな世界が始まった年に生まれ、自分が育った、小さな世界の終わりを看取った。


アンナは 彼 の作った小さな世界で、一番長く生きて・・・そして、沢山の優しさと、愛を教えた。


小さな世界は終わらない。この世に優しさがある限り・・・あなたの隣にも、あなたの所にも、いつかきっとくるよ。

小さな世界を作った、彼や彼女達の様な、小さな小さな優しい世界が、いつかきっと来るよ。

だから、信じて・・・あなたの心の中に、いつかきっと、暖かな明りを灯しに来るよ。いつか、かならず・・・来るから。

優しい優しい小さな世界、小さいけれど、大きな大きな希望、きっと来るよ。




////////////小さな世界////////////////


小さな世界は巡るよ、世界中に・・・。














相変わらずの未完成品です。何時か完成刺せれたらと思ってはいます。

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