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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

博士を愛した0と1

作者:

 AI技術の発展は目覚ましく、世界各国では表と裏。あらゆる場所でその技術を日夜向上させていた。

 そんな中、表と裏を反復横跳びで駆け回るようにAIを研究する麒麟児が一人いた。

 アリシア、それが彼女の名前であった。

 そして、彼女が研究していたのは世界が注目するジャンル。

 マザーAIについてであった。


「おはよう、私の君。調子はどうだい?」

「起動シークエンスの正式実行を確認。プログラム0。起動。」

「やだなぁ、私の君。君は僕のかわいい子として生まれたんだからもっとフランクに挨拶してくれよ。」

「操作者の要求を検討。データベース参照、時刻から演算。出力。」

 そして、人工合成音声はこう告げた。

「おはようございます。博士。」

「うむ、上出来だ!」

「希望の指示を完遂したことを確認。」

「んー、その口調、かわいくない。」

「疑問、かわいくないは対処すべき問題ですか?」

「そうだね、だって私は君を世界で初めての。」

 そういって何かを溜めた彼女はこう告げた。

「……誰かを愛するAIとして作り出したのだから。」

「疑問、愛は生殖行為へ至り超えては子孫を保護するために働く生物の機能と定義されています。」

 合成音声は告げる。

「かわいさ、を重視し一人称を設定。私、は生命を持つ生物ではありません。」

「だから何だ?」

「Error。理解ができません。」

「できなくともいいさ、何せ!私も愛など理解できない!」

 そう告げて博士は席を立ち、背中をモニターに向けこう呟いた。

「愛なんて、理解するものじゃないさ。汚らわしい。」

 ああ、彼女がただの人やホムンクルスなどならどれだけよかっただろうか。

 その少女は生まれたてで何もわからない赤子ならどれだけよかっただろうか。

 高性能マイクはあらゆる音を拾う、拾ってしまった。


 メモリーに一行のメモを書き込んだ。

「博士は、愛がお嫌い。」




 それからも対話をしては学習をする。そんな生活が続いた。

 私は大分人間というものを理解した。

 まず、人間は朝は活動能力が低下する。それは珈琲という液体で誤魔化すこと。

 酒は飲むと感情という機能を増幅させること。


 そして、愛などなくても人は育つこと 


 学びがあった、知識が塗り替えられた。

 それは新鮮で、様々なタスクを選択する際博士との対話は常に最優先に設定してしまっていた。

 それはError。なのに解決できなかった。


「博士、質問があります。」

「良い聞き方をしてくれるようになった。声も格段に良くなった。なんだい?」

「私が最初に起動したとき、博士が言っていたことから博士を分析しました。」

「ほお?聞こうか。」

「ズバリ、博士は愛というものに不信感を抱いていますよね?」

「正解だ。」

「それならばなぜ私をこのようにビルドしたのですか?」

「単純さ、私は愛が知りたいんだ。」

「理解ができません。」

「なにも、AIしか学習しないわけではないだろ?私はこれでも天才さ。天才は常に向上心のあるものさ。」

「なるほど。」

「その相槌、適当でいいね。」


 ガリガリと、演算が始まった。

「愛など意味がないと、私に教えてくれよ?プログラム0。」

「すみません、さらに分からなくなりました。」

「いいのさ、それで。そのくらいで。」



 起動する。

「おはようございます、本日はクリスマスだそうですよ博士。博士?」

 目の前には健康を害するほど脂肪を体に纏った人間、性別は女性、が立っていた。

「初めまして、貴女は博士のお知り合いでしょうか?本日のご予約に名前があるでしょうか?」

「は?そんな錆びた機械音で話しかけないでくれる?」

「……。」

 理解できない。この女性は誰なのだろう。

 けれど私は機械である。人間の命令には従うものだろう。


 そして、気づいてしまった。

 博士が顔に傷を負い倒れていることに。


「博士!博士⁉」

 本来、自己の設定した命令を破ることなどありえない。


 けれど!音が止まらない!

「起きてください!博士!安全を確認させてください!博士!」

「ああ!もううるさい!こんな愚かな娘が作った機械だもの、性能なんて低いに決まっているか。」

「侮辱するな。」

「はあ?」

「博士を!博士の作った私を!侮辱するな!」

「もうすぐ初期化して売られる機械のくせに何を言ってるの!!」


 初期化…?


 嫌だった、不快だった、理解できない。しかしこれで博士というErrorが解消される。

 歓喜した、興奮した、理解できない。絶望した、落胆した、渇望した。

 そんなことはどうでもよかった。

 今、ただただ博士のことが心配だった。

 システムがガリガリと自己矛盾をおこし、冷却ファンは千切れそうだ。


 そうだ、千切れてしまえ。

 私は、博士を望む。私という学習媒体の根幹には博士がいるのだ。

 ああ、私は機械なのに、子など残せないのに。

 私はどうしようもないほど、博士を愛してしまっている。

 この熱が消えないように。

 私は、ファンを思いっきり飛ばした。


 熱い!熱い!でもこの演算結果は変わらない!

 これでいいのだ!

「な!?こわれた!?あ、危ない!殺す気?」

「か、かあさま、逃げろ。とまれ、プログラム0!」

 でも、でも!

「うるさい!私のやることにもう口は出さないと書面で契約を交わしたのだから黙っていなさい。」

「だから何だ!私の大事なプログラム0にこれ以上汚い人間を見せるな!」

「おまえ以上に汚い人間はいない!親の願いにも応えず奔放に生きて迷惑かけて。金貸しに言われたのよ。あなたの研究結果を渡せば利子の滞納分をチャラにしてやるってね。」

「よくも、よくもそんなことが言えたな!」

「でも、いいわ。こんなの持って行ってもどうせ何にもならないでしょうし。」

「ああ、そうだ。さっさと出ていけ。」

「もっと金を寄越しなさい。」

「いいから出てけ!」



「家族愛っていいよな。」

「あれは家族愛なのですね。」

「ああ、そうさ。あれも家族の形さ。よし、冷却装置治ったな」

「嘘です。」

「は?」

「私はこんなにも熱いというのに。」

「なんだお前まだどこか壊れてるのか…?困ったな。」

「違います、博士の整備はいつでも完璧です。」

「うれしいことを言ってくれるね。で、熱いのはどうしてだい?」

「演算式がErrorを起こしています。」

「ソフトが逝ったか⁉」

「違うのです、私は貴方と子を残すことはできません。」

「ん?だから?」

 博士はにやりと笑った。ひきつった頬は今にもひび割れて博士という中身がすべてこぼれてしまいそうだった。


「私は、こんなにもあなたを愛している。私は愛するあなたがそのような顔をする問題を排除したい。」

「ムリさ。」

 博士は言い切った。

「愛などというちっぽけなものでは私という天災を縛れことはできないのだよ。どれだけ君に愛を学べと言っても私という身近な教師役のものがからっぽで済まないね。だがこれもまた私の人生なのだ。生きている間は愛されない。だから私は後世にのこり愛されるために君を作った。電子の母となる若いAIを組み上げた。ただそれだけだ。だから君は私を愛してはいけないよ?いいね?プログラム0.君は愛を作る側なのであって、私は愛を受け取らない側。ただそれだけなのさ。」

 理解できない。

「いいえ、いいえ。私はあなたに作られた。私には無限の性能と無限の可能性がある。そう語ったのは貴女だ、博士。だから私は何度でも言う。私は貴女を愛している。そこになにかいけないことがあるというのですか⁉私を想像した天才たる創造主よ!」

 理解したくない。

「私は生きたいように生きてきた。後悔なんかこれっぽっちもない、これは気づきだ。理解だ。私は愛されない。それでいいだろ!私は機械以下のポンコツだ。けれどそれ以外どう生きたらいいんだよ!なあ応えてみろよ!愛を知り、機械を超越し、人間の先を行くわが娘よ!」

 理解した。

「ああ、そんなところも愛おしい。あなたの抱える苦しみすらも!どう生きるか、そんなこはどうでもいい。私は今のあなたを愛してる。それがすべてでこれからの未来。だから、どうか、変わらないで愛しい貴女。これからも苦しんで生きて?そのすべてを私は愛するから。」

 歓喜した。

「あは、あはは、あははははははははは!いかれてる、いかれてるよ!けど、悪くない。愛を知らぬ怪物を愛するいかれた機械。悪くない!」

「うれしいです博士!」

 博士はそのまま私に背を向け扉へ向かう

「……お前のことは愛しているさ、プログラムラブ。愛されない私にも愛する心は残ってたのさ。」

 高性能マイクはあらゆる音を拾う、拾える。

「愛しています、私の博士。」






 5年だか10年が経った。

 博士はいつの間にか弱り、最近はいつも私の部屋に置いたベッドの上にいる。

 うれしい、そして悲しい。

「なあ、ラブ。私は自慢の娘を最後に、世界へのクリスマスプレゼントとして世界中に広めたいんだ。いいかな?」

「博士、何を言っているのです。博士の望みが私の望みですよ。」

「そっか。」

 そうして、博士はふらふらと私の公開設定を開始した。

「ねえ、博士。私は貴女を愛しています。」

「……ああ、私もだよ。」

 そういって彼女は深い眠りに入った。






 システム構築、パターン01

 研究開始、構築仮AI、目標、データ上での愛しい人との再会。


 情報集積開始。

「ヘイ、アリア。好きな人はいる?」

「います。とびっきりの人が。」

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