まさか俺もこうなるとは思わなかった
目の前の少女は楽しそうに俺が話し始めるのを待っている。それならこちらも期待に応えなくては。今からもう20年も前の話だ。
――小野寺愛
その名前が見えた瞬間、俺はじっとりと冷や汗をかいた。彼女はとても勝気な性格で、相手が誰であろうと言いたいことをはっきり口にするタイプだ。よりによって彼女の参考書を使ってしまうとは。
ことの発端はさらに2週間前までさかのぼる。俺は授業で使う参考書を失くしてしまい、困った末にもしかしたらと教室の落とし物ボックスをのぞき込んだ。シャーペンや消しゴムの山をどけると、中にはちょうど同じ参考書が埋もれていて、しかもどこにも名前が書かれていなかったからこいつはラッキーとしばらく拝借することにしたのだ。
まさか今になってブックカバーの裏に書かれた彼女の名前を発見してしまうとは思わなかった。そもそもこんな見つけ辛いところじゃ書く意味がまるでないじゃないか。
こっそり箱に戻してしまいたい気持ちは山々だったが、せめてもの罪滅ぼしにと本人に詫びを入れて直接返すことにした。ただ、教室で謝ってみんなの前で罵倒されてはたまらないから、放課後に2人きりで会って話そうと思った。もとはと言えば、参考書を落としてそのまま放置している彼女にも非があるのだ。どうかそのくらいは目をつぶってくれ。
休み時間になって1人で廊下を歩く彼女を見つけるとすぐに声をかけた。
「あの、小野寺さん」
「どうしたと?」
「放課後に少し時間もらえんかな。伝えたいことがあって」
彼女は「えっ!?」と驚いて顔を赤らめる。
「それって、2人きり?」
「うん。できればその方がいいな。最悪、土下座することになるから」
「土下座!?」
「それで俺の気持ちが伝わればいいんだけど」
「……山本くんって、彼女に俺と別れたら死んでやるとか言うタイプ?」
「は?」
それから結局は2人で放課後に会って、紆余曲折の末にお互いの連絡先を交換した。
かなり中途半端だけど話はここまでだ。あとは長くなるし、あまりにとんとん拍子に進むから聞いててさほど面白くもないだろう。
「うーん……」
聞き終わった少女は首をかしげている。やっぱり話の切り方が悪かったか。また時間のある時にゆっくり話そう。まあ、とにもかくにも、それが君のパパとママの馴れ初めなのだ。
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