正しさと愛情
男女2人が乗った宇宙船は旅の途中で機体が損傷し、蓄えていた酸素の大半を失ってしまった。地球へ戻るにはあと3時間かかるが、船内には1人分の酸素しか残っておらず、2人で生きられるのは2時間が限界だった。
片方が生き残るためにはもう片方が宇宙の闇へ身を投じなければならない。
「まさかこんなことになるなんてな」
男は大きなため息をついた。
「とりあえず今は私の手を握ってて欲しいな」
「もちろん」
女の手はひどく震えていた。男は彼女の小さな手を包み込むように握りしめる。
「ありがとう。うん、何だか安心する」
「よかった。こんな頼りない僕でも少しは君を安心させることができたみたいだ」
「私はこれまでも割と頼りにしてたけどね」
「はは、本当かな。……そろそろだね」
「うん。もういつになるかわからないから、先に言うね。今までありがとう」
「こちらこそ本当にありがとう」
2時間前、彼らは一緒に船内に残ることを決めていた。片方が犠牲になればもう一人は生き残ることができただろう。そして、相手の分まで残りの人生を歩んでいけたはずだ。
しかし、2人は相手を犠牲にしてもなお前を向いて生きることができる心の強さより、自分が死ぬ時はどうか相手もそばにいて欲しいと願ってしまう心の弱さの方がお互いに嬉しかった。
死にぎわに自分のことを頼ってきてしまう相手に愛情を感じて、また、そのような極限状態でこそ自分を頼って欲しいと思ったのだ。
これはきっと愚かな選択だ。そう思いながらも、手から感じるお互いのぬくもりがとても心地よくて、2人は何の疑いもなく満足していた。
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