第一印象の最悪だった彼
学校を出ようとしたところでノートを忘れたことに気付き、慌てて階段をのぼる。私の教室がある三階まで上がった瞬間、廊下から声が聞こえてきた。
「俺、ナスが好きなんだよね」
その不意打ちにドキリと胸を刺される。声の主はすぐに廊下を曲がって階段に顔を出し、硬直した私を見つけた。
「あ、那須さん。どうしたと?」
「うっ、佐藤くん。いや、別に……」
彼は気付いていないようだったが、となりにいた彼の友達がすぐにハッとして笑った。
「お前が言ったセリフだよ。よく野菜を食べるけど特に茄子が好きってやつ。ほら、同じナスやけん」
今なら顔どころか全身から火が吹き出てもおかしくないと思った。
「あはは、そういうことか。びっくりさせてごめんね」
「いや、全然! じゃあ私もう行くね!」
とにかく姿を消したくてさっさと会話を切り上げる。去りぎわにまた彼の声が聞こえた。
「まあ那須さんのことも好きやけど」
私と彼の友達は同時に「ええっ!?」と驚きの声を上げる。
「……茄子の次にね」
チラッと舌を出していたずらっぽく笑う彼。
それを見た私は煮えた湯のような熱いものがふつふつと頭にわき上がってくるのを感じた。
「おい、今のはちょっとからかいすぎじゃ」
「ううん、気にせんでいいよ! 私は気にしとらんけん」
友達の気づかいを断ってずんずんと大股で彼に近寄る。そして目の前に立つと、できるだけ険しい顔を作って言い放った。
「せっかくやけん私の苦手なものを教えちゃあ。サトウよ。ああ、調味料の砂糖のこと。甘すぎるのがダメなんよ。佐藤くんのことは別に苦手じゃないけん。苦手じゃなくて嫌い!」
気にしてないと言ったが嘘だ。実はめちゃめちゃ気にしていた。
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