数十年前に流行ったキーホルダーを使って
「こ、これ。拓馬にあげる」
そう言って麻実から渡されたキーホルダーを見て、拓馬はハッと目を見開く。瞬時にすべてを理解した彼はしてやられたという悔しさと、キーホルダーをくれたことに対する純粋な嬉しさとで顔を真っ赤に染めた。
1時間前。麻実はそれを友達の美優からもらった。もとは美優が自宅のカギに付けていたものだった。
「これ本当に私がもらっていいと?」
「いいのいいの。私には渡したい相手なんておらんし、せっかくやけん麻実が使って!」
それは意中の人に渡すと恋が成就するとして二、三十年前に流行ったものだった。当時の世代の人たちを除いて、今ではその存在を知る者はほとんどいない。
だからこそ、このキーホルダーは麻実にとってうってつけだった。彼女は拓馬との距離を近づけたいと願う一方で、あからさまな好意を伝える勇気はなく、簡単にはその意図に気付かれないというハードルの低さが必要だった。
「ありがとう。そうよね、うん。これをあいつに渡すくらいなら……」
3日前。娘のカギを見た美優の母親は驚いて声を上げた。
「あら、懐かしい。これ誰からもらったの?」
「えっ、学校で拾っただけやけど」
「本当かしら」
それから母親はキーホルダーのことについて美優に詳しく教えた。そこまでは美優も面白いと思って聞いていたが、その後はカギを見るたびに意味深な笑みを浮かべてくる母親の反応に彼女は次第にうんざりしてきた。
4日前。拓馬が机の上に広げた教科書を片付けていると、友達の悠太がニヤニヤと笑いながらやってきた。
「君はひと昔前に多くのカップルを誕生させた伝説のキーホルダーを知っているかい?」
「知らないよ。それがどうかしたのか」
「実は昨日、近所の文具店でたまたま見つけて買ったんだ。たぶん拓馬やみんなの両親は知ってるんじゃないかな」
「どうせそれを使ってまた変なことでもするつもりなんやろ」
「それは秘密さ。特に拓馬にはね。ところで君がクラスの山本麻美さんに気があるって話は今もまだ有効かい?」
「あ、ああ。まあ……」
拓馬は話の趣旨が見えず半ば呆れていたが、悠太はその時すでに運とタイミングを要する彼の作戦をどのように成功させるかについて考えを巡らせていたのだった。
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