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きぃふぅ委員長眞島  作者: F香川
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日本の風紀乱れてます!

俺の名前は眞島祐也。どこにでもいるごく普通の中学二年生だ。と思う。中学に変わって初めてのクラス替えの時に周りからはクスクスとした笑い声が聞こえてきた。あれは何故だったのだろう、同じ学び舎に通っていたとはいえ何も俺の事を知らないはずなのに。何故普通に自己紹介をしただけで笑ったのだろうか。クラス替えから2週間がたったが釈然としないまま、また今日も朝を迎える。薄く目を開きデジタル時計に目を移すとまだ少し眠れる事を確信し、再び目を閉じる。その瞬間、何処からか「声」が聞こえてきた。


???:きぃぃぃぃふぅぅぅぅぅぅ


はて?家で怪鳥でも飼い始めたか?もしかしたら堅牢な牢屋が開いた音かもしれない。いや、どこにもそんな生物はいないし、家には地下室へと繋がる階段だって無い。床下収納にはいちょう切りにした大根が漬けてあるだけだ。


真島:牢屋だったら朝だし先にCRC556とか吹きかけて…れ…‼


ドクンッ‼と強く心臓が跳ねる音が聞こえた。脳よりも、脊髄よりも早く自分の血が一気に沸騰していくようなイメージが頭から足の先まで駆け巡っていく。身体が熱い。どうやら無意識下に発してしまっていた声も今はほとんど出ない。布団を跳ね除け、シーツを握りしめる。蹴り伸ばした足の小指がベッドの木枠に当たる。いつもだったら悶絶する所だが今はそれどころではない。目の前が白くなったり黒くなったりと行き来している。身体中の水分という水分が全てドロドロに溶けていくようだった。死んだな。そう思った。


真島:ぎいいいいぃぃぃぃぃ!!!!……………ほ?


さっきまでの鬼気迫る様な死のイメージは全て消え去っていた。それどころか何処か晴れ晴れとしたような、全てを知ってしまったような、そんな清涼感が付いて回る。何だったのだろう、あの音は。いや、「声」は。

頭に浮かぶ疑問を払うように毛布を頭からかぶり直した。冬用の厚い羽毛布団の中は母体のように暖かく暗い。何時まで寝れて、起きたら準備を…なんて考えていると少しずつ目が冴えてきた。体温が上がっていくのを感じて季節外れの羽毛布団をずり下げて新鮮な空気を吸う。

カーテンから漏れる朝日がうっとおしく感じたので起床の合図だ。この時期は朝六時半ピッタリに朝日が差し込んでくる事に最近気づいた。言わば天然の目覚し時計だ。眠気眼を擦りながら覚束無い手付きでカーテンを開ける。窓からベランダに出てみるとベットリとした股間を風が通り抜けて心地よい。どうやら先程の身体の熱さは夢精からくるものだったようだ。そう考えると、少しだけ笑えた。

ベランダに肘をかけタバコを更かしていると、庭に干してある洗濯物が視界の端に映る。


眞島:パンツ。どうしようかな。


タバコを深く吸い込み肺にニコチンを巡らせた。電柱にスズメが二羽停まっているのを見て、良い朝だなと呟いた。今日は春一番だ。


???「きぃぃぃぃ!!ふぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!」


先程よりも近くでけたたましい鳴き声は聞こえた。鳴き声と言うには幾分表現が足りていない、怒号のような音が空を裂いた。大気の震えによって窓は今にも破裂しそうな程に振動している。

驚きによって跳ねた心臓をタバコを深く吸い抑え込む。先程のスズメはバサバサと慌ただしく飛び立って行った後だった。電柱は寂しそうに立ち尽くしている。全く迷惑な騒音だ。と、平静を装いながらもおずおずと手摺の隙間から外を覗いた。しかし、声の主はどこにも見当たらない。


眞島:気のせい、な訳ないよな。


自分の今いる位置を確かめる様に首の付け根を触った。どうやら夢ではないみたいだ。それどころかあの声を聞いた後辺りからどうも身体の様子がおかしい先程よりも静かに、何かが満ち満ちて行くのが分かる。使命感のような物が身体の底から、いや、もっと深い、魂の様な何かから滾って行くのを感じた。

しばらくすると、何処からか声が聞こえてきた。先程の怒号とは違う。もっと可愛らしい声だ。あまりの急展開に腰を付きたくなるのを我慢する。心の内側から語りかけてくるような、声の主はきっと優しい人なのだろう。耳を澄ましていると、そのバラバラの音の粒はやがて線となり俺に話しかけているのだとようやく気づいた。


???:きぃふぅを信じよ。さすれば皆は救われん。


きぃ、ふぅ…?何を言っているんだこのイカれ女は。優しい人等と思った俺がバカだった、ただのイカれた宗教信者じゃないか。だいたい俺は無宗教だ。毎日熱心に念仏を唱えていたバアちゃんが早々にボケた時から俺は神も仏も信じていない。力強く突っぱねよう、久々にキチゲ(キチガイゲージ)100%だ!


眞島:@#$%^&*(()^%$$##&7%$43@^7880$っ!!!!!!


おっと、些か怒りすぎてしまったようだ。俺とした事が殆ど言葉になっていない。この癖のせいでどうぶつの森、という不名誉なあだ名で呼ばれるようになった。深呼吸を置きもう一度落ち着いて喋る。


眞島:おい!お前!きぃふぅきぃふぅうるさいんだよ!お前のせいで眠れねえじゃねえか!イカれ女!!


???:落ち着いてください。私は貴方の魂に宿った【風紀】です。今貴方の心の内側から声をかけています。


ふう…き?風紀のことか?俺の魂に宿ったって言ったぞ、理解不能な感情が俺の理性を吹き飛ばした。


眞島:うわぁぁ!出てけ!!出てけ!!出てけ!!!


ドン!ドン!と両手で自分の胸を叩く。俺はキレると脳のリミッターが解除されるので自傷ダメージがあるのだ。青アザで済めば良いのだが。


???:落ち着いてください!落ち、落ち着、落ち着いて!!落ち着いてッッ!!!


小一時間のドラミングを終え、胸骨の痛みで俺は目を覚ました。ヒビで済んでいればいいが。痛みで地面に突っ伏した頃には登校時間を過ぎていた、つまり遅刻だ。色々こいつに聞きたいことはあるが、痛みによって声が出ない。宿題もやってないし今日は病院へ行くという理由で休もう。そんな事を思っている内に何だか冷静になってきたような気がした。


眞島:すまん、取り乱した。お前は一体何なんだ?そして何故俺の身体の中にいる?


???:急に冷静に…これがきぃふぅ委員長……


生唾をゴクリと飲む音が聞こえた。きぃふぅ委員長?なんの事を言っているかさっぱりだ。怪訝な顔をしていると、またキレ出すと思ったのか少しだけ怯えた声が漏れていた。人?にトラウマを植え付けるのはあまりいい気持ちはしなかった。


ヒバリ:私はヒバリ。風紀を司る精霊で御座います。貴方は百年に一度の大掃除の委員長。きぃふぅ委員長に任命されました。


眞島:何を言ってるのか全く分からん!そもそもきぃふぅ…委員長?とは何なんだ。何を大掃除するんだ!


ヒバリは待ってましたと言わんばかりに口角を上げた。俺は相手の思惑通り物事が進む事が特別嫌いなのでキチゲが少し溜まった。一日に二度も開放させるな。こっちの身が保たない。現在は42%、夜までは我慢しなければ。


ヒバリ:ズバリ大掃除してもらいたいのは日本の悪しき風紀!そして、きぃふぅ委員長とはその悪しき風紀を生み出している輩を成敗する委員会、きぃふぅ委員会の委員長です!


何故風紀ではなく、きぃふぅなのか。何処から来たのか、そして何が目的なのか。質問はぐるぐると頭の中を駆け巡った。しかし、自分の中で一つだけ腑に落ちる事がある。


眞島:俺がきぃふぅと初めに聞いたあの頃。血が沸き立つような感覚に見舞われた。あれはお前が入ってきた事によるものだな?


ヒバリ:いえ、アレはただの夢精です。その後スッと入りました。


そうなんだ。少しだけ恥をかいたような気がしたので顔だけは何かを考えている様な振りをした。平静を装おう、叫び出し、走り出したい気持ちを抑えてるうちにキチゲは78%にも上昇した。非常にまずい。一回枕で開放しよう。せーの!


眞島:わああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!


ヒバリ:…‼


ふぅ、落ちついた。やはりキチゲは小まめに解放するものだ。これで急な暴走もあるまい。怯えている様子のヒバリにこちら側からコンタクトを取る。


眞島:ヒバリ、で良かったよな?


ヒバリはハッとしたように背筋を伸ばし(たような気がした。)ハイ!と素っ頓狂な声で言った。


眞島:俺がきぃふぅと次に聞いた時は化物が怒号を響かせている様だった。あれはお前がこの世に召喚させたものなのか?


ヒバリ:あれ?気づいてなかったんですか?あれは委員長の素晴らしいきぃふぅですよ!


そうなんだ。あれは俺が出した声だったのか。二度も思惑を外したことによる羞恥に自分の顔が赤みを帯びていくのを感じる。また65%までキチゲが溜まってしまった。枕で解放しようにも先程の咆哮で風船のように破裂してしまったので解放は難しい。そしてこいつの中ではきぃふぅとは神聖な言葉らしい。可笑しな奴だと思っていると、ヒバリはあらかたの俺の質問に答え終わった事を確認し、静かに語り始めた。


時は江戸末期にまで遡りますーーーーーーーーー


眞島:ふむ。(え?江戸末期?江戸末期から現代までの歴史を立ち話で聞くの?学校では座りながら45分に分けて教えてくれるのに?)


漫画みたいでワクワクするし…と空気を壊すのをすこしためらい、話を聞くスタンスを取ってみたもののやはりキツイ。そういえば歴史の授業では教科書に落書きするのが楽しくて、授業に集中できない事が多かった。登場人物は全て落書きしやすそうな初期アバターのような面持ちでこちらを見ているので丁寧に落書きしていたな。そして、小学生が終わる頃には偉人から余白まですべて黒塗りの棺桶の様に塗りつぶした俺は、ひっそりと歴史の棺桶なんて呼んでいて、隣の女子は不気味がっていたことを今になって思い出す。自分がやりたい様にすると人が離れていくのを少し悲しがったりもしたが、今思うと呪いのように執拗な落書きは女子が怖がる要因としては納得のいくものだったかもしれない。


ーーーーーーーーーと言うわけです。


ヒバリの話が終わった。辺りはすっかりと日が落ちていた。俺は腕を組み、手を顎に当て深く息を吸い込みこう言った。


眞島:なるほど。


この話受けねばなるまい。話を聞かずに断るというのは人間としてどうだろうか。つまり話を聞いたから断っていいんだけど俺の記憶には話を聞いた記憶は無いから断れないと言う訳だ。

話聞いとけばよかったなぁ。なんて思いながら咳払いをつくと喉がひりつくように痛んだ。そこであの時の怒号が自分が出したものなのだとようやく理解が追いつき、深く絶望した。




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