第59話:超美技
「ショウさん、頑張れー!」
蒼はとことんショウの応援をしていた。
学が勝ってしまえば、次は自分が彼と戦う事になる。そうなれば……遠未来予知が示した通り、彼を殺す事になるだろう。そう踏んで、学の情報をショウに流したのだ。
だが、それだけではない。蒼は、単純に戦力を鑑みて、学を最も警戒しているのだ。
「まさか、あれほどの手練れとは思わなかった……あの人は何故あんな力を」
「まあまあだな」
「えっ?」
蒼の後ろに、ダヴール・アウエルシュテットが立っていた。
「だが、竜騎士にはもう一段上がある。それをヤツが捌けるかどうか、だな」
「もう一段上……」
二人の会話の間にも、試合は動こうとしていた。
***
「風神よ、我に」
「おっと、そうはさせるか!」
ショウは距離が取れているのをいい事に、詠唱を始めた。
学はもちろん阻止するために距離を詰める。先ほどと立場が逆になった。
そしてこうなると、ショウの詠唱は簡単に遮られる……かに思われた。
学は神通力で強化した、左右の追逆突きによる高速コンビネーションでショウを追い立てる。
この技は飛び込みながら物凄い速さで連突きを放つため、相手は受けながら下がるしかない。
「風魔の、力を、呼び起こす、ための、神、通、力、を!」
だがショウは、横に回り込みながら槍の柄で突きを受けていく。
そして、驚くべき事に攻撃を受けながら詠唱を続けている。
「無理よ! 詠唱ができても、あんなに動きながら神通力をキャッチできるわけがない!」
リリィが誰にともなく叫ぶ。
神通力の確保には、神が落とすタイミングと場所を見極めるための集中力が必須。接近戦の最中にそれをやってのけるなど、リリィの常識の中ではありえない事なのだ。
「シェイイッ!」
神通力を纏った、学の中段蹴りが飛ぶ。ショウが横に動いた事を利用し、一番威力の出る距離でクリーンヒットさせた。
そして何かが割れる音がした。一瞬、ショウのアバラ骨が折られたのかと観客は錯覚した。
しかし、折られたのは槍の石突の部分だった。ギリギリの所で槍のガードが間に合い、肋骨へのダメージを軽減したのだ。
「お授け頂きたい!」
遂に唱え切ったショウだったが、肋骨にダメージを追ってしまった。更に、神通力を受け取れないという問題がある。その隙をついて、再び学の拳が飛ぶ。
――ここだ!
その拳をかわし、ショウは飛んだ。そして空中で神通力をキャッチして見せた。
「な、何ィィィィ!?」
観客も、リリィも蒼もただただ驚嘆する。
あれだけの近距離戦を展開しながら、平行して神通力の補給を終えてしまった。
「あ、有り得ない……何なの竜騎士」
このショウの技術を見てしまうと、如何に魔女でも脱帽するしかないのだ。
そして接近戦に応じてしまった学は、『自分だけ神通力を補充できない』という最悪の結果を得る。
――仕方ない、星屑だ!
手を振り回して、大気中に残っている神通力の残りカス……リリィの言う星屑を拾い集める。
通常の詠唱より量が少ないため効率は悪いが、隙を見せずに補給が出来る。
そして、両者は再び対峙した。
戦闘神のテンションが上って行く。
「いいぞぉ、拮抗した力を持つ二人の、魔術込みでのぶつかり合い……やはり戦いとはこうでなくてはならぬ!」
ショウは地上に降りてくると、槍を学の方へ向けた。
その神妙な面持ちから、学は『何かが来る』事を悟った。
――風魔槍、第一式……!
「銃刺!」
「……ッ!?」
学は集中した。竜騎士の槍の切先から、魔法が出て来たからである。
先程の鎌鼬と似ているが、スピードも、力強さも全く違う。『魔槍』の技であった。
「くっ!」
受けずに、躱した学。その背後で悲鳴が上がった。
風魔法が飛んで行った先の壁が、円状にくり抜かれてしまったためだ。
――何という貫通力だ!
学は、ショウが隠していた実力を出して来た事を悟る。
風の魔槍。これに対抗するために、学が選んだ手は……。
やはり、徒手空拳であった。




