第3話:狙われた少女
「おらぁ!行くぜぇ若い姉ちゃん!」
「うひょ~!犯っちまうぞ~」
試合開始直後、真っ直ぐ蒼へ向かって四人の男が突っ込んで来る。
どうやら本戦へのチケットなどハナから諦めており、蒼の様な女性参加者に悪さをするのが目当てらしかった。
「うわっ、こっちに来るなー!」
「へへへ、抵抗して見せろ!その方が興奮するぜ!」
――よし、真っ直ぐこっちに来る。後は罠にかけるだけ。
悲鳴で『怯え』を演出する蒼。その声とは裏腹に、彼女は落ち着いていた。落ち着けるだけの理由があった。
――まだだ。まだ引き付けろ。あと五歩、四歩……今!
「土神さん! 私に神通力をお願いします!」
「えっ、詠唱?」
蒼の掛け声に呼応して、地面が盛り上がった……かと思うと突然下衆達の足元の土が爆ぜた。
四人は肋骨や鳩尾に強い打撃を受け、土煙と共に宙高く舞い上げられる。
「痛ってぇ!」
「息がっ、できねっ……」
「つ、土魔法!? 馬鹿な、あんなに短い詠唱で!?」
蒼はふぅっ、と息を吐く。『そうなると分かっていた』とはいえ、やはり緊張していたのだ。そして下衆四人が落ちて来るタイミングに合わせて……もう一撃。
「土神さん、私に神通力を!」
「ちょ、まっ!!」
「ご、ごめんなさっ!? うああっ」
謝っても遅かった。下衆達は二度目の土撃で再度、宙に舞い上げられた。呼吸も体のコントロールも完全に失った彼らには、もはや地面に叩きつけられるしか道はなかった。
「ま、スケベ共はこんなところだけど問題はこの先、か」
今倒したのは雑魚中の雑魚。まだ200人以上を残してバトルロイヤルは続行している。蒼以上の魔法の使い手も、間違いなく含まれている。
「今の攻防、見させて貰ったよ。魔法のノータイム発動とはやるねぇ」
「……どーも」
「次は俺だ」
中年の男がナイフを弄びながら近づいて来る。先程の下衆達は蒼の胸や足しか見ていなかったが、この男は目だけを見ている。
――この人は強い。
蒼は頬を通り過ぎた脂汗をペロリと舐める。落ち着いた足取りから年季が想像できた。つまり先ほどの様な罠にかかってくれる相手ではない。体格では圧倒的不利。一歩手順を間違えれば忽ち組み伏せられて敗北させられるだろう。
「炎神よ、我に灯をお貸しください……短火!」
「うわっ!」
詠唱と共に、小さくも素早い炎が蒼を襲う。と言っても火の粉程度の規模だったため、籠手で払いダメージは追わなかった。
が、炎の狙いはダメージではない。蒼の大きい回避動作が災いし、男の接近を許してしまう。
――炎は接近のための囮。ナイフが本命だぜ!
「消えな、ガキが!」
大振りのナイフが、蒼の首筋目がけて振り下ろされた。