第2話:いよいよ予選会
「オリハラアオイ様ですね。承っております。まずは身体検査を……」
係の女性に身体検査をされる。この大会は「武器が一つだけ」形態を許されている。それ以外は持って入ると反則と見做され失格処分だ。
だが蒼は、予想外にも持って来た武器を係員に差し出した。
「大切な物なので、終わるまで預かって貰っていいですか?」
「え? その武器は持って行かなくて良いのですか?」
蒼は黙って頷く。係員は不思議そうな顔して蒼を見る。
「しかし、他に何も武器を持っていらっしゃらない様ですが……ああ、なるほど。それですか」
「はい! 大丈夫ですか?」
「はい。『一つ』ですからね」
蒼は係員とグータッチを交す。女性同士、心が通い合った事が嬉しいのだ。
「大丈夫の様ですね。こちらのテントにどうぞ。予選開始のコールまでお待ち下さい」
「よ~しやるぞ~! って、この人数は……うおえっ、男くさっ」
案内されて、16個ある内のDのテントに入った蒼。テントにこもるその男臭にいきなり鼻が曲る。
ざっと200…いや300人と言ったところだろうと蒼は目算する。これが全参加者の16分の1に過ぎないと言うのだから、まったくもって恐ろしい規模の大会である。
その中にあって、蒼は女性、しかも未成年の参加者という異色の存在だった。すぐに参加者(の中の下衆な方々)に見つかり、囲まれてしまった。
「おっ、女がいるぜ」
「ひゅう♪」
「うわっ!?何ですかあんたら!しっしっ!」
「こんな所にいるとヤラれちゃうぞ?お嬢ちゃん。帰れ帰れ!」
溜め息を吐く蒼。
魔王の支配下あった頃よりはマシとはいえ、この世界は決して治安がいいとは言えない。魔王時代はならず者が世に溢れ、警察機構がズタズタになり全く機能していなかった。
今もその尾を引いていて、完全な再建は遠い先になる見通しだ。
「へへへ」
「えっ……うひゃあっ!?」
蒼はお尻にヒヤリと風を感じた。服の裾がめくられた事を意味していた。慌てて振り向いて抑えるも、眼前の男達のニヤニヤ顔を見て遅かった事を察する。
「願わくば嬢ちゃんと当たりたいもんだぜ」
「全くだ、へへへ」
「最っ低……あ、マーガリン!待て!」
「うおっ!?」
下衆に飛びかかるギリギリの所でマーガリンの手綱を引っ張る蒼。
「失格になっちゃうから!ステイステイ!」
「おっかねぇ犬だな……」
マーガリンと共に鋭い眼光を浴びせると、下衆はすごすごと引き下がって行った。
とそこへ、スピーカーからアナウンスが流れ込む。「来たか」という声がどこからともなく漏れた。
「えーお集まりの諸君。大会委員長だ。まずは時間通りに集まってくれて何よりである……が」
一拍置いて怒声が響く。
「多いんだよお前ら! ここから予選トーナメントやってたら終わる頃には日が暮れるどころか日を跨いじまうだろうが!」
そう、この人数で予選を行う事自体が無謀なのだ。オーディションか何かをやって、もっと人数を絞るべきだったのだが……。
「いや、運営側の怠慢じゃね?」
「そこの君。何か言ったかね。失格にするぞ」
「いえいえ、お続けくだせぇ大将」
「そこで、絶対に残業をしない主義の私が解決方法を提示してやる」
大多数が察した顔をしている。こういう時に有象無象を掃除するやり方は、昔から決まっているものだ。
「バトルロイヤルだ。どうせ本戦に出れるのはこの中のたった一人。殴り合え。今日は特別に殺しても不問にしてやる。神様からの恩赦ってやつだ」
会場がザワついた。その衝撃発言に、各々に別々の感情が去来する。
――殺してもいいのか……!?
先に述べた様にこの世界は治安が悪い。しかしどんな無法地帯でも「殺人」はやはり特別な物である。
人を殺せば、罰を受ける。体にも心にも。誰もがそう教えられて育っている。その罰が、チャラになるというトンデモ宣言。
笑みを浮かべる者。顔を引き攣らせる者。真顔の者……もっとも、表情が感情の全てを表すとも限らないが、全員少なからず興奮している。
ちなみに蒼の顔は引き攣っている。
「それではただいまより神前試合『シールド&トライデント』、大予選会を始めます! まだよまだよ……レディー………」
「マーガリン、お座り。良い子にしててね」
息を飲む蒼。既に数人が、自分に狙いを定めている事に気づいていたからである。
呼吸を整えて地面に手を突き、サラサラと撫でる。
「大丈夫、これなら……私なら、いける!」
「ゴォォォーッ!」
火蓋は切って落とされた。




