第1話:はじまりの予知
ここは織原蒼がかつて住んでいた地球と比べ、魔法が発達した世界。あまりに便利な「魔力」というエネルギーが科学の進歩を拒絶したのか、TVもPCも存在していない。一部の技術者による進歩はあるにはあるが、世には出ていない。
大自然の中に点々と現れる街。その中で人は社会を形成していた。
しかしその社会を脅かす魔物や悪人がいる。どういう訳か、何度滅びても、新しい悪が誕生する。
そんな悪を排除して来たのは、常に強者であった。
そして束の間の平和が訪れると、民間人は無責任な興味を持つようになる。
「この平和を築いた強者の中で、最も強いのは誰なのか」
そして強者は、GGコロシアムへ……「シールド&トライデント」参加のため集う。
最強の称号と、神の座をかけて。
***
「もう少しで着くよ! 頑張ろう、マーガリン!」
蒼はペットの大型犬マーガリンを連れて予選会場へと向かう。
この異世界で、弱冠18歳の蒼は占い師として生計を立てていた。最初は少女占い師として老若男女問わず町の人気者になり、生活も安定していたのだが……。
サンプルが集まるにつれ、「とにかく当たらない(100回に1回程度は当たるのだが)」と悪評が立ち、生活は苦しくなっていった。
「このままじゃジリ貧なんだよ。飢え死にする前に、元の世界に還らなくちゃ」
下を向いてブツブツ言いながら歩く蒼は、巨大な胸板にぶつかった。
「うわっ」
「あ、すいませんね」
蒼はその男の岩の様な胸筋に弾き飛ばされて、尻餅をついた。
「あいたた……」
「ごめんなさい、僕の不注意です。立てますか?」
年は20代前半だろうか。蒼より30㎝は大きい体に、白い肌。
そして顔つきは、どことなく『蒼が親近感を覚える』ものだった。
「いえ、こちらこそよそ見しちゃって」
男が差し出した手を握って、蒼は立ち上がる。
その時である。蒼の脳内に白黒のイメージが飛び込んで来た。
「えっ!?」
「どうしました?」
頭を押さえて動揺する蒼を、男は気遣った。
だがその時蒼が見ていたイメージは、その男の悲劇の姿であった。
「私が、立っている……血塗れで倒れるあなたの傍に……」
「はぁ?」
「私が、あなたを殺した……?」
男は蒼を睨む。奇人変人を見る目であった。恵まれた体躯から見下ろしている眼には流石に迫力があり、蒼は1歩、2歩と後ずさる。
「僕があなたに負けて死ぬと言う事ですか?」
「い、いや! なんて言うか私、占い師でして……」
「失礼な娘さんだなぁ、もう! あなたと当たっても負けるなんてありませんよ!」
腹を立てた様子で歩いて行ってしまった。しばらく目で追っていると、また誰かにぶつかっているのが見えた。
「なんというか、トロい人なのかな……でも、あのイメージは一体?」
自慢の茶髪を2、3回掻き毟り、ぶんぶんと頭を振る。
「まぁ遠未来は当たらないし、気にしないっと!」
蒼は以前の世界にいた時から、未来予知の能力を携えている。それを利用して占い業を立ち上げたのだが、どういう事だか遠い未来のイメージはさっぱり当たらないのだ。
彼女は一先ず予選会に集中する事にした。頬を少し紅潮するまで叩いて気合いを入れる。
「予選を通らなきゃ、話にならない! やるぞ~!」