第17話:二人の獅子
トーマスは、回路を作るのが好きだった。
そこに雷を流し込むと、眼ではとらえられない速度で進み、然るべきゲートをこじ開けて、仕掛けを動かしていく。時には自分の思い通りに行かないときもある。だがそれは自分の脳みその未熟を示しており、飽く迄作った通りの動きであった。
やがて彼は演算機を作ろうと思うようになった。
回路だけでは入力に対する分岐パターンがあまりに少ない。無限の可能性を、自分の回路に持たせてやりたかった。
だがたった一人で行う演算回路の高速化は熾烈を極めた。現実ではシリコンバレーの某社に代表される強者達が、血道を上げて可能性を切り開き、進化させてきた。そして星が生まれ、林檎が育ち、窓が作られた。
そして過ぎる事15年。
彼らの様にはいかないまでも、トーマスは遂に脳を五つ持つに至った。
両腕と両脚。そして勿論「自分の頭」。
テスト結果も上々。問題は、動かし続けると雷の消費量が激しいと言う事だった。
だから二つのモードを作った。
必要な時だけ電力を供給する「カウンターモード」。そして常に電力を供給する「常時供給モード」。
その力を、見せる時がやって来た。
***
「常時供給モードへ遷移! 活動時間……残り10分!」
雷の供給により、トーマスの体が発光し始める。正確には彼の武器を駆け巡っている一部の半導体が。
「何だ!?」
不可解な現象に、ユンケルの足が止まる。ゆっくり頭を上げるトーマスの顔には、うっすら迫力すら漂っている。
ユンケルは飛んだ。トーマスに向かってではなく、観客席との間を仕切る壁に向かって。
そして壁を蹴った反動でトーマスの側面に移動する。この移動距離を、目にもとまらぬ速さで詰めた。
「貰ったぞ!」
死角から繰り出される爪。ユンケルは勝ちを確信した。
しかし、反応出来る筈のないトーマスの右腕が、しっかりと正拳の形でユンケルの爪を弾いた。
「馬鹿な、人間が反応できる速さでは……」
「ふっ」
連撃が飛ぶ。先程までのカウンター一辺倒ではない。今のトーマスの動きは、常にスピードが乗っている。
攻めていたはずのユンケルが、機械の拳に圧されて下がる。
「人間風情がッ」
後ろに退いた屈辱を味わったユンケル。直進して来るトーマスに対し、爪を地面に立て、猛スピードで体を入れ替える。今度はトーマスの背後を取った。
「獅子を舐めた報いを受けろ!」
だがトーマスはそのまま壁に飛び、蹴った。それは先程のユンケルと全く同じどころか、さらに先を行っていた。
「あれは……三角飛び!?」
学がその動きに名前を補完した。今、武器を含めたトーマスの体重は軽く200キロを超えている筈。その重さであの動きをこなした事が学には衝撃だった。
「コマンド0x2C、連脚!」
「げっ!?」
その勢いのまま、左脚を足刀の形でユンケルにぶつける。そしてぶつけた左足でバランスを取り、右脚で廻し蹴りを放った。
ユンケルの脳天にヒットした。
「ガフゥ」
吹っ飛ばされるユンケル。トーマスもそのまま地面に落下すると思いきや、腕立ての形で着地し、スムーズに立ち上がった。
全て対人を想定し、何度もシミュレーションを重ね、プログラミングされた動きだった。状況に合わせてメインの脳であるトーマス自身が信号となる雷を飛ばせば、後は常時電力を供給している四肢が……コードをフラッシュに焼いてある機械仕掛けの獅子がやってくれる。
これが彼の武器、マライアンの本当の力であった。
「小僧……舐めるなよ小僧!」
しかしユンケルは本物の獅子である。まだこの程度のダメージでは終わらない。
二人の獅子は改めて向かい合う。トーマスとて無傷ではない。
――常時供給モード、限界まであと6分!
最後の攻防が始まる。




