第16話:カウンターパンチ
獣人は、普通人とは違うエリアで暮らしている。
別に、普通人との仲が悪いわけではない。学校だって一緒だし、同じ場所に住もうと思えば住める。
だが、その希少さからどうしても目立ってしまう事と、基本的に『魔法』が使えない事がコンプレックスとなり、獣人達が自ら壁を作っているのだ。
だからユンケルは、一人で狩りをしていた。
そして年々増していく孤独感……寂しさに耐えられなくなったところに、大会開催の報せが飛び込んで来た。
獣人は、普通の人間になる事を望んでいた。
***
「先の先! やりますね!」
試合を観察していた法龍院学は、そのユンケルの動きを見ていた。トーマスが自分から動くように仕向け、その一歩目のモーションの先を行く。見事なカウンター攻撃である。
――そう、お前はカウンター……後の先しかできないんだろ!?
巨大な機械の拳を前に出して、カウンター……トーマスはこのパターンしか出してこなかった。
それをユンケルは「出さなかった」ではなく「出せなかった」と分析した。
そしてそれは的中する。
「どりゃあああ!」
「ぐおおおッ!?」
ユンケルはいつの間にか、二足歩行から四足歩行に……獣の型になっていた。
その前傾姿勢のスピードにトーマスは対応できず、ユンケルのブチかましが決まる。
衝撃音が鳴り響いた。観客席前の壁にめり込むかの様に、トーマスの体と武器が突き刺さっている。
「かはっ、はぁっ、はぁっ、ふ~!」
ボディへの強烈な打撃により、一瞬肺の呼吸機能を止められてしまったトーマス。急いで息を整える。
だが、ユンケルは獣である。その間を黙って見過ごしてくれるわけが無かった。
前傾の四足走法。百獣の王の猛スピードの突進が視界に入ると、トーマスの股間は縮み上がった。
――喰われるーーッ!!
その時、トーマスの本能が反応した。自然と発動する雷魔法が、回路上を駆け巡る。
「コマンド0x09、掌底!」
ユンケルが体ごとトーマスに突き刺さる。トーマスの死を予感したものも観客の中にはいただろう。
だが、宙に浮いたユンケルの姿を見とめると、観客から驚嘆の声が上がった。
「か、カウンターが決まったのか!?」
「ライオンの突進を、掌底一発で!? 馬鹿な!」
吹っ飛んだユンケルを見て、ホッと一息吐くトーマス。しかし。
「甘いんだよ、普通人どもめ」
ユンケルはそのまま身を翻して着地すると、再び突進して来た。トーマスが身構える。
「もう一度だ! コマンド0x09!」
「だから、甘いってんだろ!」
間合い1mの所で、ユンケルは爪の力を使って突進を止めた。これが最高のフェイントとなり、今度はトーマスの掌底が空を切った。
「がおおおおッ!」
満を持しての爪が、トーマスの体……金属に守られていない脇腹付近を抉った。
「ぐむむ……あああああッ!」
耐えられない痛みが技術者を襲う。大型獣の爪が普通の人間に与えるダメージは、死に直結するレベルのものである。
「終わったな」
次の試合が控えている槍術家チョー・ヒリュウが呟く。彼も獣の攻撃のヤバさをその身で知っている一人であった。
「トドメだ!」
ユンケルが最後の一撃を加えんと、またしても突進を敢行する。
トーマスの脇腹の痛みはまだ取れない。万事休すと思われた。
だが、この痛みがトーマスから余裕を奪ってしまった。追い詰められたトーマスは、即座に本気になる事を決意した。
「常時供給モードへ遷移! 活動時間……残り10分!」
その言葉に応えるかの様に、トーマスの体が発光し始めた。




