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第12話:喰らってでも前へ

 マルカーノは悠々と歩いて放り投げられた大剣を拾いに向かう。蒼びいきの観客から溜め息が漏れる。


 ――大丈夫。ちょっと予定とは違うけど、第一段階は既にクリア済み……。


「土神様、土神様。ちょっと多めに供物を捧げますので、哀れな蒼にちょっと多めに神通力を下さいな!」


 マルカーノが大剣を拾う隙に、蒼が少し長めの詠唱を終えた。


「おっ、来た! ここだぁ!」


 直後、両手で神通力をキャッチする。


「魔法、か。羨ましい事だ」


 マルカーノはじめ、非魔術家の面々はこの「神通力のキャッチ」ができない。神が投げ渡して来る神通力の気配。それを察知・特定するのはセンスに頼る部分が非常に大きいので、この感覚が理解できない者には魔法は使えないのだ。

 もちろん、魔法の修練に費やす時間を体術・武術の鍛錬に割けるという点では、必ずしもデメリットとは言い切れないのだが。


 そして蒼は、距離を保つ土魔法の準備を終えた。


 ――土魔法第四式……土竜!


 放たれた神通力が地中へ潜る。一直線にマルカーノへと向かい、またも足元から鋭い土撃が地上へ這い上がる。


「むうっ!」


 マルカーノは両手で顔面、ボディをガードした。手首から腕にかけて数か所の裂創、擦過傷を負ったが、まだ体はピンピンしている。


「距離を保つか……だが、もう詠唱の暇は与えん!」


 ――よし、狙い通り!


 マルカーノは知る由もないが、蒼は自分の計画を着々と進行させていた。


 ***


「んっ、んっ、ふぅ」


 その頃、西側控室の学は念入りに柔軟体操を行っていた。蒼は試合中なので、今なら邪魔が入らないと踏んだのだ。

 だが、水を差す様にその男は話しかけて来た。


「余念のない事だな、ホウリュウイン君」

「あなたほどの人が何の御用ですか?」

「用が無ければ話しかけてはいけないのか?」

「いえいえ、光栄ですよ。『無翼乃飛龍』さん」


 ショウ・デュマペイル。伝説の騎士と呼ばれる男だった。

 柔軟の邪魔にはなったものの、学としても好都合な廻り合わせだった。誰も戦っている姿を見た事のない強者。互いに勝ち進めば二回戦で当たる。その時に備えて、少しでも情報が欲しい。


「君は第一試合、どう見る? さっき少しだけ見て、ここに戻って来ただろう」

「おや、見られていましたか」


 学は気味悪がった。自分がショウを観察しようとしているのに、まるでショウの方が自分を観察している様ではないか。


 ――常勝たる秘訣はこの観察眼だとでも言うのか?


 訝しみながらも、質問には答える。


「どっちが勝つかは知りませんが、蒼さんの戦略はハッキリしていますよ。そこにマルカーノ氏が気づくかどうか、の勝負だと考えます」

「同感だな。恐らく多くの者は、その狙いを誤解しているだろうな」

「でしょうね」


 ショウも同意見を示したが、自分の言葉では語ろうとしなかった。この男は隙を一切見せない。学は自分の情報を逆に与えない様に注意しながら話す事にした。


「やっぱり、試合を見に行きませんか?」

「答え合わせというわけだ。いいだろう」


 ***

「むん!」


 マルカーノは遠距離から、大剣を思い切り振り下ろす。剣圧が風と砂埃を吹き荒らす。


「うわっ」


 動き易さから好んで着ている、蒼の黒のパーカーワンピースの裾が風で捲れ上がり、場違いな歓声があがる。

 だが蒼は裾を押さえる事では無く、砂埃に乗じて接近して来るマルカーノの方に全神経を集中させる。


「よし、『次』が見えた!」

「今度こそ捉えた! 喰らえ!」

「喰らうのはそっちだよ、おじさま!」


 ――土魔法第参式、土拳!


 接近戦に持ち込まれた蒼は、鋭いタイプの土魔法から面で殴るタイプの土魔法に切り替えて攻める。

 蒼の見た未来では、大剣による薙ぎ払いが敢行される。避けるのが難しい広範囲の攻撃だ。

 ならば先の先を取り、打撃を顔面に当ててダウンさせてやる。そして無傷のまま再び距離を取る。それが短時間で思いつく蒼の脱出プランであった。


「フガッ!?」

「いよっしゃ! ピンポイントで鼻直撃!」


 確かに当たりはした。

 だがマルカーノはハナから相討ち狙いで突っ込んできているのだ。彼を止めるには蒼の第参式では力不足であった。


「え、嘘!?」

「いよいしょお!」


 咄嗟に後方に飛ぶも間に合わず、大剣の横薙ぎが左腕に掠ってしまった。


「あぐっ」


 切れ味は無かったが、鉄パイプで思い切り腕を殴られた様な鈍痛が残った。

 土拳を喰らったマルカーノは鼻血を流している。鼻骨が折れているらしかったが、彼にとっては耐えられない痛みでは無い。

 一方の蒼は左腕が痺れて上がらなくなってしまった。相討ちとなったが、値段は後者の方が高くついた。


うー」

「これで、回避の難易度は更に上がったな」


 だが、織原蒼の大戦略はこの瞬間にも進行中であった。

 痛みから来る脂汗を流しながらも、不敵な笑みを浮かべて見せる。


「その余裕、いつまでもつかのう。占い師よ」


 ――大丈夫、条件は全てクリアした。あと2,3分逃げ切れば!

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