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第9話:供物たち集う

二週間後。遂に本戦の初日がやって来た。


本戦は三日に分けて行われるスケジュールになっている。

一日目は一回戦8試合。

二日目は二回戦4試合。

三日目は準決勝2試合+決勝。

試合間にどれだけ体調を整えられるかがカギとなる。一回戦当日の朝、織原蒼はとにかく食べていた。


「マーガリンも食べて食べて食べまくっちゃえ! 体力あってのものだねよ!」

「バウワウ!」


何も考え無しに大食いしているわけではない。試合開始時間から計算して、より多くのエネルギーに変えられる様に今食べているのだ。

お腹が膨れて来たところで両手を合わす。


「ごちそう様でした! じゃあそろそろ行こうか、マーガリン」


愛犬にハーネスを付け扉を開け、ふと思うところあって食卓に振り向いた。


――蒼はよく食べるわねぇ。母さん作り甲斐があるわ。


――蒼といると父さんも食欲が出て来るよ。


昔を思い出し、またしても緩む涙腺をぐっと閉める。


「必ず、還るからね……お父さん、お母さん」


***


GGコロシアム、通称サトウコロシアムには4万8千の観客席が用意してあるが、開会式を前にして既に満席となっていた。


「いよいよだな……」

「勇者VS魔王を目の前で見られるんだぜ!? たまんねーよ」

「魔女はおっかねーよな。やっぱ優しくて露出の多い魔剣士だろ」

「クライダル、誰か殺してくんねーかな」

「伝説の騎士ショウの戦いがついに見れるよ」


観客は早くも各々の「推し」について語り合っている。特に知名度の高い魔王討伐関係者は人気があった。


そんな中、コロシアムに一人……ひと際輝きを放つ人物が現れた。比喩では無い。本当に輝いている。


「下々の諸君、斯様な余興のために集まってくれるとは誠に大儀である」


人々を照らす太陽の様な存在。その名は。


「我が名は戦闘神、トーレスである!」


4万8千の観客が、ウェイブの様に順々にひれ伏していく光景は圧巻であった。

人ならざる者、神。初めて見るその存在の文字通りの眩しさが、下民たちに自然と頭を下げさせたのだ。


「楽にせい。余も今日から三日間、そなたらと同じく観客であるのだからな」


輝きながら歩みを進めるトーレスは、中央最前席に用意されたVIP席へ腰かける。

そして、主役たちに命を下した。


「選手ども! 入るがよい!」


***


次々に入場する戦士たちに対し、アナウンサーが余計な一言を加えつつ紹介する。


「第一試合東側! その剛腕、脳まで筋肉詰まってます! 戦士マルカーノ!」

「第一試合西側! 18歳のダークホース! 占い師オリハラ・アオイ!」


入場した蒼は、緊張の面持ちでコロシアムの土を踏みしめる。


「マルクス、遠慮はいらねぇ! 全員ぶっ殺せ!」

「マルカーノ、優勝さらっちまえ!」

「アオイちゃーん! 頑張って!」

「色んな意味で期待してるよ~」


マルカーノと自分の声援の質が違う事にむかっ腹が立った。前者はまっとうな期待の声援

だったが、自分に対しては明らかにからかいの声が混ざっていた。


「い、今に見てなさいよ!」


好奇の視線に耐えながら歩く蒼であった。


「第二試合東側! 血迷った機械オタクがコロシアムに迷い出た! 技術士トーマス!」

「第二試合西側! 報酬は人肉で頼む! 人間よ、獅子の力を思いしれ! 獣人ユンケル!」


「第三試合東側! 伝説の騎士は虚像か実像か? お前の目で確かめてみろ! 騎士ショウ・デュマペイル!」

「第三試合西側! 一人軍隊ここにあり! 不死身の殿しんがりチョー・ヒリュウ!」


「第四試合東側! キャリア不明、実力不明、謎が謎を呼ぶ謎の男! ジョン・デビルレイズ!」

「第四試合西側! 二時間寝てても予選通過! 魔闘家ホウリュウイン・マナブ!」


「第五試合東側! 大会最年少? どうやって予選通ったの? 謎の美少女アリシア13歳!」

「第五試合西側! 急げ観客今すぐ逃げろ! 世界最強暗殺業者クライド・クライダル!」


「第六試合東側! 全てを無に帰す強靭な肉体! それ以外は一切の情報なし! 魔人ダヴール!」

「第六試合西側! 幾千の敵を倒した百戦錬磨の女傑! 魔王討伐軍・魔剣士レイムル!」


「第七試合東側! 空飛ぶ賞金稼ぎ! ジャンク・ボブチャンチン!」

「第七試合西側! この女の超魔術にコロシアムは耐えきれるか! 魔王討伐軍の一人! 今世最悪の魔女リリィ・リモンド!」


「第八試合東側! 蘇った大厄災、この大会は終わりの始まりか!? 誰でもいいからコイツを殺してくれ! 魔王アスカリオ!」

「第八試合西側! この男こそがこの世の主人公! もう一度世界を救え! 魔王討伐軍・勇者ルネサンス!」


全選手の入場が終わる。特等席に腰掛ける戦闘神トーレスの満足げな顔が、揃えた面子のレベルを物語っている。

少し間をおいて冷静になった蒼は、一番気になる法龍院学の姿を確認した。


「あれ?」


学はある男の方を睨みつけていた。

その先には、タッパのデカい男が立っていた。


***


「うむ、よく集まってくれた選手諸君。それほどまでに神の座が欲しいのかな? 如何にも人間的な欲望だな」


主催者トーレスの開会のあいさつ。それは挑発的な言葉で幕を開けた。


「まあ余には貴様らの思惑など、どうでも良いわ。心躍らせる戦いを見せてもらえれば、それでよい。だがな……」


参加者も、観客も押し黙っている。マイクなしでも全域に届いてしまうその声量。存在感。

戦闘神こそ、この場にいる誰よりも強い存在だった。


「『此処』に来れるのは、一人だけだぞ」


参加者の目の色が変わる。この大会で優勝しれば、あのトーレスの高みへ到達できる。

神になれる!


「たった一つの椅子だ。せいぜい醜く奪い合え。戦いとは、元来そう言うモノだからな」


喋り終わったトーレスは、参加者の中の一人の姿を見つめていた。


――期待しているぞ。お前には。

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