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第8話:蒼ひっくり返る

「よし、今度はあの木陰に隠れよう」


 蒼は帰路についた学を密かに尾行していた。

 試合のダメージが残っているが骨折しているわけでもないし、今は休むよりも重要な事があった。


「あの人の素性を知りたい……!」


 占い師の蒼に降りかかって来るあのイメージ。自分の足元に転がっていた男は、学としか思えなかった。

 そしてあの絵の通りの出血量なら、恐らく彼は死んで……。


「いつまで着いて来るつもりですか?」

「うひょあっ!」


 素っ頓狂な悲鳴をあげる蒼。「追っていた筈の男」が「後ろから話しかけて来た」のだから無理も無かった。


「し、瞬間移動……?」

「いえ、岩場の死角から回り込んだだけです」


 いつの間にか見通しの悪い岩場に誘導されていた事に気づく蒼。

 恥ずかしさから頬が紅潮していた。


「あんたは今朝の失礼な占い師さんですよね? 僕にまだ何か用が?」

「け、今朝はとんだ失礼を! あの、その……」


 人見知りの蒼はもじもじするばかりで話を切り出せない。

 業を煮やした学が立ち去る仕草を見せると、慌ててパワーワードを口から漏らす。


「こ、このままじゃ死ぬんです!」

「誰が!? 何で!?」


 学から突っ込まれた。主語も述語もすっ飛ばしては伝わらない。

 学は大きく溜め息をつくと、口下手な蒼を気遣ってか、自分から喋り出してくれた。


「確か、あなたが僕を殺すんでしたよね?」

「は、はい」

「はい、じゃないですよ。今着けて来たのも僕を殺すためですか? 暗殺者クライドみたいに」

「ち、違いますよ……あ、そういえばクライド、トーナメント出るらしいですよ」

「えっ」

「予選通過してたって、リリィさんから聞きました。姿は見えなかったそうですけど」


 学の頬を冷や汗が通過する。クライドの出場。一番遅く本戦を突破した学には無い情報だったのだ。

 冗談のつもりで言っただけなのに、本物が出場しているとは。


 ――と言う事は、試合外の暗殺も警戒しなければならないのか。


「……まあそれは置いといて。殺す気がないなら、何で尾行するんですか。気持ちの悪い」

「ぶっちゃけて言えば、その、本戦出場を辞退して貰えないかと!」

「はぁ?」


 空気がヒリつく。大予選会で300人の激戦を生き残り、やっと手にした本戦出場権。それを放棄しろと言う。


「だ、だって! 死ぬよりはマシだし、私も殺したくないし!」

「ふざけた事を仰るな。そこまで自信があるのなら、今ここで」


 学は無造作に歩き、ノーガードで間合いを詰める。

 結果、二人は密着しそうなほど接近した。


「僕と戦ってみて下さいよ」

「い、いやそれは……えっ!? 痛っ」


 ピシャリ、と瞼を叩かれたかと思うと、蒼の体は上下逆さまになって宙に浮いていた。

 二人の体重差は実に50kg近い。ここまで差があれば、足払いによって乙女の体を浮かすことだって容易なのだ。


「舐めた報いを受けろ」

「きゃああああ!!」


 学は倒れゆく蒼の頭を鷲掴みにすると、そのまま地面に叩きつける! ……その寸前で、頭は止まった。

 コメカミを掴むアイアンクロー状態のまま、地面スレスレでの寸止め。驚異の握力があるから成せる芸当である。


「どうでしたか?」

「こ、恐かった……」


 そのまま地面に(ゆっくり)降ろされた蒼は、涙目になっている。

 土魔法を使う暇もなく、体術のみで圧倒されてしまった悔しさもあるが……死の恐怖が涙腺を緩ませた。

 感覚的にはバンジージャンプのロープが想定より長かった様なものなのだから、蒼ならずとも誰だって怖い。


「あなたが魔法を使えるかは知りませんが、体術だけだとここまで差があるんですよ」

「う……」

「二度とこの話を持ち出さないで下さい。じゃあ、僕はこれで」

「待って、学さん!」

「気安くファーストネーム呼びですか……」

「ん!」


 蒼は腰が抜けて立つ事が出来ない旨を、両手を広げるジェスチャーで伝えた。

 学はしぶしぶ手を貸した。


「全くもう」

「学さん、出場を諦めろとは言わないけど、一つだけ聞きたい事があるんだ」

「何ですか」


 出場辞退はさせられなかった。

 それでも、少しでもこの男の素性を知っておきたいと蒼は思った。それが突破口になるかもしれない。

 最初に、最も気になっている質問をぶつけた。


「法龍院学さん。あなたは、『日本人』ですか?」

「何!?」


 学の表情が変わった。

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