第1章 偽善者 0話 語り人
楽しんでいただけたら嬉しいです。
私は歩く。進み続けなければいけない。
雪が降る前日になると鈴を弾いた様な独特な声で鳴き空を駆け回りながら、あちこちに水色の羽を落とす鳥がいる。
寿命が近くなると海に向かって鳴きながら飛びその過程で羽はほとんど、抜け落ちる。
なので寿命が近いため飛び回っているのか、雪が降るのかは分からない。
その鳥の羽を拾い、身に刺さる様な風の冷たさに耐えながらまた歩き始める。
今まで何度もの冬を越えてきたが慣れることはない。100を超えてから数えるのはやめた。そして寒さには年々弱くなっている気がする。
「歳でもとったかなぁ」
この役目を前任者から授かった瞬間から体が老いることはない、特徴としてはそれだけ。
だから寒いものは寒いし、暑いものは暑い。特に痛みには弱い方だ、個人的に。病気はしないが転べば怪我もするし、首を折られたり、心臓を潰されれば死ぬ。
ただ病気をしなくて寿命が永遠ってだけだ。
語り人と私は呼ばれている。
世界の人は皆本当に存在したのかとみんな驚き話を聞きたがる。そしたらもちろん今まで記してきた出来事を話して、また旅をするだけだ。
記すのは簡単だ、その時の記憶、気持ち、残したいすべてを強く思うだけ。そうすれば私の中に私が死んでしまうまで残り続ける。
語り人としての役目を終えたいと思ったら、後継者を選び相手の目を見て力を渡すと強く思うだけ、それで解放される。
もしも、不慮の事故で死んでしまったり誰にも力を託さず死んでしまったらならその力は世界の誰かにいくらしい。
何を記すかはその時の旅人によって変わる。特にこれといった決まりはなく、人によっては愛した人のことのみを記しその代が終わるまで語り継いだり、旅した先のすべての出来事を記している人もいる。
私に関しては各地を巡り美味しかった食べもの、温泉、珍しい特産品、、、とにかくたくさんだ。ただ観光してまわっているわけではない。必要なだから記しているだけだ、うん。
そして私にも旅のルールがあった。
人間にはあまり深く関わらないようすること。理由に関してはたくさんあるが、1番は寿命である。仲良くなってしまうと別れが辛い。一箇所に留まり家庭を持つことも出来る、がいずれはみんな死んでしまうのだ。私を残して。だから私は各地を逃げるように旅をする。
長い時間を生きようと死に慣れることはないから。
そして拾った水色の羽を見ながら1人の少年のことを思い出す。この鳥が好きだと言ってたな。髪は珍しい黒髪で短髪、身長は平均くらい。体は鍛え抜いていてバランスのいい筋肉で見ていて本当に逞しい体だと思っていた。たまに髪を切るのをめんどくさがり前髪が邪魔だと言っていたが、それはそれでよく似合っていたと私は思っていた。
それは大切な記憶であり、記録。私の中の宝物であり私が唯一愛した人。体中に刻み込まれている彼の記憶を、気持ちを1つ1つたぐり寄せる。そうすれば彼に包まれてる気になれるから。
彼に会ったことが私の歩き続ける理由
自分に嘘つき続け、周りに嘘をつき続け、人の幸せを誰よりも1番に考え、願い、死んでいった。
彼の一生分の願いは叶ったのだろうか。
最後に何を思い逝ったのだろう。
人は彼を偽善者だの、嘘つきだの言うがそうでは決してなかった。ただ本人を含め誰も気付けなかっただけだ。彼の中にあるものに。
私はもういない彼をこの世界に焼き付けていく。
運命に足掻き生きた日々を。
この世界に彼を忘れたとは言わせない。
そしてそれが叶ったら、会いに行くよ。
正直な感想よろしくお願いします。