時間の残酷さ
盆が過ぎ、九月が近づくと蛙が鳴き始め、まだ肌寒くはならないが、一年の一大イベントが終わったかのような寂しさが漂い始めた。
子供たちは蕾を萎ませ、懸命に実を付けようと、かぼちゃはビー玉より小さい実を付け、トウモロコシは頼りない鞘のようなものを出し始めた。しかしどれも小さく、出来ても果実といえるほどにはならないだろうと思う大きさだった。
向日葵も沢山花を咲かせたがどれも小さく、種が作れるのか心配だった。
しかしマイコだけは順調そうで、花を萎ませ、落ち着いたようにのんびりする事が多くなった。
顔もさらに大人に近づき、十代後半、もしくはもう成人と変わらないくらいの美人になった。
性格も大分大人びてきて、体を動かす遊びは減り、服を作ったり、里香を相手に会話をしたりと、落ち着きが出てきた。
しかしそれに伴い、よく食べるようになった。
今までは一日三回も与えれば十分だった栄養も、五回は欲しがる。
おそらく種を育てるために必要なのだろうが、ブクブク太らないか心配になる。父としては勝手ながら、やっぱり娘には太らないで欲しい。
「わ~ま~。わ~」
先ほどから黙々と作っていた草の冠を渡そうと、マイコが俺を呼んだ。
マイコにとってはとても大きなものだが、俺からしたら指輪ほどの大きさしかない。
しかし俺はそれが嬉しくて、受け取ろうと手を差し出した。
するとマイコは、人差し指に冠を強引に押し込もうとした。だが入らないと分かると、次は薬指に嵌めようとする。しかしそれも俺の指には小さすぎて入らず、今度は薬指に挑戦する。
結局そこにも嵌らず、最後にたどり着いた小指に押し込んだ。
グイ、グイ、と体全体で無理やり押し込み、なんとか根元まで入るとマイコは満足そうに笑みを浮べ、新しい草をくれと言ってきた。
草を渡すと再び何かを作り始め、それが出来ると里香を呼び、俺と同じように小指に草の冠をプレゼントしてくれた。
指輪は意外としっかりとした作りで、初めて貰った娘からのプレゼントに、涙が出そうなくらい嬉しかった。
それがあまりに嬉しく、里香がマイコにキスをするのを真似て俺もキスしたが、何故か俺だけ下唇を思い切り噛みつかれてしまった。
なんで? ……娘というのは気難しいものだ。
そんな日々が続き、あっと間に時間は過ぎた。
ますます秋色が濃くなると、子供たちの成長の遅れが目立つようになってきた。
かぼちゃは実を大きくすることは出来ず、トウモロコシも八センチほどの小さな実を付けるのが精一杯だった。それでも、どの子もそれを大切に育てるように成長を続け、俺たちは毎日頑張れと声を掛けた。
向日葵はすでに小さな種を落とし、役目を終えたように元気がない。
それに気付いているマイコは、少しでも多くの時間を向日葵と過ごせと俺たちに声を掛ける。
マイコ自身は紙風船のような実をつけ、ほとんど葉を動かす事も無くなってきた。
里香にそのことを尋ねると、そろそろ別れの時期が近づいていると言われた。
零は種を落とすと次第に硬化を始めたらしい。もって一月も無いだろうと言われ、覚悟を決めた。
しかしそれは同時にマイコが独り立ちした証拠であり、親としては喜ばしい事でもあるのだが……やっぱり寂しい。
里香も同じ気持ちのようで、テントの中では元気が無い。
それでも畑に出るときは悟られぬよう気丈に振舞っていた。
最近ではマイコとの会話にも変化がでてきたようで、自分の子供はどんな姿なのか、どんな場所で芽吹くかなど、子供に関する話が多いらしく、里香は変わらぬ様子で話を合わせているが、それを聞くと胸が痛んだ。
そしてそれ以上に、里香に辛い思いをさせ申し訳が無い。
里香は平気だと言うがとてもそうは見えず、それでも毎日マイコと話す姿に、母は強いと教えられた。
朝晩と徐々に寒くなり、空気が乾きだし、枯れ草がちらほら姿を現し出す頃、とうとう子供たちが俺達の元を去って行った。
かぼちゃも、トウモロコシも、向日葵も、次々その役目を終え、疲れたように眠りに就いた。
俺たちにはその最後の瞬間は分からなかったが、マイコは一人一人旅立つとそのたび俺たちを呼び、それを教えてくれた。
植物には死という概念が無いのか、マイコは役目を終えた子を指差し、子供を寝つかせるような仕草をして教えてくれた。
それを見て、引き抜いて埋めてあげようかと問いかけると、マイコは、「駄目だ!」と言い、「寝ているから起さないように静かに撫でろ!」と教えてくれた。
俺たちは子供たちを優しく撫で、お疲れ様と声を掛けた。
子孫を残せたのかは分からないが、立ち尽くす子供たちは笑っている気がした。
マイコ以外の全ての子が眠ると、マイコは下手くそながら綺麗な声で別れの歌を捧げ、俺たちは手を合わせた。
そして……
小さな黒い種を落としたマイコは、肌の色を徐々に黄色く変化させ、下半身から硬くなっていった……。
これは良い作品ではありません。誰も笑えないような作品では……
何故マイコは私に、この作品を書かせたのでしょう。




