母から娘へ
「よっ…………と」
「ねえねえお母さん!」
沢庵を作るために大根をぬかに埋めていると、もうすぐで六歳になる娘の邑がとたとたと駆け寄ってきた。
「どうした? 邑」
「なにしてるのー?」
「沢庵漬けてんだよ」
「たくあん! 私お母さんのたくあん好きー!」
「お前誰よりも食ってるもんな。これは私が食うために作ってんだぞ」
「でも食べてもいいってお母さん言ってるよ?」
「食うななんて一言も言ってねーからな」
「んー……。ねえ、じゃあ作り方教えてよ!」
「なにが『じゃあ』だよ」
「自分で私の分を作る!」
「そうか。でも一から十までは教えねーよ」
「えーなんでー!」
「知りたきゃ私のやり方を観察してみろ。そしてよく味わえ。沢庵の作り方なんざ、本やネットでいくらでも調べられる。大事なのは味付けだ。味付けは個人の好みで、調べることはできねぇ。だからそういうとこだけは、教えてやるよ」
「うーん…………わかった!」
「でもっていつか私のやり方をマスターして、お前の好みに合わせてアレンジが加えられた時、その瞬間からお前だけの味が出来上がる。親なんか越えてくもんだ。いつまでも私の味に縛られんな。お前も、私を越える日が来る」
「うーん…………?」
……説教臭かったか。
少し、難しい話をしてしまったらしい。