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2-1

 コンコンコン


 初めて訪れる地でありながら、ヒロミは熟睡することができた。ネーリの自転周期や大気組成がかなり地球と近いことから、意識して生活スタイルを変える必要がないというのが大きいだろう。そういえば「昆虫の惑星」という俗称から想像されるような虫、もしくはそれっぽい生き物を、ここに来て以降まだ実際に一度も目にしていないのではないか。そう、確か目にしたのは、ヴォイアースにヴォイアクー、ヴォイミといった虫型機械だけだったような……


 コンコンコン……


 木材のようでありながら、金属のようでもある、この建物全体にも用いられているネーリ独自の建材の質感は、ヒロミの理想とする自然と科学との融合の一例のように感じられ、実に心地よかった。空調などを調べたわけではないが、王城上層フロアに位置するこの部屋が快適な湿度と温度に保たれているのは、この建材に拠るところが大きいのではなかろうか……


 コンコンコン、ヒロミ様!


 「……!?」

そこで初めて、それがドアをノックする音だと気付いた。


 なにせ部屋はヒロミのこれまでの人生で経験したことがないほどに広く、ドアまでは遠い。夢見心地だったヒロミはパジャマ姿のまま慌てて飛び起き、中二階の寝室から階段を駆け降りてドアに向かった。


 「ヒロミ様、起きてらっしゃいますか?」

「はい!今出ます」


 ドアが開くと、やや慌てているふうのフェイミが立っていた。

「ご同行されたオースティン博士が、先程帰郷されました」

「へぇ!?」


 ヒロミは身なりも整えず、軍港へ向けて駆け出した。出発まではまだ時間があり、急げば間に合うかもしれないとのことだった。フェイミの話では、博士は昨日強制的に部屋まで連れられた後も、設備やら部屋そのものやら、通訳がいないことやらあらゆることにケチをつけ、責任者でないと埒が明かないということで、とうとう”女王”との面会を要求したそうだ。博士がこの星の女王について、あらかじめどこまで知っていたかは定かではない。が、実際に「女王の間」に入りその実態を思い知ったことで、とうとう交渉の余地がまったくないということを悟ったらしい。


 その後は脱力し、夜明けと共に再び宇宙港行きのヴォイアクーに乗せるよう求め、荷物も放置したまま帰国を決意したという話だ。


 「なんて勝手な……!!」

ヒロミは慌てて道を急いだはいいが、やはり港までの道順をまったく覚えていず、何度も間違えているうちにゆっくりと追ってきたフェイミに出くわし、改めて道を教わって、なんとか格納庫を見渡せる通路まで到着した頃には、既に氏を乗せたヴォイアクーはスケイルヴェールを散らして飛び去ったところであった。


 「もう……!!」

ヒロミは肩で息をしながら、通路の手すりを軽く叩いた。

「間に合いませんでしたか……」

呼吸を整えているうちにフェイミが歩いて現れた。


 「ったく、何が『次につなげてかなきゃいけない』よ、自分から真っ先に断ち切っておいて……!」

かすかに見えるスケイルヴェールの軌跡の先を、ヒロミは睨みつけるように見上げた。とは言え、たとえ出港する前に氏に会えたとしても、特に思いとどまらせるようなことはしなかったであろう。氏の向かうところ、結局この星では厄介事がついて回るような気がしてならない。ある意味こういった転身の素早さこそが、彼の渡世術の一つなのかもしれない。だが、やはりヒロミは内心思わざるを得なかった。現実が予想と違ったならば、素直に認識を改めればいい。それでも学者なのか!と。一言どうしても言ってやりたかった。


 納得できない様子でヒロミは立ち尽くしていた。

「ヒロミ様、端末はどうされました?」

「あ……」

フェイミにそう言われ、我に返ったように答えた。

「ヘッドボードに置いて寝ちゃいました……」

フェイミはフード越しにも分かるくらい心底がっかりした、というような顔をした。

「骨伝導も用いることで、心韻でなくても情報のやり取りができるようにするものですから、外していたら意味がないでしょう」

どうやら休日の早朝から想定外の仕事が増えたことに不満のようだ。


 「そ、そんな……、まだ慣れてないことも多くて……!」

そんなにダメ出ししなくても……、とヒロミは口をとがらせて拗ねて見せたが、フェイミは意に介さぬ様子で続けた。

「さ、ではあの方の部屋にも行ってみますか?何もしなければお荷物は確実に処分されてしまうと思いますし」

「え……、あ、はい、そうね!」

そう言うとヒロミは、全身に力を込めたふうで、フェイミの目を凝視した。

「な、何ですか……?」

「心韻で言ってみたの、『端末ちゃんと着けます、ごめんなさいね!』って」

「はーーーーーっ……」


 今度は声に出してため息をつかれた。

「なんとなく受け取ることはできても、送るのは発音器がない生物ではできるわけがありませんから……」

「そ、そんなこと分かってますよ!」

そう言ってヒロミは、既に歩き始めているフェイミの後を追いかけた。


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