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フェイミの話では演習用としての機体の武装は、遠距離用の模擬弾に換装されたライフルと、近距離用の小型光学剣、それらにプラスして各機一種ずつの独自装備の携行を許可されているということだ。攻撃がヒットした際には実際にダメージを受けたことを想定して機体の動きに制限をかけ、相応のダメージをシミュレートしているという。各機とも実戦用の装備とはまったく異なっているが、それでも機体や操士の特徴は十分に発揮されるはずだと、フェイミの解説はさらに詳細に及んでいたが、すでにヒロミの理解は追いついていなかった。
一方で、モニター越しに映る操士らは演習前から比べれば息も荒く、真剣さの増した表情に見えた。
ヴォイアースの操縦席は地球での戦闘機と同様に、窮屈そうで体の自由がきかない構造に見える。前面には計器類も並ぶが、側面やシートにはスピーカーのような円形の心韻の受容器が複数配され、それらが鼓動のように脈打ち、そのリズムに合わせ点滅を繰り返すリングが表示されている。鼓動や色は、ちょうどヒロミたちのいる通路に設置されたモニター上の機体を模したステータス画像とも同期しているようだ。現在はどのパーツも穏やかなリズムで青~緑色の点滅を続けている。操士のトワの表情にも余裕が見られた。
実際頭数でいえば4対1の戦いであるにも関わらずその展開は一方的にはなっていない。ピナ機が射撃によりトワ機の進路を限定し、そこをリュクリの機体が近接武器で仕留めるというプランであろうことは察せられるが、トワのシーロトワミは無駄な動きもなく軽やかに攻撃をかわし、リュクリとの距離も保ったまま悠々と舞っていた。
「操士の能力の差というのは、何が原因で生まれるのでしょうか……」
ヒロミがモニターを見つめながらフェイミに尋ねた。
「それは……、地球での乗り物レースや格闘技などとも同じではないでしょうか。人力で動かす場合でしたら単純に体力の問題もあるでしょう。乗り物を操縦する場合でしたら技能さえあれば可能かと思います。ただそこから先の差となりますと、やはり研究や経験の蓄積も必要でしょうし、持って生まれた才能という部分も大きいように思います。ネーリアとヴォイアースの関係でしたら心韻も操作に用いていますので、受容器自体の性能も重要かもしれません」
ヒロミは一瞬首を傾げた。
「あくまで専門家ではない者の一意見ではあるのですが……、心韻は特定の者に主に言葉や意思を送るものですが、受ける側は常に、顎関節付近の骨の空洞にある受容器を通して、自然界から空気の振動や圧力の変動など様々な情報を受け取っていることが分かっています。それらに無意識下で反応することで、ネーリアは身体のバランスを保ったりするのに役立てているのです。ヴォイアースを操縦するのにはそういった心韻と受容器の性質を利用していまして、機体の制御だけでもかなりの情報を処理しなければならないと聞いています。
それに加えて攻撃などの意図した行動を瞬時に行うためには、必要な情報を効率的に取捨選択できるかどうか、ということも重要になってくるということです」
「……じゃ心韻っていうのは、ネーリアにとっては感覚器官を使ってできることの一つに過ぎない、という感じなんでしょうか」
「日頃意識することはありませんが、そういった面は大きいです。ヴォイアースの操縦もそうですし、お渡ししたブレスレットのような通信機器も、我々ネーリア自身の身体機構の研究によって解明された技術を応用したもの、と言われています」
「それは……、思ったより深いのね……」
ヒロミは左腕に巻いたブレスレットに目を向け、心韻とネーリの技術水準に興味を奪われかけた。
「わぁァ!!」
その時歓声が上がった。ようやく戦況が動いたようだ。ヒロミは慌ててモニターに視線を戻した。
「やっぱり一人は大変でしょう?トワ!無理しないで副操士を雇うべきじゃない?」
ピナの心韻が響いた。モニター上のシーロトワミのステータス表示では右前翅にあたる部分がグレーアウトしている。
「これは、直撃ということですね。スケイルヴェールは胸部のモーターで発生され各部に送られ増幅されているのですが、この状態ですと前翅には一切出力されていないようです」
見ると、トワ機操縦席のシート右肩後方に設置された受容器も同様に光を失い、情報伝達も絶たれていることがうかがえる。
「まだ飛べているようだけど……」
「ええ、シーロトワミは羽を著しく巨大化させていますので、その4分の1を失っただけでしたら飛行は可能です。が、羽が大きい分おそらく影響も大きく、制御するのは非常に難しくなっているでしょう。
先程との関連で申しますと、姿勢の制御などは受容器が通常無意識に行っていることの一つなのですが、そこが普段と異なる状態になった場合には、どうしてもその対処のために意識して処理を割かねばなりません。空中移動をメインにするシーロトワミのようなヴォイアースでは、きわめて不利だと言わざるを得ません。主席操士のトワ様ですから当然想定している事態だとは思いますが」
「体よりはるかに大きい羽だものね。あれでは狙われるのも仕方ないような……」
「様々なものを犠牲にしても機動性を確保したいということなのだと思います」
姿はまさに地球の蝶のようだ。棒のように華奢な体から巨大な羽が伸びた格好になっている。右前翅からはスケイルヴェールの流れが消え、灰色に濁った状態なのが確認できる。左腕に装着された展開式のシールドで遠距離攻撃を弾きつつも、牽制射撃や急速移動を挟むことでなんとか両機とは一定の間合いを保っていた。
ただその軌道はときおり不自然な旋回や急停止を挟んでいる。そして射撃とは異なるタイミングで、シーロトワミの付近では幾度も爆発が起こっていた。
「ピナ様の独自武装の空中機雷ですね。通常は視覚情報を遮るような仕掛けが施されています。我々の感覚でしたら察知は可能なのですが、ヴォイアースの高速移動中では難しいはずです。ピナ様は単純に飛び回っていたわけだけではなく、こうした罠を張って徐々に移動範囲を狭めようという作戦だったのだと思います」
ステータス画像では残り3枚の羽色も徐々にだが彩度を下げ、鈍い点滅へと変わりつつあった。
「直前でかわしているようだけど、やっぱりダメージが蓄積されてるんですね……?」
不安げにヒロミが発言したタイミングで、更に観衆のひゃっという悲鳴が響いた。今度は左後翅が攻撃を受けたようだ。点滅速度が落ち光がゆっくりと失われる様子が映し出された。
「当たりっ!」
リュクリの得意げな心韻が聞こえた。リュクリのアーサナディの右手には、鞭を丸めたような形状の武器らしきものが握られていた。
「あちらは、リュクリ様が得意とする独自武装です。適した翻訳かは分かりませんが、チューブラー(管状の)ソードというような俗称で呼ばれています」
「蝶の……吻のようなものでしょうか」
「おそらくそうでしょう。こちらの生物でもいくつか見られる口吻の形状を模したものです。展開させて直接背後の羽を狙ったようです。標準装備として渡されている短刀のような直線的な形状の武器は実戦ではあまり使われません。こうしたタイプの方が意図通りにコントロールでき、相手の予想できないところからの攻撃も可能になるためかと思います。先端部や形状自体にも様々なバリエーションがありまして――」
「これじゃ防戦一方じゃない!」
たまらずヒロミが口を挟んだ。リュクリ機はチューブラーソードと呼ばれるその武器を何度も伸縮させ威嚇しつつ、徐々に距離を縮め踏み込むタイミングをうかがっているように見えた。かなり離れた相手にまで打突をヒットさせることも可能なほどのリーチがあるるようだ。機雷で行動を制限したところへこの攻撃を加えたということだろう。モニターではスロー映像も再生されていた。
トワは相変わらず両者の挑発的な心韻に応ずることはなかったが、既に機体を操ることに手一杯という表情に見えた。シーロトワミはかろじて攻撃をかいくぐり移動を続けている。
「羽が2枚で、大丈夫なんでしょうか……。トワさんも他の武器使えるんですよね!?」
「勿論携行はできるはずですが、モニター上には何も表示されていませんね。こうなると使用する余裕もないかもしれませんが……」
形勢の変化に戸惑うヒロミに、フェイミは苦しそうに答えた。




