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フェイミとの待ち合わせ場所へ向かう途上においても、すでに何機ものヴォイアースが通過していく羽音が響いてきた。それは航空ショーのような催しを連想させ、ヒロミは若干の高揚感を覚えた。
連絡通路とは、王城を構成する玉ねぎ状構造物の一片一片をつなぐ部分のことだ。根本に近い地中の基礎部分や下層エリアでは構造物は融合し一体化しているが、中~高層部分にかけては独立している。そのため、歩行者用や、ヴォイミ、ヴォイアクー用の線路のようなものまで、様々な規模の連絡通路網が各棟の間に張りめぐらされている。
地図に従い外周部分へつながる旨の警告が書かれた二重のドアを開けると、かなりの強風が吹きつけた。外壁に沿って伸びる細い階段の先が連絡通路につながっているようだ。階段を上りきると、そこにはいたるところに植え込みが配された、周辺の数棟の間を連絡する開放的な空間が広がっていた。ここは完全に歩行者用のそれであろう、腰を下ろして休息できる場所や、小さいステージのようなものも数箇所設けられている。視界を遮るものは周辺の数棟しかなく、見下ろせば高所が苦手な人ならば確実に怯える高さだ。ベンチや植物の配置、通路自体の幅の広さが、その感覚を和らげているようにヒロミは感じた。同じく観戦目的と思しき人もいるようだが、まだ人影はまばらだ。
通路の端の方では軍服の者たちが複数名、端末をいじったりヴォイミを操ったり何やら作業をしている。指示を受けた3~4体のヴォイミらは、ガチャガチャと動きながらちょうどブレスレット型端末から投映されたものと同じような半透明のパネルを、通路に集まった者たちに見せるかのようにうまく距離をとりつつ頭上高くに表示させた。大きさは端末のものとは違いおそらく100インチほどとかなり巨大だ。ヒロミはなんとなく、ここが観戦に適しているという理由について察しがついた気がした。まだ何も映っていないそれらのパネルをぼんやり眺めていると、背後から
「ヒロミ様」
と聞き覚えのある声がした。
声の方を向くと、そこには銀色の長い髪を風になびかせた女性が穏やかに笑いかけていた。
「トワ……さん……?」
強い風のせいで、体を覆っている服を手でおさえても時おり裾がはだけ、その都度ボディスーツ状のインナー姿が顔をのぞかせ、ネーリア特有のしなやかで引き締まった体のラインが顕わになる。
「失礼しました」
女性はフードを目深にかぶり直した。その姿はヒロミの見知ったフェイミのものだった。フードの縁からはわずかにスケイルヴェールの欠片がこぼれ落ちキラキラと輝いている。
「驚いた……、トワさんとそっくりで……」
「……我々は……、いわば全員が一人の母親から生まれた姉妹のようなものですので……、容姿が近くなることも珍しくありません」
フェイミはゆっくりと言葉を選ぶように答えた。
「勿体ないです、何か……、せっかくの綺麗な髪なのに……」
「これも私たちの社会の特徴でして、我々は感情の起伏をあまり表に出すことはしません。むしろ恥ずべきことだったり、立場によっては失礼なこととされることも多いのです。心韻やスケイルヴェールは感情が直接反映されるものですので、我々のような身分の者は極力人目から隠すべき、というならわしなのです」
「そうなんですね……」
ヒロミはフェイミの姿を改めて見つめ、周囲にも目をやった。ローブ状の服や軍服と思しきつなぎ姿で全身を覆っている者ばかりであえて意識はしなくなっていたが、ここで活動しているのは皆女性だ。着衣の下には皆がフェイミのように魅力的な容姿を携えているのか……、にわかには想像がつかなかった。
「さて、ここにお呼びした理由なのですが」
「あ、はい!」
「ここでは模擬戦の様子を、ヴォイアースの周りを追尾するヴォイミを通じて、見ることができるような仕掛けを施したヴォイミが設置されているのです」
おおよそヒロミの想像通りの仕組みのようだ。
「中継モニター……みたいな感じですね。それって、私たちが見てしまっていいんでしょうか……」
「この区画に出入りできる人がそもそも限られていますし、非公開の訓練でもありませんので問題ないでしょう」
ヴォイミらが表示させているパネルに映像が映し出された。一枚にはシーロトワミとその周囲を、もう一枚には対戦相手となるであろうヴォイアース――シーロトワミと比べるとやや羽が小さいがそれでも十分に巨大な黒~青紫色に輝く四枚の羽をもつカラスアゲハのような機体、”アーサナディ”――とその周囲を、それ以外にも細かいパネルを複数表示させ、各機の操縦席内部やステータスなどを映し出している。軍服の作業員らしき者たちがそれらのモニターに見入りながら、心韻で連絡を取り合ったり忙しそうに働いていた。
通路上には食べ物、飲み物を手にした観戦目的と思われる見物人も現れ、徐々に賑わいを増してきた。モニターを通して、高官や要人たち用の観覧席も戦闘エリア付近の王城の外郭に設けられていることが分かった。正式な合戦の際にはこうした場で指揮官によって、もしくは出撃前にヴォイアース操縦席から操士らによって、歌が詠まれるというなんとも雅な慣習があることもフェイミは説明した。ただここで流れているのは歌ではないようだ。何やら操士たちが会話している様子がモニター越しに伺える。作業員がヴォイミに指示を出すと、心韻が音声化されて、連絡通路上のギャラリーにも聞き取れるようになった。
「――っと、いくらなんでもナメすぎでしょ!!」
「それはこっちのセリフだ、何度やっても結果は変わらん、どれだけ同じことを繰り返せば気が済むんだ?」
軽くあしらっているふうのトワに怒りをぶつけているのは、あの到着した日に港の通路で従者とキスを交わしていた操士、ピナだった。
「心韻まで……聞いちゃっていいんですか……」
「問題ないでしょう、操士の方々もモニターされているのは承知の上だと思います」
「けど……」
ヒロミはアーサナディの操縦席を映すモニターをそっと手で示した。
「あちらは操士が二人いるけれど」
「ヴォイアースは本来二人で制御する乗り物なのです」
「そうなんですか?」
後部座席に見えるのはあの時の従者のようだ。補佐的な役割であろうか。
「ヴォイアースの操縦は操士への負担が非常に大きいため、全力で集中して戦闘を継続できる時間は通常10分ほどです。シーロトワミは特に繊細な操縦技能が要求されるため、十分な能力を持たない副操士の場合はむしろ負担になるということで、現在はトワ様が一人で操縦されているということです。当然操士に加わる負荷は極端に大きいと言われていまして」
「操士は寿命が短いって聞いていたけれど、じゃ彼女の場合は……」
「長くて一年ほど、という話です」
「そんな……!!」
環境の似たネーリにおける時間の感覚は地球人のそれと近いと考えられている。だが予め予備知識のあったヒロミにとっても一年という寿命はあまりに短く感じられた。
「通常のネーリアも平均寿命は3年ほどですし、我々の価値観ではそれが最善の選択ということになっておりますので、あまり悲観的に捉えることもありません。自然交配によって子を生み、共同体で育て、若いうちに操縦技術を教え適合する者を探し出す、というサイクルよりは、ある程度知識や経験を次の世代に受け継ぎつつ短い周期で交代していった方が、より無駄が少なく安定した戦力を得やすいという判断なのだと思います」
あくまで戦力の確保が優先されているようだ。
「死生観も随分と違う、ということですね……」
しばし考え込んだ後、ヒロミは尋ねた。
「気を悪くしたらごめんなさい、フェイミさんは……、死が怖かったり悲しかったりはしないんですか?」
「何も怖くないと言えば嘘になるかと思いますが、ネーリアにとっては死を悟って蛹に還ることこそが名誉だと言われています。実際個体として別の存在になったとしても、ある程度の記憶は引き継げますので……、その点に関しては恐怖は和らげられています。むしろ不名誉なのは”のたれ死に”で、蛹に遺伝子を残さないような死に方はネーリアにとってもっとも忌むべきことだと教えられます。オスを「焼き殺す」というのも、世代を確実に途絶えさせる不名誉な処し方、という意味合いなのです」
「それは……」
「まるで使い捨てではないか」という言葉が出かけて、ヒロミはぐっとこらえた。




