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第六話 最弱のステータス

 扉の向こうには赤いカーペットが部屋の反対側まで延び、大きな階段を上った居る。上にある巨大なシャンデリアは天井から吊り下げられることはなく、ふわふわと宙に浮きながら部屋の隅々に光を届けている。

 両脇にはそれほど人数は多くないが様々な人が並んでいた。装飾が多い騎士服に身を包んだ人、ここまで連れてきた男と意匠は似ているが装甲が少ない軽鎧を着た者、足が全く見えない長さの紺のワンピースを着た女性など様々だったが、一番注目すべきことは階段の上で大きな椅子に座り冠をかぶった男とその隣の青年だった。その二人こそがこの空間の支配者で、この国の統治者だった。そのことを見抜くのは簡単な事だった。


「来たか。して、見知らぬものが二人居るが、彼らが勇者殿なのか?」


 椅子に座った恰幅がいい、悪く言えば太った男が口を開いた。その見た目とは裏腹に声には力が在り、静かな空間を手に入れ支配するように揺らした。


「わしの記憶が正しければ、現れる勇者は一人のみのはず。どういうことなのか申してみよ、ガーランド」


 王は二人をここに連れてきた男、ガーランドに尋ねる。しかし、彼はここまでの道案内をしただけでその理由は全く知らなかった。だから彼にはこう答える事しかできなかった。


「は、自分も原因はよくわかりませんが、気にすることではないのでは。召喚に失敗したわけではありませんし、何より勇者が二人いれば戦力は増えます」


 王の前では嘘はつけない。発覚した暁にはしかるべき制裁が待ち構えているから。それを知っているガーランドには問題は無いというのが精いっぱいだった。


「まあ良い。ステーテスを見ればいいだけの話だ。おい、写し身の水晶を持ってこい」


 王がそういったとたんに左右に並んでいた侍女たちが動き出し、部屋の隅に置いてあった一抱えもある水晶玉が部屋の中心に運び込まれた。一見何の変哲もない水晶だった。部屋の調度品だと言われたもわからないほどに。


「早速で悪いが、その水晶に触れながらステータスオープンと言ってもらえぬか、まずはそちらの女性の方から」


 言っている内容は同意を求めているが、相手に拒否させない凄みが有った。との問いに舞はこくんと頷くとゆっくりと赤い絨毯を踏みしめてがら歩いていき、水晶に触れた。


「ステータスオープン」


 舞がそうつぶやくと水晶の中で蠢いていた靄が光を放った。最初は白い光だったが強くなるのに合わせて、薄い透き通った紫色に染まった。やがてその光は収束し、真上に一枚の薄紫色の板を写し出した。


【名前】榊原 舞


【状態】普通


【体力】450/450


【魔力】600/600


【レベル】1


【筋力】80


【敏捷力】120


【魔法操作力】90


【器用】110


【防御力】70


【スキル】上級剣術 lev.1 最上級光属性魔法 lev.1 聖装召喚lev.1 看破lev.1


身体能力上昇(極)lev.1 成長補正(極) lev.1 アイテムストレージlev.ー


 この内容はこの場にいる人々には衝撃的だったらしく、感嘆の声が漏れ出てしまっている。近くの者と耳打ちしあい、共感を図っている。しかしこの場で全くその内容を理解できていない二人はおいてかれてしまった。


「おお! これは凄い。聖属性魔法が最上級とは!」


「レベルが一だというのにステータスが高すぎるぞ! 将来が恐ろしい……」


「ああ! やっぱり神様は私達を救ってくれるのですね」


「スキルにレベルが無いものが。いったいどうなって……」


 理が聖属性魔法なんてないけど? と周りにいる貴族たちの発言に疑問に思っているところで、小じわが僅かに見え始めた侍女が一歩前に出た。そもそも理にはステータスの知識が全くないため、舞のステータスがどれほどすごいか全くわかった居なかった。それはそのステータスの持ち主も同じなのだが。


「私からスタータスとスキルについて簡単に説明させてもらいます。最初はスキルとは何なのかです。一言で言うと、スキルとはその者のこれまでの成果を表したものです。生まれたころから持っているものを除いて、これまでにどれほどの鍛錬をつんできたのかや、どれほど強い願いを持っているかなどです。そして、それをわかりやすくしたものがスキルでありそこには神様の祝福が含まれているんですよ」


「祝福って、何が起こるんですか」


 最初は出しゃばらずに傍観しようかと考えていた理だったが、この世界の常識が聞ける少ないチャンスだと判断し、口をはさんだ。


「例えば、魔法をひたすら練習します。そしたら、まだスキルを持っていない者は努力を神に認められて、その力を使うお許し、つまりスキルが発現し、既に持っている場合は成長します。そんな物が、神様の祝福でなかったら、なんだと、言うんです、か?」


 説明の最後の方は白熱してきたのか侍女は理の方に一歩ずつ近づき、逆に理は一歩ずつ下がって行った。彼女の肩を舞が手でたたくと、侍女は息を飲むような声と共に、もとに戻った。


「あ、申し訳ありません。そして、筋力などの数値ですけど、これは実際に体が出せる力に対して、補正されている数値です。なので痩せこけている人が大きな岩を軽々持ち上げてしまったりもします。もちろん、大抵は見て目通りなのですが。と、ここまでが基本的なスキルの説明です。わかりましたか?」


「あの、私が女神さまに貰ったスキルは何処に含まれるんですか?」


 舞が大勢の目にさらされる中のため緊張と羞恥で、おずおずと手を上げる。それに対して説明していた侍女はいい質問だと言わんばかりに、笑みを深めた。


「さっき一部例外があると言いましたね。その中の一般的なのは生まれたときから持っているスキルと修練によって手に入れた物です。それ以外の分類には、あなた達のように勇者として召喚された人に与えられたスキルが代表的です。つまり、神様によって直接与えられるというわけです」


「説明はそれくらいでいいだろう。それではそろそろ、そちらの青年のスキルを見せてもらいたいのだが。よろしいかな?」


 いつになったら自分が勇者でないということを言える機会をうかがっていた理は、それをあきらめた。自分のスキルの詳細を知らないが、舞に圧倒的に劣るのは事実で、それをこんなにもたくさんの観衆の目にさらすなど、落胆が大きいことは火を見るよりも明らかな事だった。まだ、理が先にスキルを見せた方が平和に済んだかもしれない。理は小さくため息を吐くと水晶玉の前に立った。


「……ステータスオープン」


 その時の水晶玉の変化は舞の時よりも僅かだった。弱々しい光を放つとすぐに紫に変わりはじめ、半透明の板を空中に写し出す。


【名前】江藤 理


【状態】普通


【レベル】1


【体力】10/10


【魔力】20/20


【筋力】1


【敏捷力】1


【魔法操作力】2


【器用】2


【防御力】1


【スキル】 錬金 lev.1 調薬lev.1 全属性超基礎級魔法lev.1 看破lev.1 鑑定lev.1 観察lev.1 身体能力上昇(極小)lev.1 MP上昇lev.1 超基礎級剣術 lev.1 

アイテムストレージlev.1


「え! あんた、殆ど一じゃない。よっわ」


 移し出されたスキルが見えた瞬間、のぞき込んだ舞の声が謁見の間に響き渡り、どよめきの波紋を広げた。しかし、彼女にも悪気があったわけではない。理のステータスが弱いのは誰の目に見ても明らかなもので、それを見て驚いてしまうのはしかたがないと言っても問題はない。もちろん、誤解だが彼女から見た理の印象がこの酷い言いようを手助けしたのは言うまでもない。


「な、なんなんだ彼は! こんなステータスは、初めて見る……」 


「スキルの数は多いが、よくもこんなに使えないものばかり集まったものだ」


「これでは、魔王はおろか赤子にも勝てぬのでは?」


 疑念が渦巻き、この場を支配する。人々は再び隣の人と話し合い、彼のことを評価する。王は思わず玉座から立ち上がり、先程説明をしてくれた侍女に至っては瞳を大きく見開いて固まってしまっている。


「君は勇者なのか? 申し訳ないが、先程の女性とは打って変わって、弱すぎて見たこともないステータスなのだが……。もしよければ説明をして頂けますか?」


 玉座の横にいた青年が降りてきて、冷や汗を流しながら理に近付いてきた。


「えっと、確かに僕は勇者召喚の為の魔法陣でここまで来ました」


 理がそういうとその先の言葉に期待する声が様々なところから漏れ出す。しかし、首を振ってその期待を否定する。


「けど、勇者なのはあちらの榊原さんの事で、僕は偶然その魔法陣にまきこまれてしまっただけなのです。なので僕は勇者ではありません。期待を裏切るようですみません」


 理はなるべく慎重に、ていねいに、下手なところを針でつついてしまって相手を怒らせないようにしながら説明した。しかし、相手の期待はこの世界の未来の未来が掛かっているもので、あまりにも大きく落胆の色を隠すことは出来てはいなかった。さらにさっきまでは友好的あった視線もどこかぎこちない。


「だ、大丈夫だよ。何かあったら私が手伝ってあげるから。ほら、元気出して」


 一番最初に理に冷たいことを言ってしまい、さらに不憫に思った舞が理に小さなガッツポーズをしながらフォローを入れる。


「ありがとう。けど、榊原さんはきっとこれから大変なことをしなくちゃいけないんでしょ? 僕は大丈夫だからそっちを頑張ってよ」


 やんわりと理は断ろうとしたが、思いのほか冷たい言い方になってしまった。それに対して舞はハッと目を見開き理を見つめた。言葉を重ねようと口を開こうとするが、伝えるべきことが出てこずに、ゆっくりと口をと閉ざした。力のある自分が周りから冷たい目線を浴びせられる理に声をかけたところで、それは皮肉にしかならないことを理解したのだった。


「とりあえず、名前を聞かせてはもらえぬか?」


 玉座に座りなおした王がそういって、ひじ掛けに肘を置きながら顎を触った。


「自分は衛藤理と言います。十七歳です。すみません、自分でも何が何だかよくわかっていません」


 理はさっさと自分の簡単でむしろ少ない説明をすると後ろに下がってしまう。そもそも彼の言葉を聞いている者など如何ほどもいなかった。下がる時に舞と目線を合わせて頼むように小さくうなずいた。


「私は、榊原舞です。私は勇者だなんだと言われてもまだ、何を求められているのか分からないのですが……」


 その言葉に王は自分の額を叩いた。


「す、すまん。まずわしはフェルディウス王国の国王、ルミステル・フェルディウスじゃ。早くステータスを見てみたくて思わず伝えるべきことも伝えずに先走ってしまった。ここでは要点だけを話すことにしよう。ついこの前、一月も経っていないが魔王が現れたのだ。まだ被害はこうむっていないが、いつ襲われるかもわからない。ずっと恐れて震えていることも出来ん。第一奴は神の奇跡に逆らうような存在だ。だから我々は神に願ったのだ。救済を、な。その結果君が、榊原殿が来てくれたというわけだ。詳しいことは後日侍女にでも聞くとよい。今日はもう、夜も遅い」


 話を聞けば聞くほど舞は顎に力が入り、下唇を噛み、手を握りしめた。彼女は悟ってしまったのだ。王は口にはしていない、オブラートの向こう側の事実に手に。

 世界の脅威を取り除け、そのためには魔王を殺せと言っているを戸を。それをこの場にいる人で毛でなく、世界中の人々が求めているのだと。俯いた彼女の頭の中を様々な感情が駆け巡る。世界の人々の願いを叶えて地球へ帰りたい気持ち、生き物を殺したくない気持ち、頼れる人もなく先が不安な気持ち。それらの背反する感情がぶつかり合い、火花を散らし、彼女を傷付つけ苦しめる。


「わかり、ました」


 やっとのことで絞り出せた言葉は、それだけだった。そんな彼女に駆け寄って手を取る影が有った。


「わ、私はエリス・フィルライトです。あの、今後は私もついていくので何かあったら頼ってください」


 自分より明らかに幼い子にそんなことを言われた舞は力ない笑みを浮かべて彼女の手を握り返した。そんなエリスにここまで連れてきた鎧の男が頭をこずいて、エリスは痛みに波で目になった。


「エリス、俺の事を忘れるなよ。俺もついて行く事になっているんだからな。ガーランド・イシュタリスだ。これからよろしくな。それからこいつが……」


 ガーランドはそう言うと騎士が並んだ中から一人、彼より細身の男を引っ張りだしてきた。


「やめてください。そういう隊長は昨夜に練習した挨拶が全く出来てはいないじゃないですか。ファーレンハイト・クロッカスです。自分は一緒には行けませんが、白の中では宜しくお願いします」


 彼の男にしては長めの銀髪は部屋の明かりを反射して輝き、青い瞳は冷たい氷が頭蓋にはまっているかのようだった。今度は玉座の横に居た青年が清廉された動きで階段を下りてくる。迷いが無くまっすぐで堂々としたその歩き方は一種の風格さえ感じられた。


「今日の所は自分で最後にしましょうか。自分はこの国の王子で次期国王。ラミステル・フェルディウスです。自分が国王になった時は勇者殿を全力で支援することを約束いたしましょう」


 舞の前まで来ると王子であるにもかかわらず、彼女の前でひざまずいた。しかし、周囲から非難の声が上がらないのはこの国での勇者の立場を明確に表していた。そして彼女の手を取る。


「ご丁寧にありがとうございます。ラミステルさん……ンッ!」


 舞が短い返事を返した瞬間、彼女の手の甲にラミステルが口づけをした。舞は顔を真っ赤にして理に助けを求める様に振り向こうとしたが、彼は真後ろに居たため目線が合うことはなかった。

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