綺麗な涙
昼頃、ローズの家では少し慌ただしく、落ち着きがなかった。
それもそのはずだウェールズ家の長女が国筆頭の公爵家の投手にキスされそのあと屋敷に来て欲しいと言われたのだから。
「母さん落ち着いて」
「だってローズがアグレット公爵家の花嫁になるかもしれないのよ」
少し前の話でそう思えて仕方ないだろう。と言うよりそうだろう。
はぁ吐息を吐き10歳とは思えない落ち着きで家族の中で一番冷静だった。末っ子の妹はまぁ、いろんな意味で花畑だ。
ローズとアグレット公爵は両親の知り得ない前世の記憶からの思い出があったのだ。しかし、娘とどいう関係かは聞かなかった。
「全くローズ姉ちゃんの前世で何があったんだよ」
これで何回目かわからないため息をついて言葉を零すと党の本にはクスクスとどこか懐かしむような遠い目で窓から空を見上げている。
パタパタと身支度を整えていると玄関をカンカンと客人が来た時する音が聞こえた。ルミアがパタパタと玄関にかけて行った。ローズは後に追いかけると既にルミアが扉を開けていてなんとアグレット公爵に抱き上げられていた。
「ノワル……」
「ルージュ姫様……妹君ですか?」
「はい、末っ子のルミアです。アグレット公爵様」
突然入って来た言葉に驚き後ろを向くとアベルと母親セシリアがいた、
「えっ!ちょっと待って!今ローズ姉ちゃんのことルージュ姫様って……」
冷静にルミアの名を伝え対応していたセシリアも驚いて目を見開いていた。
ローズは苦笑いをして頰をカリカリと掻いていると優しくその手を止められ頰に肌触りがいいハンカチが当てられた。
「頰を搔くのはおやめください。傷になります」
と他の人には見せない甘い顔と声で制していると後ろに控えていた50代半ばの執事らしき人物が咳払いをして主人の気を自分に向けさせた。
「坊ちゃま、一先ず屋敷の方でお話ししましょう。御近所からの目がありましょうからウェールズ家の御迷惑に成り兼ねません」
頷いたアグレット公爵はすっと手にしていたハンカチをしまうと踵を返すとこちらを振り返る。
「では、私の屋敷の方向かいましょうか」
母親とアベルは呆然と歩き出したアグレット公爵の後を歩き出し、ローズはクスリと笑みを零しながらルミア手を引きながら再び空を見上げ瞬き一つして、前方に視線を向き直し四人の後をゆっくりとルミアに合わせながら歩く。
アグレット公爵家とウェールズ家の距離はそこまで離れていなく、歩いて数分の距離でしかなかった。
屋敷に着くとすぐさまサロンに案内され静かにそこで公爵が来るのを待った。
「うわ……ローズ姉ちゃんの事なのに俺まですげー緊張してきた…」
プルプルと微かにアベルの膝が震えていて母親セシリアもソワソワと家にいる時よりも落ち着きが無かったがローズだけが平然と落ち着いていた。
廊下からカツカツと靴音が響くと、サロンの前で立ち止まり扉がゆっくりと開かれた。
「すみません、お待たせしてしまって」
「いいえ、こちらこそ。あの……」
ソワソワとしていたセシリアはアグレット公爵が現れるとピクンと背筋を伸ばし、慌てたように目を逸らしローズの横顔を見ると視線に気づいたのかセシリアを見るてきっと大丈夫というように微笑むと膝の上で寝ていたルミアの髪を優しく解くように撫ぜた。
「ねえ、ローズ……」
「きっと、大丈夫…もし、アグレット公爵がノワルなら悪いような事を運ぶことはないと思う」
「よくお分かりですね、ルージュ姫様」
目を眇めながも、甘く口元を緩ましたアグレット公爵はいつも、領民が遠目から見ている貴族や役人対しての冷たい雰囲気とは違う、
領民に対しての優しい雰囲気とは似ているがローズに甘さがあり使用人も驚いて息を飲む音が聞こえた。
「あの、アグレット公爵。今の私はルージュ姫ではありません。その呼び方は……」
クスリと喉奥で笑ったアグレット公爵は目の前の紅茶に手をつけた。
「私はノワール・アグレットと言いますが、ノワルでもある。私は貴方の前ではノワルでいたいし、ノワールとしてもいたいのです。そして、今も昔も貴方のことを愛しています。先程、一目会った時から…」
その気持ちは痛いほどわかるローズは苦笑いをしながら目を伏せ、両腕で抱きしめるように自分の体を包み込んだ。
「貴方にノワルと呼ばれてどんなに心が温まったか」
「私は…」
セシリアとアベルは複雑な思いのローズを眉を寄せて見守っていた。話している途中で目を覚ましたルミアは不思議そうに見上げていた。
「私も、この姿になってから前世の記憶を完全に思い出した6歳の時からずっと好きだった」
すこし顔を赤らめたローズはそろりと顔を上げるとさらに赤く顔を染める。その顔をルミアはペタペタと触っていると隣に座っていたセシリアが膝の上から自分の膝に移動させた。
「今もドキドキしてどうしようもない」
両手で顔を隠すとそのままセシリアの肩に乗せた。
その様子を見守っていたアベルもなんだか赤いような気もする。
「あの、アグレット公爵様はこの間公表したルージュ姫様の騎士様でローズ姉ちゃんがルージュ姫様なんですか??」
「そうです」
セシリアとアベルは息を飲んだ。
「あの時の私たちはお互いに好きだということをことを隠し、全く恋心のない方と結婚しましたが、騎士と姫という関係はでしたが、すこしの時間でも一緒に過ごせることが嬉しかったのです」
ポトリポトリという音がサロンに響く。ローズの瞳から明かりに照らされてキラリと光りながら頰を濡らしていた。
その涙を見たノワールは音もなく立ち上がると微笑みかけまた、涙を拭いた。
「涙を流しやすいのは昔…ルージュ姫様の時から変わりませんね」
クスリと笑って抱きしめるとスポリと収まってしまう躰は前世と同じ温もりと安心を与えてくれた。
これは、アグレット公爵が甘すぎるのか…
ローズがすこし冷たいのか?
でも、甘い気がします(//∇//)