前世
同じ時間同じ日に少女と男は同じ夢を見る。
それは多分前世の記憶の一部。
切なかった恋。
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ローグウルーズ王国
その国は600年を超える大王国の王城の王宮で一人の女の子は、自身に与えられた王宮の南に位置する庭園が綺麗に見える一角を全体を自分自身の持ち物として与えられていた。その中でも最も庭園が綺麗に見える広い部屋が少女の部屋。
その部屋で優雅にお茶をしていた。そしてそ斜め後ろには男が立っていた。その者の腰にはロングソードが装備されていた。
「ねえ、ノワル?貴方はこの国をどう思うのかしら?」
後ろに控えていた己の専任騎士ノワル・アグレアーブルにゆっくりとソーサーに置いたティーカップに出来た波紋を見ながら質問したルージュ・ウルーズはこの国の国王の第二子であり、第一王女の立場にある人物だった。
「そうですね。ルージュ姫様が生まれる十年前まで隣国と戦をしていましたが、我が国が勝利し、それも終わりを告げ何かと平和になったのではないでしょうか?」
静かにそう答えたノワルはテーブルに待たされたティーカップに新しい紅茶をそっと入れ直した。
「ええ、国民はそうでしょう。ですが、王族はそうもいかないみたいね。
貴方がいないとわたくしはいつ襲われるか分からないもの」
そう悲しそうな声で呟いたルージュは隣に置いていた耳が垂れた白いウサギのぬいぐるみと一緒に眠っていた飼い犬で、茶白のチワワがピクリと体を震わせるが主人の手だと分かりまた眠りにつこうとしていた。そのまま膝に乗せた。
「ルクワはいいわよね。誰ににも傷つけられなくて。でも、わたくしは部屋から出ればいつ矢が飛んでくるか分からないわ」
悲しそうに目を眇め、少し震えた手で膝の上のルクワを撫でる。
声を押し殺して泣いていることにノワルは気づくが、騎士として触れることはできない。
(ルージュ様…ああ、どうしてわたしは騎士なのだろう……だだの騎士ではない貴族で騎士だったらルージュ様に触れられたのだろう)
泣いているルージュに優しくハンカチで涙を拭く。それしか彼に許されないだろう。
(ノワルはいつも優しいわだからいつも…好きって言えたらどんなに…)
やがて屈めていたいた体制を元に戻す。
「ルージュ姫様。私が付いておりますから安心して下さい」
そう言いながロングソードに手を置いた。
「いつも私を護ってくれてありがとう」
そう微笑んだルージュ・ウルーズは彼の心を煽るとも思っていないか満面の笑みをいつも送っていた。
それしか、気持ちを伝える術がない。当然お互いに気づくこともなく。
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ジトリとした不快感から目を覚ましたローズ・ウェールズは久しぶりの夢を見た。いや前世の記憶と言うべきか。
450年前のローグウルーズ王国の王家第二子であり第一王女だった自分の記憶。
あの時の自分は心を隠してでしか生きられなかったひと時。でも、楽しかったひと時のほんの一部。愛しい人に会える唯一の方法でもあった。
自分自身が前世の記憶を持って生まれたことは両親も妹や弟も知らない。
この国は何故か前世の記憶を持って生まれる人々が度々現れる。だから誰も不思議には思わないが、自分自身の楽しみを奪われたくはなかった。
(ノワルは今世に生きているのに会うことができないなんて)
この国は前世の記憶を持つものがある多いためか、その記憶を公表する時がある。
例えば、何処かの誰かがこの国の英雄の記憶を持つものとだと公表しただろう。その者に伴侶、つまり、妻がいたとしよう。その妻の名は隠されていて、誰も知らない場合は妻の名を偽のわざと違う名で公表し、本人しか知り得ない名を私があなたの妻だと本当の名を名乗ればわかるように、暗黙の了解で理りができていた。
そして、逆に妻の名をいい、自分の名を伏せる場合もある。
そう、ローズの…いや、ルージュが愛した騎士が、自分が450年前のルージュ・ウルーズを護っていたと言う騎士が現れて世間を騒がせた。
その人物はルージュの名を伏せる事はしなかった。ルージュは世界的に小説の題材に使われる歴史上の人物なのだ。世界一可憐な姫だった。だが、その彼は決して今の自分の名を公表しなかった。その人物を知っているのは王族のみで、ローズはその人物がすぐそばにいるとはまだ思はなかった。
(一度でもいいから一目でも会いたいな。自分を守っていた騎士に……)
乾いた喉を潤すためにキッチンへと足を運んだ。
そして、もう一人同じ夢を見た男の方はと言うと。
ガバリと天蓋付きの黒をベースとしたシックなベットの上で起き上がり、荒い息を吐いていた。
(ルージュ姫様…あなたは一体どれだけ可愛いのですか?)
天井を見上げ悶えていた。どんなに愛していても触れることができないあの日の可愛い愛しい人。どんなに愛しくても騎士でしかなかった自分。
それは今も変わらず、ルージュ・ウルーズという人を愛していた。綺麗だと言われている人でも心惹かれない。
縁談を申し込まれても断る鹿できない。彼女しか愛せないのだからもう二度と偽りの結婚なんてしたくないと思う。
だから先日、自分には前世の記憶を持つというのを公表したのだ。そして、愛しい人の名は伏せずに自分の名前を隠したのだ。この人しか愛せないとも伝えた。
これで少しは縁談は減るだろう。
もう死んでいる人間を今も愛してる自分は愚かだと思われても構わない。けれど本当に彼女がいるならば、そして、自分を今でも愛してくれているのならば前世のやり直しをしたい。
(どう思われても俺は……)
心に思いのまま動く自分に少し呆れながらも近くに置いてある慣れ親しんだ愛用のロングソードを鞘から抜かずに刃先を額に押し当てた。