第7話 心(サイキック)の秘密(お題:アナログ巌流島/デジタル混入島)
その昔、人里離れた地で腕比べと、剣を交えた者らはいた。
名はムサシとコジロー。
闘いの地は巌流島。
果たして、取り決めの時刻に甚だ遅れたムサシに苛立つコジローのイライラ心と、しかしながら厚かましくも2本の剣で闘いに挑むムサシの図太い心は激突している。互いは荒ぶるままに嵐を呼ぶと、嵐は島を覆って海もまたおおいに荒れさせた。
見かねて宮司は間に入っている。後に「心お弁当」を授けることとなる社の宮司だ。
だが二人は聞かず、荒らされた海に海神もまた困り果てると宮司と額を突き合わせた。そうして二人を心行くまで闘わせてやればよい、と別の場所へ移すことを決めたのである。
そう、巌流島ごとだ。
「コンパイルしたのよ」
三両で手に入れた別人の顔でお頭は言った。
傍らには定着の様子をうかがい鬼も浮いており、聞いて子分はぎょっ、とする。
「し、しー言語でやんすか」
うなずくお頭の新しい顔が剥がれることはない。
「デジタル圧縮。島もなにもかもいっしょくたに小さくして、お社の片隅に移したんだ。だがそんなことになっても闘う二人に、今もそこからとてつもないエネルギーは放出されている」
と子分はごくり、生唾をのんだ。
「そ、それが『心』の正体。で、やんしたか」
「危機を知らせに行くだと?」
ふん、とお頭の鼻は鳴る。顔はすっかりお頭のものになったようだ。鬼も仕上がりに満足している様子だった。
「大ボラ吹きどもめ。伝書鳩こそ悪党よ。運ぶ暗号キーで圧縮を解くつもりだ。奴ら心をただの果し合いに戻そうとしてやがる」
言葉に子分もぎゅっと眉を寄せる。
「アナログ巌流島なんて、ただの島でやんす! 心がただの果し合いに戻れば、腹も膨れんでやんすっ!」
しかも解凍場所を間違えてしまえば、とんでもないことになるはずだった。
「どちらが闇か決着をつけてやる」
肩を切り返したお頭の目が遠く空を睨む。
「ですけどお頭ぁ、茶屋ではやり過ぎましたねぇ」
言うものだから、子分の頭へお頭のげんこつは落ちていた。
「うるせー、行くぞっ」
(本編のみ 約810文字)




