第6話 火星と茶屋(お題:顔自動販売機/名を自動転売鬼)
「こいつらが合言葉を書き換えてやがった」
奉行所のオー・眼鏡は、曇りなき眼鏡を通し記録された景色の絵巻を巻き戻してゆく。
「この者、知っています」
とたんパーティの一人は声を上げていた。
「本当かい?」
身を乗り出したのは紅一点、オー・ハンドだ。
「スケサクさん、あんたと会う前の茶屋のことだよ」
「我らはその茶屋からこやつらを追いかけてきた」
マゲがいなせなオー・フットも教える。
「茶屋で何が」
顔へスケサクは首をかしげ返した。
「こやつら、暗黒の心にて火星の術を用い人を殺めた。茶屋で団子を食らった者は皆行き倒れている」
それは肌も泡立つ話であった。伝書鳩パーティは皆して目を見合わせる。
「あやつは食いしん坊であった」
「先を急ぐからと言ったのに食っておったのか」
「それも、われらが社へ辿り着くのを阻んでの事では」
その時、がさごそ藪は揺れる。暗がりに絵巻にあった顔はふい、とのぞいた。
「てめぇっ!」
尻をまくったオー・眼鏡が駆け出す。オー・ハンドも咄嗟と心で、合体を解いた自機を操った。
「オー・ハンドパワーっ!」
きてます、きてます。
巨大なピンクの手は頭上を飛び越し、藪から人影は二つ、たまらずわっと飛び出す。行く先を塞いでピンクの手のひらはどうん、と覆いかぶさるが、指の隙間から人影はすたこら逃げ去っていった。
人影のひとつは「お頭」と呼ばれていた男だ。
「面が割れた。退散だっ」
男は峠を下りながら手もまた打つ。
「こらぁ、えれぇことになっちまいましたな」
その音に呼び寄せられて鬼は姿を現していた。
「今すぐ顔を変えたい。いかほどかっ」
と四角い箱は、走る目の前にぼうっと浮び上がる。
「へえ、上の段が三両で下が一両」
「また値上がりしたのかっ」
「ご時世でして」
「足元をみおってっ」
「まあまあ。お勧めはこの三両かと。購入特典として足のついた名前も自動で転売。新しい名前が手に入るスグレモノでさぁ」
「ええい、いただこうっ」
岩を飛び越えお頭は、浮かぶ箱へと三両、落とした。
(本編のみ 約790文字)




