長い夜
降る雨を、その見えぬ雨足を探して暗い窓へ目を向ける。ヒザの上は温かく、繰り返されるリズムはついさっき眠ったそれへとすりかわっていた。今一度、確かめ、深い寝息に膨らむ背へ触れてみる。
聞かせた話は作り事ばかりで後ろめたい。だからしてもてあまし眠ったのか、それとも思い耽り眠りについたのか。
しょせん、この世にお宝なんてありはしない。むしろ食いつぶされることがないからこそお宝は、永遠の彼方と相場が決まっている。ただ、こうやって耽る夢は虚ろでも、眠れば現実、夢を見る。夢を持たない大人は淋しく、持っていても信じない人間はなお悲しかった。だからして新たな視点も、その視点を信じさせることも、おせっかいが俺の役割と言うわけだ。
そう言えば、さっきの車掌は疑わなかった。行き先の記されていない切符へ平然と切り込みを入れ「今夜はレールがたわみますから十分お気を付けください」とほざいて揚々、立ち去って行った。手慣れた様子がしゃくに障る応対だったことを思い返す。
見えぬ雨が窓の向こうで激しさを増している。叩かれ滲んだ景色が、なおさら行き先を曖昧にして流れていた。
話し相手はもういない。嘘はつかなくてすむぶん長い夜が身に染みた。
だが、まぁ、いいってことだ。
おそらく夜のまま、列車はこの雨を裂き続けるだろう。だからして今度は自分へ聞かせる作り話をレールのたわみに合わせて紡ぐことにする。新しい視点も、それを信じさせることも、相手が誰であろうと俺の役割と矛盾しない。
やがて雨はあがり、夜もまた明け、列車が駅へついた時、目を覚ました膝の重みは与えたビジョンを追いかけすぐにも走り出すハズだった。その別れに自らも目的を持ち歩き出せるよう、語って明かすかと長い夜へ目を向ける。
(サイトマスター内『物書きの集い』『小説かいてるんです。』コミュ 9月お題【長い夜】)




