風
感想文のようだった物語を読み終えて、とびうおはひときわ強く尾びれをしならせ水をかいた。頭上にぐんと水面は近づき、まさに魚眼とたわんで大きく広がる。
向こうにのぞいた空はブルーグレーだ。破いてあけた穴のような白い雲を浮かべると、眩しさに白く脹れ上がっていた。その世界はまるでこことルールが違う。
それにしても読み終えた物語はつじつまが合い過ぎて、ハナから全てが済んでしまっていたことのようだった。一度、誰かが咀嚼したおう吐物には「味」さえない。
そうして再びとびうおは「えい」と尾びれで水を叩いた。そのときナイフのような体は水から抜け出し、それでも未練がましくしがみつく水滴が伝ったならひと思いに振り払う。
飛沫と砕けて散りゆく滴が残す忠告は、いつだって意地悪だ。
だから振り返ってなどやらない。迎え入れて次から次に話しかけてくる風へ、ただ自慢の胸びれを広げる。受け止め、聞き流して推力に変えると、ブルーグレーの空と併走した。さなか、蘇った滴の意地悪な忠告はこうだ。
風の話は費えるものさ。
それとも話し相手を変えてしまうかもしれないよ。
その物語はつじつまが合い過ぎていて、ハナから済んでしまったことのようだった。そう、彼らのおう吐物になど興味はない。
そうしてとびうおは自分の物語に、まだ何ひとつ済んでいない物語に、その身をさらす。そこにつじつまの合う結末などありはせず、無理にでもあてがえばただ不自然でしかなかった。
すると胸びれをはらませていた風が、とびうおへと笑いかける。
行き先なら私に任せて。
とびうおはうなずき返す。
落ちた影が水面を、分身のように走っていた。
お題連作1 (すぴばる内『ものかき屋』コミュ第二期お題【風】)