現代貴族
雅は何をしても許された。
花瓶を割っても、
カーテンを破いても、
皿をひっくり返しても、笑って許された。
雅は美しかった。
宝石のような透き通ったブルーの瞳、
しなやかな身体、
気品あふれる所作、
背筋をピンと伸ばした姿に皆魅入られていた。
気まぐれに外に出かけてみれば、
見かけたものがみんな振り返った
年若い子など羨望の眼差しでキラキラとした瞳を向けた。
彼女には奴隷がいた、
食事の準備から身体を清める手伝い。
部屋を出るときにはドアを開け、
部屋に戻るときはドアを開けさせた。
忠実な僕、逆らうことは許さない。
なのに、あの奴隷は私の嫌がることを平気でするのだ、
「許せない!私をあんな狭い部屋に押し込めて!」
友人に珍しく愚痴をこぼしていた。
「何をそんなに怒っているの?」
「あの奴隷が嫌がる私を狭い部屋に閉じ込めて、恐ろしいところに連れていくのよ!」
「まぁまぁ。落ち着きなよ。今日はもう遅いし帰らないわけにもいかないだろ?いつもよりずいぶんと遅い時間になってしまったよ。心配させてしまうんじゃないかな?」
「わかったわ。少しばかり心配すればいいと思うけれど、今日のところは帰るわ。」
「じゃあまた。」
友人と別れて家に帰ると、奴隷が家の前で出迎えていた。
「雅ちゃん!よかった心配したわ。」
わっと駆け寄ってきた奴隷に雅は「フンッ」と鼻を鳴らした。
「家に着いたとたん飛び出してしまうから心配したのよ。無理やり連れだしたこと、まだ怒っているのかしら。」
奴隷はドアを開け家に入るよう促した。
「でも雅ちゃんの身体が心配だからしょうがない事なのよ、これで機嫌を直してもらえるかわからないけど、今日は雅ちゃんの好きな夕食を用意したの。」
殊勝な心がけだ、許したわけでは無いが今日のところは顔をたてよう。
今日は遅くまで出かけていたせいで空腹だった。
銀の食器に盛り付けられた鉱物に免じて機嫌を直しても良くてよ。
はしたなくもいつもより勢いよく食べ始めてしまった。
「良かった。機嫌を直してくれたかしら。」
奴隷は勢いよく食べ始めた雅を見て、ほっと胸を撫で下ろした。
「おいしい?雅ちゃん」
全て許したわけではない、今度こんなことをしたら許さない。
でも、今日のところはこの奴隷に一言声をかけてやろう、慈悲の一声をかけてやろう…。
「ニャー」