謎の洋館と不思議な少女①
赤煉瓦で立てられた、モダンな三階建ての洋館の一室――。
少女は朝から全くやむ気配のない大雨を、窓のガラス越しに眺めている。もう数年も洋館の外に出ていないせいか、景色を見る事しか楽しみの無い少女にはこれ以上ない苦痛だった。
「…………?」
楽しみを奪われぼーっとしていた少女の目に、一つの自動車が目に入る。それは銀色のシャープな雰囲気を醸し出しており、少女には雨の中を駆け抜ける白馬にも見えた。
(こんな時間まで山登り……かな…………気を付けて帰ってください……さようなら)
自動車を目で追いながら心の中で挨拶を済ますと、少女はおもむろに立ち上がり着替えるためにレースのついた服を脱ごうとする。しかしそこで少女の手は止まり、視線は一点に集中した。
なんとその車は、洋館の門の前で止まったのだ。
それは今まで、この不気味な洋館を通り過ぎていく者しか見ていなかった少女には衝撃的だった。
そしてそんな少女の驚きをよそに、自動車から次々と人影が現れる。少女はそれにまた驚きを見せた。
上下左右に跳ねている黒髪にピンを付けている少年、ここまではまだ普通だ。
そして長くて美しい金髪の女性。少し薄着過ぎるのが気になるが、重要なのはそこではない。恐らく外人か何かだろう。
さて、驚くのはここからだ。
運転席から出てきた男性は、逆立った髪の毛に紺を交えている。そして後ろの座席から跳ねるように飛び出した少女に至っては、薄いピンクの髪を持ち合わせていた。
(……⁉ ……⁉)
一度に現れた不思議な人物達を目にして、少女の思考は活動を止める。しかしそんな少女のために出来事が止まってくれるわけはなく、不思議な人物達は行動を開始した。
紺髪の青年を先頭に、金属製の錆びついた門の前に立つ。そして鎖と南京錠で鍵が閉められているにも関わらず、その青年は門に手を置いた。
(来る……ここに…………)
少女は脱ぎ掛けていた服を整え、ドレッサーの上に置いてある髪留めを手に取った。そして鏡に映る自分と目を合わせながら考える。
「…………」
あの人達がここに来るのはもう止められない。どうにかしてこの屋敷から生きて帰さなくてはならない。しかしそれが叶わないのなら、気の毒だが……利用させてもらおう。あの不思議な人達には……不思議………。
そこまで考えると、少女は俯きかけていた顔をもう一度鏡に向け目をやる。
「わたしも……大概かぁ…………」
少女は短く呟き、癖の多い髪を持ち上げ後ろで止める。そして幻想的な黄緑の髪を揺らし、部屋を後にした。
もりのようかんはトラウマです。