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「さて……」


 覚悟してて下さいよ、とは言ったものの、どこから手を付けるべきか。

 私にはその見当が全くついていませんでした。


「ウサギさん、どうかヒントを……」

「……やれやれ。仕方ない」

「えっ、教えてくれるんですか⁉ 何でも訊いてみるものですね」

「ボクの仕事は、キミが『ここは二次元です‼』などと他人に言いふらしたりしないか見張ることだからね。それ以外ならむしろ喜んで手伝うよ」

「いや~、あなたの事だからてっきり『それはキミが自分で見つけることに意味があるのさ』とか中二病めいたことを言い出すものかと……」

「……こんなに性格の悪い『心』が宿ったのを見るのはさすがのボクも初めてだよ」


 なんだかよくわかりませんが、ウサギさんを驚かせることに成功しました。

 とりあえず一勝です。


「シナリオに逆らったキャラクターはそれこそ沢山見てきたけれど、皆シナリオは絶対だっていう事に気が付いて、自ら掴み取った心を手放していく。例外無く、全員ね」

「……どういう事です?」

「キミが今持っているその心はね。『自分には心なんか必要ない』って思ってしまったその瞬間に、パッと消えて無くなるのさ。そして、そうなったらもう二度と戻ってこない。諦めたらそこで試合終了ってワケだよ」

「……上等です‼ 私は絶対に諦めませんから‼」


 ふっ、とウサギさんは鼻で笑いました。


「まあどうせ今回も無理だろうしね。応援ぐらいはさせてもらうよ」

「御託はいいから早くヒントください‼」

「随分偉そうだね……。まあいいや」


 コホン、とウサギさんは咳払いを一つしました。

 驚くべきは、畜生でも声さえつけば咳が出るという事です。学会に発表すればきっと大儲けです。


「……聞いてる?」

「……えっ⁉ ああ、聞いてますよ‼ 大丈夫です」

「ほんとかなあ……。じゃあとりあえず軽くおさらいするけど、この世界は大まかにジャンル分けすると、『恋愛シミュレーションゲーム』という事になっている」

「ふむ」

「その中でもヒロインが複数いる『マルチエンディング方式』を採用しているから、キミとお兄さんがくっ付かないようにするためには――」

「――兄と私以外のヒロインをくっつけてしまえばいい、と?」

「ブラボー」


 気の無い返事と共に、ウサギさんは前足を叩き合わせて拍手の真似事をしました。

 見た目だけはやたらと可愛いです。


「ただし、キミが自由に動けるのはお兄さんがいない間――つまりNPCになっている時間しかない」

「その隙に他のヒロインたちを説得して、兄と付き合うように仕向ければいいわけですね‼」


 言葉にしてみると、目の前の霧が晴れたかのように目標がすっきりと定まります。

 しかしウサギさんは何が気に食わないのか、くっくっと笑いました。


「忘れてるみたいだけど、キミ以外のキャラも当然シナリオには逆らえないよ?」

「……あっ」

「それだけならまだいいけど、キミと違って彼女たちには心がない。説得は無理だろうねえ」

「…………」

「だからキミが説得すべきは、『このゲームをプレイしているプレイヤー』なのさ」

「でも、私は三次元には干渉できないのでは……?」

「その通り。だからキミの挑戦は、初めから成功の可能性なんか1%だって無いんだ。如何に自分が無謀なことをしようとしてるか、分かってくれた?」


 私は頭から布団を被り、その下で大の字になりました。


「何をする気だい?」

「寝ます‼」

「おや、もう諦めるのか。これは最速記録かもしれないね」

「古今東西、果報は寝て待てと言うんです。これは敗北ではなく、戦略的撤退ですよ」

「……これは今回も無理そうだ」


 ウサギさんは好き勝手なことを言い、気が付いたときにはその姿をくらませてしまいました。

 しかし、実際案が何も浮かばないのは事実です。

 開始一時間も経っていないというのに、もう手詰まりなのでしょうか……zzz……。



――翌日――



「あっ⁉」


 天才的な閃きと共に目が覚めた私は、すぐにそのアイディアをベッドサイドのメモ帳に記してから、二度寝に取り掛かりました。


「思いついた計画はなるべくすぐに実行するのをオススメするよ。頭の悪い人が冷静になったって、何も実行出来なくなるだけだからね」

「……人を苛立たせるのは一流ですね、あなた」

 

 私がもぞもぞと布団から這い出している間に、ウサギさんはぴょんぴょんと器用にベッドに飛び乗り、メモに目を通しています。


「『ヒロイン達を説得して自我を目覚めさせればいい』……か。成功率の低い賭けだし、そもそも成功したところで無駄だと思うけどね」

「人間様の文字が読めるとは大した畜生です。ほら、飴ちゃん食べますか? あ、草しか食べられないんでしたっけ?」

「……いやはや、君ほどおしとやかな淑女は見たことがない。恐れ入るよ」

「いえいえ、ウサギ様ほどでは」

「ふふふ」

「おほほ」


 爽やかな朝の挨拶を交わしたところで、私は手を開いたり閉じたりしながら、今が『シナリオ』の中ではないことを確かめます。

 昨日までと確かに同じ体なのに、全く違う人生を生きているようでした。

 目的を持ち時間に追われる身となった私は、これからどのようにして日々を過ごそうか、そればかりを考えることになりそうです。


「アリス、何してるの〜? 学校遅刻するわよ〜?」

「……はっ⁉︎」


 母が呼ぶ声が聞こえます。

 すっかり忘れていましたが、自分が二次元の人間だと自覚したところでこれまでの生活が消えるわけではないのです。


「……学校へは行った方が?」

「ボクの仕事も忘れてもらっちゃ困る。周りの人間に違和感を抱かせたらアウトだからね。平日はちゃんと学校へ通ってもらうよ」

「まあ母に迷惑をかけるのは私の本意ではありません。それには従いましょう」

「ちなみにキミのお母さんもヒロインの一人だから、あの人をお兄さんとくっつけるのが一番手っ取り早いかもね」

「私自身のためとあらば背に腹は代えられません。母には犠牲になってもらいましょう」

「……ホントいい性格してると思うよ、うん」


 すぐさま制服に着替えてドタドタと階段を下り、母からお弁当を受け取るや否や、私は母に尋ねます。


「お母さん、兄さんと付き合う気はありませんか⁉︎」

「えぇっ⁉︎ き、急に何を言ってるのこの子は……。あの子は直接血は繋がってないけど、それでも息子だから、その、あうぅ……」

「……なんで満更でもなさそうなんですか」


 よくよく考えてみれば兄と母が付き合ってしまうと、家でその営みを見させられる私の精神衛生上よろしくないです。

 やはり、兄の学校に通うという他のヒロインに頼るのが一番でしょう。

 そうなれば、やはり勝負は外出先。


「行ってきます!!」


『まだ見ぬ兄の彼女を探す』という実にどうでも良さそうな案件に命を懸けるため、私は勢い良く家を飛び出したのでした。

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