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「……あなたの言う事はわかりました。とどのつまり現在の私は『ゲームのヒロイン』という立場で、シナリオに逆らう事は出来ないと」

「そうそう、それで間違いない。飲み込みが早くて助かるよ」


『シナリオに操られる』という初体験をしてぐったりとしていた私に、ウサギさんは実に可愛らしい動作で頷きました。

 もっとも、可愛らしいのは見た目だけなのですが。


「しかもこのゲームは世間一般で言うところの……その、え、えろ……成人向けのゲームだと」

「うん、エロゲーだね」

「言わないでください‼」


 私がこうして悶え苦しんでいるのは恥ずかしいからではなく、念を押してもう一度言いますが決して羞恥によるものではなく、この先の状況を懸念してのことなのです。


「これが成人向けのゲームという事は、ゴールというか、エンディングはその……あ、アレですよね?」

「うん、セックスだね」

「ちょっと黙っててもらえますか⁉」

「えぇ……? 確認されたから答えただけなんだけどなあ」


 ポリポリと頭を掻くウサギさんと、頭を掻きむしる私の動作が不思議とシンクロします。


「そんなに心配しなくても大丈夫大丈夫。このゲームはマルチエンディング方式だから、キミ以外のルートもちゃんと用意されてるよ」

「……このゲームのタイトルは何です?」

「『新しくウチに来た義妹が可愛すぎてつらい』」

「どう聞いたって私がメインヒロインじゃないですか‼ しかもそれ他の人のルートあっちゃダメなタイトルでしょ⁉」

「タイトル詐欺だね。業界ではよくあることだよ」


 業界人ぶっているウサギさんは置いておくにしても、先ほどの兄との『シナリオ』から察するに、これがいわゆる『美少女ゲーム』の類であることは間違いないようです。


「つまりプレイヤーさんの匙加減ひとつで、ヒロインの一人である私は兄と付き合うことになるんですね……」

「でもキミはお兄さんがそこまで嫌いじゃないと思ってたけど、そんなに嫌なの?」

「そりゃ兄は良い人ですけど……付き合うとかはちょっと考えられないです」

「……反応がリアルすぎて引いたよ。二次元キャラのくせになかなかやるじゃん」

「それ褒めてるんですか……?」


 しかし、これでようやくデジャヴの謎は解明されたようです。

 胸のわだかまりが一つ取れて、私は少し安堵しました。


「十四歳の誕生日を何度も迎えているのは私の勘違いでもなんでもなく、同じプレイヤーさんが周回してたんですね」

「あるいは中古に売り飛ばされたキミの人生を誰かが買ったか、だね」

「言い方‼」

「まあどちらにせよボクはそれを教えてあげることはできないし、キミにそれを確かめる術もない」


 ううむ、と私は唸りました。

 ウサギさんが言うには、この世界で生きるには絶対に破れないルールがいくつかあるようなのです。


①・『シナリオには逆らえない』


②・『事前にシナリオを知ることはできない』


③・『三次元の世界(プレイヤーなど)に干渉することはできない』


④・『シナリオで描写されていない部分ではNPCとなり、シナリオに影響を及ぼさない範囲で行動の自由が許される』


「まあルールの方は大体わかりました。さっき体験しましたし。……で?」

「で、とは?」

「あなたの役割は何です? 私の記憶でも消しにいらっしゃったんですか?」


 ハサミを構えながらにこやかに訊ねると、ウサギさんは「まさか」と笑います。


「正直に言うと、二次元キャラクターが自我を持つケースは決して少なくないんだ」

「え? そうなんですか?」

「そしていくらボクたちでも、一度芽生えた『心』を消すことはできない。だからボクはキミを監視しにきたんだ。余計な事を周りのキャラクターに吹き込まないよう、一生監視するためにね」


 ぴくっ、と私の体が震えました。


「……余計な事? 『心を持つこと』は余計な事なのですか……?」

「カップ麺を買ってきて、さあ食べようってときに、中にゴキブリが入ってたら誰だって嫌だろう? それと同じさ。キャラクターっていうのは心が無いから需要がある。心を持ったキャラクターなんか、誰も必要としていないんだよ」


 私は思わず閉口しました。

 もしかしたら。

 もしかしたらこのウサギさんは、この閉ざされた世界から私を助けに来てくれたのかもしれないと。

 少しでも期待していた自分を恥じたからです。


「……やっぱり、最後に頼れるのは自分だけみたいですね」

「え?」

「やってやろうじゃないですか。私は兄に体を捧げるのは嫌です。その所為でこのゲームを買った三次元の人間がお目当てのルートに辿り着けなかろうが、そんなこと私には関係ありません。私は自分の自由のためなら、シナリオにだって逆らってみせましょう‼」

「……呆れた人だなあ」


 ウサギさんはクスクスと笑いました。

 明らかに「それは無理だ」と嘲笑するような笑い方。

 今はそうして高みの見物を決め込んでいるがいいでしょう。すぐにその余裕を突き崩し、いつか皮を剥いで美味しいパイの具材にしてやろうと、私は心に固く誓いました。


「まあ、少しは楽しませてもらおうかな」

「……覚悟してて下さいよ」


 こうして、二次元の世界でずっと生きてきた私の、三次元に対する小さな革命が今始まったのです。

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