事情
「ごめんにゃあ、今日もちょっと・・・」
「逃げてますよね!?」
「逃げてないにゃん紅蓮はそんなに弱くなんかないにゃん!!自分で自分を殺すなんて考えもしないような幸せなお子様が知ったような口を利くんじゃないにゃん!!」
一気に感情を出す空蓮。猫は素直である。なんとなく気まずくなってしまった。
「う・・・ご、ごめんにゃあん。」
「い、いいんです。私も悪かったし・・・」
「やはり猫ちゃんは素直ですね。」
「お前主従関係わかってるにゃん!?」
場の空気を和ませようとしたメイド長の気遣いに感謝しながら、空蓮は、朝のことを思い出す。
「にゃ・・・?」
寝ぼけながらうっすらと目を開けた空蓮は、最近では見かけなかったものを見た。そして、寝ているふりをしながらそれを見る。ばれてはいけないからだ。彼女に。
「なぜ、今更出てきた。」
「あら、あなたが人間を殺したからよ?」
「そんなことはわかってる。私はお前を殺し、自分自身の中に封じた。最近は出てこなかったはずだ。」
「そうねえ。私もあの頃より力が劣ったわ。」
「そうかそれなら本望だな。」
「まあひどい。自分の力を落として何が楽しいの?」
「バカかお前は。」
えんえんと続いた紅蓮と彼女の話も終わり、すうっと彼女が消えた。それを確認して、空蓮は飛び起きた。
「紅蓮!大丈夫にゃん!?」
「起きてたのか・・・」
「そんなことはいいにゃん。今日は休んどくにゃん。」
「巫女たちがいるだろう。」
「わけを話すにゃん。重要な部分を省いて。」
「はなしはしないんだな・・・」
「自分でやるにゃん。」
短く切り上げ、出て行ってしまった親友を見て、紅蓮はため息をついた。
(ぜんぶ大事すぎて何から話すかわからんにゃん。)
悩む空蓮に、メイド長がそっと囁く。にゃ、と頷くと、
「ついてくるにゃん。」
と言って歩き出した。
「いくにゃよ。しっかり感じるにゃ。」
バタン!とドアを開け、3秒ほどして閉めた。
「わかったにゃん?」
「い、今のなんですか・・・?」
「・・・紅蓮にゃん。」
「ありえないな。少なくともあんな邪悪な感じはしなかった。」
「詳細は紅蓮自身が話さないと意味はないにゃ。・・・そこの妖怪さんは、今の、感じたことあるにゃね?」
魅泉を指して言うが、魅泉は黙ったままだ。
「あ、忘れてた。しゃべっていいよ。」
「忘れてた!?ひどすぎだろ・・・」
しゃべるなという命令を解除されていなかった。
「で、どうにゃ?」
「あるぜ。」
「やっぱりにゃ。私もよくは教えてもらってないからわかってなかったにゃん。今日の朝のことはわかってたんだけどにゃあ・・・」
二人して考え込んでいるが、話すことが少なすぎて、わからない。
「今会えるか?」
「体験者が言うにゃん?判断しだいによっては別にいいけどにゃ?」
「やめとく。」
「賢明な判断にゃ。」
「どういうこと?」
「言ったらこいつに怒られるぜ?」
言った時に、部屋の中から音がした。うっすらと空蓮がドアを開け、先ほどのような感じがないことを確認すると、待ってるにゃん。と言って、部屋に入ってきた。中からしっかりと鍵がかけられ、防音魔法が施された。
「どうにゃ?」
「封じた。大丈夫だ。」
「それにしてもあいつを力でねじ伏せるにゃんて紅蓮しかできないにゃね・・・」
「当たり前だ。」
静かに言う二人。
「早かったけど…いけるにゃ?」
「ああ。」
そう言って、ドアに手をかけた。