失いたくない距離(1)
翌朝、ルーインが部屋まで持って来てくれた朝食をニーナと二人で食べた後、ルーインとニーナは、私を家まで送ってくれた。一人で帰るから平気だと言ったのだけれど、そういう訳にはいかないと怒られてしまった。
昨晩使っていたような、一瞬で場所を移動する魔法の使用は緊急時のみに限られているということだったので、私達は三人で並んで家への道のりを歩いていた。
「ねえ、なんでにぃが来たの? ヘルは?」
ニーナはどうやら朝部屋を訪れたのがルーインだったことが不満だったらしく、拗ねたように唇を尖らせている。
「あいつはいつも通り、練習場だろ」
あっさりと答えたルーインに対し、ニーナはますます不服そうな表情を見せた。
「昨晩あんなことがあったのに、私たちの様子、見にも来ないの?」
練習場って、一体何なんだろう。そんな疑問が顔に出ていたのか、ルーインは私の顔をちらりと見ると、簡単に説明をしてくれた。
「魔術師見習いってさ、基本的には毎日担当教官に与えられている実習課題があるんだけど、ヘルはいつもそれを朝の内にぱぱっと終わらせちゃうんだ」
ルーインが言うには、ヘルはまだ誰もいないような早い時間に、魔法を練習するための場所へ行き、誰よりも早く課題を終わらせているらしい。お昼以降は、自分の好きなことに時間が使いたい、という理由なんだとか。
「あいつの昼からの行動は、ハンナも知ってる通りだよ」
苦笑交じりにそう言ったルーインに、私はふふ、と笑みを返した。スペイトの前の広場の噴水に腰掛け、フルーブを食べながら魔術書を読むのが、ヘルの趣味だということなのだろう。
家の前まで送ってくれた二人にお礼を言って別れた後、私はささっと湯浴みをして、別の外出着に着替えた。今日も仕事があるから、直ぐに出かけなくてはならない。
砂時計を見て時間を確認すると、まだ朝も早く、仕事には十分間に合いそうだった。
遅刻せずに済みそうだとほっと安堵の息を吐いて、家を出てスペイトへの道を歩き始める。角を曲がって少し歩いたところで、道の少し先で、端に寄ってしゃがみ込んでいる二人組みに気が付いた。
どこか呆れたような表情を浮かべて、隣にしゃがむ少女を見下ろしているあの青年は、ルーインだ。と、いうことは、私に背中を向けるようにしてしゃがみ込んでいるオレンジの髪の少女は、ニーナだろう。
二人はどうやらまだお城には戻らず、ここで何かをしていたらしい。一体二人して、道端で何をしているんだろう。
ルーインが何か問い掛けたのか、ニーナは否定するようにふるふると頭を振っている。
「──棘なんか無いもん」
「無いもん、じゃなくて、あるの。あれはもっと筋がつるつるしてただろ?」
「えー、してなかったよ!」
「してたの! ……って、あれ、ハンナ?」
言い合いの途中で、近寄ってきた私に気付いたように、ルーインがふっと顔を上げた。
「二人で何してるの?」
上からひょこっと覗き込むと、二人が見ていたのはどうやら、道端に生えている野草の一つのようだった。その辺によく生えている、ひょろりと長く、なかばで茎が二股に分かれている緑の草だ。
「いや、ニーナがこれをティリカ草だって言うから、違うって説明してたんだ」
「ティリカ草?」
ってなんだろう。
「あー、薬草の一種だよ。全然似てないんだけどね」
「似てるよ! そっくりじゃない!」
不服そうなニーナをやれやれと言いたげな表情で見下ろした後で、ルーインはおもむろに立ち上がった。
「それよりも。ハンナ、どこか行くの?」
ズボンの汚れを軽く払いながら、不思議そうに問い掛けられる。
「えっ? あ、うん。仕事に」
「え?」
ルーインは一瞬手を止めて、私を見下ろした。
「あー、そっか、ごめん……勝手に休みだと思ってた。お店まで送れば良かったね」
眉尻を下げてそう言ったルーインに対し、私は慌てて頭を振った。
「えっ、ううん! 違うの、着替えたかったから、一回帰りたかったの」
「でも、昨日あんなことがあったばっかりなのに、ハンナ、大丈夫?」
私の顔を覗き込んでくるヘイゼルの瞳は、なんだか気遣わしげだ。ルーインは、私のことを心配してくれているみたい。なんだか胸の奥がほんわりと温かくなって、私は笑って頷いた。
「うん、全然大丈夫。ありがとう」
確かに、もう怖くない、と言えば、嘘になるかもしれない。けれど、もう昨夜の二人組みは捕まえてもらった訳だから、危険なこともないのに休むのもどうかと思ったのだ。身体に不調がある訳でも無いし、何より、一人で家で静かに過ごしていたら心細くなりそうだから、働いていた方が気が紛れて良い気がする。
「なら、いいけど……。無理はしないようにね」
ルーインの気遣いにお礼を言った時、傍らでひょこっと小さな影が立ち上がった。ふと隣を見ると、さっきまでしゃがみ込んでいたニーナが、手に緑の草を握り締めて立っていた。
「ねー、にぃ、お店までハンナ送って行くでしょ?」
小首を傾げるようにして向けられた問いに、ルーインはそうだね、と当然のように頷きを返す。
私は慌てて頭を振った。
「えっ、大丈夫だよ、直ぐそこだし、一人で行けるよ」
ついつい声を掛けてしまったことで、余計な気を遣わせてしまった。
「邪魔してごめんね」
慌てて立ち去ろうとしたけれど、すぐに苦笑交じりに引き止められる。
「待って待って、スペイトならどうせ通り道だし、送ってくよ」
大丈夫だよ、と言いかけた私は、すぐに口を噤んだ。ルーインの言う通り、スペイトはここからお城へ帰る道の途中にあるのだ。よく考えたら、家まで送って貰っておいて、今さら遠慮する方が失礼なのかもしれない。
「じゃあ、お願いしようかな。二人とも、ごめんね」
「ううん」
二人に向かってぺこりと頭を下げると、ニーナはふにゃりと相好を崩して笑ってくれた。それがあまりに愛らしかったものだから、自然と私もつられるように笑ってしまう。
昨日までの私は、ニーナがこんな風に可愛く笑ってくれる女の子だってことも、知らなかったんだよね。ニーナは私の所為で巻き込まれて、誘拐されるなんて怖い目に遭ったのに──より嫌われていてもおかしくないはずなのに、何故だかあれ以来、ニーナの態度はとても温かくなったように思う。
私はとても嬉しいけど、どうしてなんだろう。
「全然いいよ。通り道なんだもの。ね、にぃ。フルーブ買って行こうよ?」
草を持っていない方の手で、ニーナがルーインの袖を引く。
「え、食べたいのか?」
意外そうに見下ろしてきたルーインを見上げて、ニーナは草を握り締めたまま、こくんと頷いた。
「うん。一回食べてみたかったの。だって、ヘル毎日食べてるんだもん」
確かにヘルは殆ど毎日スペイトにやってきてはフルーブを食べている。ヘルのことを好きなニーナが、食べてみたいと思うのは当然かもしれない。
「ま、いいか。折角だから俺も食べたいし、寄って行こうか」
「やったー!」
嬉しそうに笑ったニーナを一瞬微笑ましそうに見下ろしたルーインは、はっとしたようにニーナの手をがしっと掴んだ。
「って、なにこれ?」
袖を引いていた方の手ではなく、野草を握っていた方の手だ。ニーナが手にしていた野草は、どうやら見つかってしまったらしい。
「ニーナ、お前何抜いてるんだよ!」
「だってこれ絶対ティリカ草だもん! お城に帰って見てもらおうと思って!」
「これはただの雑草だって言ったろ! 雑草! 捨てろ!」
「絶対違うもの! 捨てない!」
突然ぽんぽんと早いテンポで言い合いを始めた二人がなんだかおかしくて、笑いがこみ上げてくる。
昨日の朝の私は、夜になってあんな風に誘拐される羽目になるとは思っていなかった。けれど、その翌朝にこんな風に、ルーインとニーナの可愛らしい兄妹喧嘩が見られるとも、思ってもみなかった。
「……っ、ふふっ」
堪えきれずに笑ってしまったその瞬間、はっとしたように私を見上げたニーナが、興奮で赤くなった柔らかそうな頬を膨らませる。
「なんで笑ってるの! ハンナはどっちの味方なの!」
「ええっ、私、薬草とか全然知識が無いから、分かんないよ」
「分かる分からないじゃなくて、どっちの味方なの!?」
そ、そんな無茶な。
結局スペイトへ着くまでの間、私はのんびり見守っていたはずの薬草論争に巻き込まれる羽目になったのだった。
結論としては、どちらも断固として折れなかったので、ひとまず城に持って帰って他の誰かにあの緑の草を見て貰う、という形で一時休戦になったのだった。
スペイトの傍まで送ってくれたルーインとニーナは、帰りも念のため家まで送ると言ってくれたけれど、私はとんでもないと頭を振った。
「もう昨日の人たちは捕まえてくれた訳だし、大丈夫だよ。ありがとう」
「そう? 本当に平気?」
心配そうに覗き込んでくるルーインに、笑って頷いてみせる。
「うん、平気。ありがとう」
「でも、昨日あんなことがあったのに、一人で帰るなんて心細くないの?」
平気だと告げた私に、ニーナまで気遣わしげに問い掛けてくる。
「うん、大通りを通って帰るから、大丈夫だよ。ありがとう」
「──ハンナ、昨日何かあったのか?」
ふいに割り込んできた低い声に、はっとして振り返る。いつの間にかすぐ傍に立っていたマスターとライラが、押し問答する私達を不思議そうに見ていた。
「……あ、いえ、何も……」
説明したところで心配を掛けるだけだろう。そう思って頭を振った私をちらりと一瞥すると、ルーインはマスターに軽く頭を下げた。
「おはようございます。魔術警備隊ソーベル第四隊所属のルーイン・リネリアと申します。実は昨夜のことなんですが……」
──なんと、私が止める間も無く、ルーインは昨晩のことをすらすらと説明し始めた。帰りに私が攫われてから、今朝方はお城の仮眠室に泊まったくだりまで、淀み無く、かつ無駄なく顛末を語る。
一通りの説明を終えた頃には、マスターの眉間には深い皺が刻まれていた。
「──で、その犯人が捕まったってことは、もう心配は無いってことだよな?」
「はい。ただやはり、昨夜のことですから、ハンナも心身ともに消耗していると思います。差し出がましいことを申しますが、念の為ハンナの様子を気に掛けてあげて頂けたら幸いです」
どうやらルーインは私の体調を気遣って、マスターに説明してくれたみたいだ。こういう面倒見の良いところを見ていると、ああ、お兄ちゃんらしいなという感じがする。普段からニーナの世話をしっかり見ている、優しいお兄ちゃんなんだろうな。
「話は分かった。……ルーインさん、ハンナを助けてくれて、ありがとう。なんとお礼を申し上げていいのやら」
頭を下げたマスターに、ルーインがとんでもないと頭を振る。
「ハンナが攫われたことにすぐに気付き、彼女を助けたのは、僕では無くて他の魔術師なんです。なので、どうか頭を上げて下さい」
慌てたようにルーインがそう言うと、マスターは頭を上げ、ちょっとここで待っててくれ、と店の中へ入って行った。
幾許もしないうちに戻ってきたマスターは、バスケットにいっぱいのフルーブと、何種類かのナテ包みを詰めて持ってきた。
「これはほんの気持ちばかりのお礼だが、持ってってくれ」
「いえ、ですから僕は」
まさかこんな流れになるとは思っていなかったのだろう。戸惑ったようにマスターに両手のひらを向け、拒否の姿勢を示すルーインに、マスターはぐいとバスケットを押し付けた。
「それでも、あんたたちがハンナを助けてくれたことには変わりないんだろう。貰ってくれ」
暫く押し問答をしたものの、ルーインはやがて根負けしてそれを受け取ると、マスターにお礼を告げ、ニーナと手を繋いでお城の寮へと帰って行った。
途中で振り返ったニーナが、薬草なのか野草なのか分からないままの草を握った手を、ぶんぶんと大きく振ってくれる。私も手を振り返して見送った。
「……すみません、マスター。ありがとうございました」
本当は、送ってもらったお礼も兼ねて、ルーインとニーナには、私からフルーブを御馳走しようと思っていた。なのに、まさかマスターがあんなに沢山のフルーブやナテ包みを用意してくれるなんて。
私のことで、マスターが自分のことのようにお礼を言ってくれていたのは、少しいたたまれなくもあったけれど、それ以上に嬉しかった。
「ハンナも、俺の娘みたいなもんだからな。礼を言うのは、当たり前だろう」
マスターは鼻の下を擦りながら、少し照れくさそうに笑った。
「にしても、ハンナ、お前本当に平気なのか? 無理しないで今日は休んだらどうだ」
「そうよ、ハンナ。今日は私もいるし、無理しないでね?」
マスターとライラの優しい言葉にお礼を言って、私は小さく頭を振った。
「大丈夫です、働かせて下さい。もう犯人も捕まえて貰ったので何の心配も無いですし、それに、働いていた方が気が紛れるので……」
私がそう答えると、二人は揃って一瞬気遣わしげな目を浮かべる。けれどマスターはすぐに、そうか、と言って鷹揚に頷いた。
それからパン、と両手の平を合わせると、大きな声を張り上げた。
「よし、開店の準備するぞ。ライラ、お前は店の前を掃いてきてくれ。ハンナは豆の皮むき手伝ってくれ」
「はい!」
私たちはそれぞれに、開店の準備を始めたのだった。
昨夜のことを思い出してもっと不安になるかと思ったけれど、意外と気持ちは落ち着いていた。お客さんのいない時間にはライラと他愛も無い話をしたりしていると、あっと言う間に時間は過ぎて行った。
ライラは昨夜のことを、深くは聞いて来なかった。ルーインの的確な説明のおかげもあるとは思うけれど、やっぱり気を遣ってくれたのだと思う。
私はライラの優しさに感謝しながら、いつもよりも一層、一生懸命に仕事に取り組んだ。
けれど、時折ふとした時間が出来ると、どうしても昨夜のことを思い出してしまう。しかもそれも──思い出すのは昨夜男に殴られた瞬間のことでも、馬車の中で過ごした不安な時間のことでもなく、ふいに額に落とされた、優しいキスのことだった。前髪を撫でる優しい手つきを思い出すと、それだけで頬に熱が集うのを感じる。
「……ハンナ、どうしたの? 顔が赤いけど」
ふとライラが、不思議そうな表情で私の顔を覗き込んで来た。
「熱でもあるんじゃない?」
心配そうな表情を浮かべるライラに、そんなことないよ、と頭を振ってみせる。
体調は悪くは無いし、熱だって勿論無い。顔が赤いとしたら、原因はやっぱり、昨夜のことを思い出していたせいだろう。
あんな目に遭ったって言うのに、思い出すのはヘルのことばっかりだなんて、なんて現金なんだろう。
うっかりまた思い出しそうになった私は、ぶんぶんと頭を振って、なんとか気持ちを切り替えてカウンターに立った。ふと広場の向こうに目をやると、丁度ヘルがこちらに向かって歩いてくるところだった。いつの間にか、お昼を回っていたらしい。
ヘルは、俯き加減に魔術書を読みながら歩いて来る。そんな姿を見かけたのは、随分と久しぶりだ。
ヘルのことを考えていた所為もあって、なんだか顔が熱いのを感じる。ライラに気付かれたみたいに、顔が赤いと指摘されたらどうしよう。
そんな風に思ったのは、一瞬だった。
ヘルは俯いたままカウンターに近づいてくると、顔を上げることすらせずに、カウンターに銅貨を置いたのだ。
「……フルーブ」
な、なんで、こっちを見てくれないんだろう。まるで出会った頃に戻ったかのように、ヘルはカウンターの向こうにいる店員に対して、何だか無関心だ。
私、何か怒らせるようなこと、しちゃったかな。もしかして昨日の件で、私に対してうんざりしてしまったんだろうか。
急激に、不安になってくる。何か声を掛けようとするものの、カウンターの前で俯き加減に本を読んでいるヘルを見ていたら、喉の奥まで出掛かった言葉は、音にならずに消えた。
勇気を出して声を掛けた最初の日の記憶が、急に重なって見えたのだ。声を掛けてみて、また「誰」って言われたらどうしよう、って。
……そんな訳、無いのに。
何にせよ、今は仕事中なのだ。いつまでもぼけっと突っ立っている訳にはいかない。私は頭を切り替えると、マスターの方を振り返った。声を上げて注文を通し、カウンターの方に目線を戻す。いつの間にか顔を上げていたヘルは、ぎょっとしたようにエメラルドグリーンの瞳を見開いていた。
「ハンナ?」
名前を呼ばれたことにほっとして、私は漸く口を開いた。良かった、怒ってはいないみたいだ。ただ、本に夢中だっただけなのかな。
「お、おはよう。あの、昨日は……ありがとう」
「なにしてるの」
ヘルは私の言葉に被せるように、怪訝そうな声音で言った。
「何って、えっと……働いてる?」
もしかして、ヘルは私が今日も出勤しているってこと、ルーインに聞いていなかったのかな。みるみるうちに眉間に皺が寄せられていく。
「なんで」
「別に、身体に不調がある訳じゃないし、平気かなって」
ヘルはすうと斜めに目線を落とす。返って来たのは、「ふぅん」という素気無い相槌だけだった。
結局出来上がったフルーブを手渡しても、ヘルは何も言わなかった。ただ私の顔を一瞥してそのままフルーブを受け取ると、噴水の方へと去って行ってしまった。
昨日の今日で呑気に働いているなんて、と呆れられたのかもしれない。そうは思ったけれど、何も言われていないのにしつこく言い訳を重ねるのもおかしい気がして、私は黙ってヘルの背中を見送るしかなかった。
去って行くヘルの姿をじっと見つめていると、ちょんちょんと、隣から袖を引っ張られる。
「ねえねえねえ、ハンナ。聞いても良い? ……もしかして昨日助けてくれたのって、あの子なの?」
はっとして目線を隣に向けると、好奇心に輝いたライラの瞳が、じっと私を見詰めていた。
「朝来てた魔術師の人、助けたのは僕じゃないって言ってたから、実はちょっと期待してたの。ね、ハンナ、やっぱりそうなの?」
「えっ、う、うん……そう、だよ」
これまで何も聞かずにいてくれたライラだけど、やっぱり気を遣ってくれていたんだろう。我慢の限界が来た、とでもいうようにきらきらした瞳で覗き込まれた私は、勢いに押されるように頷いた。
ライラは菫色の瞳をますます輝かせて、がしっと私の両手を握り締めた。
「素敵じゃない! やっぱりハンナの王子様はあの子なのね!」
「えっ!? 何言ってるの!?」
恥ずかしげもなく向けられた言葉に、反射的に頬に熱が上るのを感じる。
ヘルが私の王子様だなんて、とんでもない。
確かに、いつも私を恰好良く助けてくれるヘルは、王子様みたいと言っても過言じゃない。けれど、姫が私では役者不足も甚だしいというものだ。真っ赤になって否定する私をよそに、ライラは小さな声で何かを呟いて、私の手を離す。なんて言ったのか聞き返そうとした私を遮るように、ライラは歌うような口調で、お先に休憩頂きま~すと言いながらカウンターを出て行ってしまった。
長らく停止しており申し訳ありませんでした。
鈍足更新になると思いますが、ゆっくり再開します。
宜しくお願い致します。




