見え透いた罠
余りにも忙しすぎて投稿が遅くなりすぎました、申し訳ないです。
心地好い穏やかな風が吹き抜けるなだらかな草原を、アリスは歩いていた。
目的はただ1つ。街の外を歩いていると出現するであろう魔物の討伐である。今のところ、芳しい結果が出てはいないが。
「やっぱり街の近くじゃ居ないか。でも進みすぎて戻れなくなっても嫌だし……」
このゲームには、地図というものが一切存在しない。少なくとも、現時点ではあるが。その為、不用心に進んでしまうと帰れなくなってしまうのだ。
だんだんと整備されていない方向へと歩いていくアリス。目を向けるその先には森が映っていた。
「やっぱり魔物と言えば森でしょ!」
少しテンションを上げて迷いなく進んでいく。
程なくしてアリスは森と草原との境目に辿り着く。そこには、木の板が立てられていた。
「この先危険、心せよ……か。よし、私の予想は当たっていた」
何を満足したのか、誇らしげに歩みを進めるアリス。彼女は木の板に書かれていた、このゲームの温情とでも言うものをあっさりとスルーしてしまっていた。当然、その報いはやって来るのである。
茂みを掻き分けて奥深くへと進んでいったアリスの視界に映ったのは、森の中では不自然極まりないぽっかりとあいている広場だった。
「う、うわ……怪しい」
そしてその中央で存在感を発揮しているのは、木製の小屋だ。アリスは少しの逡巡の後、全てを悟ったかのような表情で小屋の扉に手をかけた。
さしたる抵抗もなくすんなりと開いた扉の中には、何の変哲もない部屋があるだけであった。
全て手作りなのだろう、素朴な雰囲気を漂わせる椅子や机には、何も置かれてはいない。
「あれ……?」
何かあるはずだ、と小屋の中をくまなく探すアリスだが、結局は椅子が二つと机が一つだけしかないのであった。
予想外の収穫のなさに、憮然とした表情で外へ出ようと扉をあけると、アリスは自分の目を疑った。
それも無理はないだろう、目の前にあらわれたのは、近未来的なデザインの一本道なのだから。
「見間違いだよね?」
開けた扉を閉めて開けて何度も見直し、顔をつねり、わざわざ再ログインまで実行したアリスはようやく納得した。
(あ、罠だった)
なにやらピコピコしている壁のランプの灯りを頼りに一本道を進み始めるアリス。
男なら心を躍らせるであろう、秘密基地のようなその壁の模様は全く気にせずにずんずんと歩いてゆく。
その間アリスは、この先には何があるのだろうと思考を巡らせていた。
(普通に考えれば、敵がいるよね……)
更に言うとこの道はいまのところ、一切枝分かれのない一本道だ。今歩いている長さから考えると、この道一本だけとは考えがたい。
つまるところ、アリスは今歩いているこの道と同じようなものが、複数あるのではないかと考えた。
(それで、真ん中にある広場か何かに繋がっていて、おそらくはそこに敵がいるはず)
自分の出来る限りで情報をまとめ、顔を上げたアリスを迎えたのは、この一本道のゴールである鉄製の扉であった。
自分の装備とアイテムを手早く確認したアリスは、弱い敵でありますようにと祈りながら扉を開けた。
扉の先は、アリスの予想通りに、闘技場のような空間が広がっていた。自分が入ってきた扉の他にも、一定の距離を開けて扉がいくつも存在する。
そしてこの空間の中心で、ひとりの少女と多数の機械人形とでも形容するものが戦闘を行っていた。
少女の顔には苦悶が浮かんでおり、絶賛劣勢中なのであろう。こちらに気づいている様子も一切ないようだ。
アリスはそれを見ると、おそらくは自分と同じプレイヤーがいることに安堵したと同時に、自分が加勢することによる展開を思考しだした。
(機械人形は五体、プレイヤーは私ともう一人。服装的に魔法使いかな? 正直勝ち目がなさそうだなあ……でも!)
せっかく初めて見つけたプレイヤーを見捨てるのも心苦しい。なにより機械人形を倒す以外にここから出る方法も無さそうだ。
アリスはそう頭の中で結論を出し、腰に帯びた武器を手に持って機械人形へと飛びかかっていった。
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