第3 追い込まれる 2.
2.
十一月四日、二十時十七分。
そろそろ事件発生から一ヶ月が経とうとしている。
「全員揃ったか? 早速、報告を頼む」黒田が何時になく大声で叫ぶ。
一ヶ月も経つと疲れも目立つ刑事もいる。それ故、黒田は会議に参加している刑事達一同を見渡し、気を引き締めるように指示した。
「はい」とすかさず、柳井が手を挙げる。
「マル害の通っていた小学校の担任教諭ですが、賭博に関与していたとの疑いが浮上してきました。県の教育委員会からの内部報告です」
「それはあの山村という教諭だな」
「ええ、そうです」
「それがどう関係あるんだ」
黒田が質問を投げる。
「ええ、実は」と柳井は手帳を捲り、続ける。
「その賭博に係わっている連中は学校関係者以外に医者など芋づる式に名前が挙がっているらしいです。その中になぎさ病院の米沢事務長の名前も挙がっています。ただ、被疑者である畠山の名前は今のところ浮かんいません」
「そうか、畠山と学校の人間は繋がりがなさそうか。それに賭博には係わっていないとなると共犯の線が薄くなるな」
腕を組み唸る黒田。
「だが、金に困っていた事は間違いないよな」
「そうですね、もっと調べます」
「うむ、頼む。どこかに繋がりがあるかも知れん。その線をはっきりとさせてくれ。――それから赤松警部補、そちらはどうだ? 畠山の行動に変化はないか」
「ええ、畠山に行確をつけているうちの班からの報告ですが、相変わらず動きはないですな」赤松は思うように成果の上がらない事に不満と苛立ちのせいか憮然として言う。
「いいですか?」
声のする方へ目を向けると田辺が手を挙げている。
「田辺警部補、なにか」
「ええ、実は殺害現場、楡の木で採取された煙草のことで解ったことがあります。煙草に付着した唾液のDNAと被疑者畠山のDNAは別物でした」田辺は立ち上がり、手に持つ黒いファイルを覗き込みながら読む。
「そうか、畠山の吸殻ではなかったか。で、どこでその証拠を?」
「ええ、それは後藤警部補が入手してきた吸殻を検出しました」
田辺は平然と読みあげる。
「そうか」黒田が後藤に視線を送る。
「ええ」後藤が小さく頷く。
「と言う事は、畠山は犯人ではないでしょうね?」菊池が手を挙げながら言う。
「馬鹿を言え!」恫喝とも言えるような口調で赤松は立ち上がり、菊池を睨む。
菊池は身を引きながら赤松の視線に耐える。
「何故、煙草の相違で畠山が違うと言い切れる! 共犯者が吸ったとも言えるだろうが!」
「はあ」
「他の容疑者全員調べたのか?」人差し指を菊池に差し向け、赤松はいきり立つ。更に追い討ちをかけて言う。
「それは、まだ、だと思います」
「物事は調べてから言えよな」吐き捨て座りながら言う赤松は、肩をいからせ腕を組むと鼻息を荒くした。このヤマは俺が挙げると息巻いているというより苛立っている。やはり、畠山の容疑者として確保に難航していることが赤松の苛立ちの原因だろう。
「まあ、そうだな。あくまでも煙草だけでは確たる証拠とは言えない。赤松警部補の言うとおり共犯者が居れば、その可能性はある」
菊池の横で後藤も腕を組み冷静に言う。
「そ、そうですね」
「赤松警部補の言う事に一理ある」刑事達全員を見回して黒田が言う。
「他に何か無いか?」
赤松の憤慨した発言はその場の空気に水を差すことになったが、その後の黒田の計らいもあり、捜査会議は続けられた。他にはこれといって進展はない。会議中も赤松は酌に触ったまま腹の虫が治まらないようで、朝一番の捜査会議が事無く終えると乱暴にドアを押し、そそくさと部屋を出て行った。




