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第2 難航する捜査 8.

8.


 十一月二日、十時五十五分。

 男は懐から携帯電話を取り出し、苛立ちながら発信歴から目的の電話番号を押した。

 耳に鳴り続く呼び出し音に苛立ちを隠しきれず車のハンドルを指先でゴツゴツと連打する。暫くしても相手が出ない事に更に苛立ちダッシュボードを一発叩く。

 煙草のヤニ臭い口から「クソ!」と吐き棄てる。暫くしてやっと相手が電話に出た。

「おい、振り込んだのか!」待ちきれず相手も程ほどで確認もせず、いきなり強い口調で脅す。

<……は、い>脅えている。

「ふざけるなよ!」と一括を入れる。「俺を怒らせるのか? 何で金がないんだよ! え!」電話口で唾を飛ばし、捲し立てるように一気に脅す。

<……う>上ずる声で返事にならない。

「いいか」と言いかけ、冷静になろうと男は一つ短く息を吐きだし、話を続けた。

「俺の言う事、解るよな。あんた、自分の立場をわかってるのか? 出るとこでていいんだぜ。一言チクれば、必ずあんたへ世間の目が向けられる。それどころか警察から殺人の疑い! 殺人だ! 殺人犯人だ! え! 解ってるのか!」荒げるような声だ。男の芝居とでもいうか、相手を増長させるには気になる事を言えば、自分勝手に頭の中で増幅する。脅しの言葉としてその『殺人、殺人』と強調して連呼すれば、相手が脅えると。男は借金取りからいつも言われている事をつい口にしていた。それほど男は金に困っている。取り損ねた金をどうしてもこの女からecぎ取りたかった。連れの女は全く当てにならないどころかこれを機会に手を切るつもりだ。関係をどこでバレるか知れたものじゃない。いい機会だ、早いところ、浪費するバツ2女とは縁を切る。

 ――少し相手の出方を耳を澄まして探った。う、う、と耳に聞こえる。

「とにかく、早いとこ金を振り込むんだ。明日までにだ! わかったか」

 携帯電話を切ると首をグルグル回しながら洩らす。

 あのアマ、ふざけやがって。だめだ、このアマこれ以上せびっても無駄だ。もう一回だけ金を毟って終わりだな。それが懸命だ。とにかく早いとこ金を手に入れないと長引くといい事はない。

 男は煙草に火を点け、一息吸った。

 突然、車のフロントガラスを叩く。思わず見上げると背広姿の中年男がニヤニヤしてこちらを見ている。ライバル会社の営業マンだ。嫌な奴に遇った。

 フロントガラスを下ろすと媚を売るように笑顔を作った。

「おい、どう調子いいみたいじゃん? お宅の会社評判だよ。こちらも負けてられんけど、厳しいね。何せこの頃の不景気と医者離れがね」

「いやー、何いってるんですか、うちも中々厳しいですね」首に手を遣り、何度も顎を突き出す。

「何言ってるの。大学病院のあの物件もお宅に持っていかれちゃったからね。こっちにもおこぼれ欲しいくらいだよ。じゃあ、お手柔らかに」

 当たり触りない挨拶、含みを持つ世間話風の会話を一方的にして中年の営業マンはその場を立ち去った。

 ふん、何がだ。鼻で笑い見下す。

 煙草を窓から投げ捨て、フロントガラスを上げるとハンドルを切り返してその場から早々に離れた。

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