殺し屋ランク10位:百銃の王イテゾラ
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これまでのあらすじ。どこにでも居るような普通な殺し屋、レクター・ヴィンセントつまりこの俺が人を殺そうとしたら逆にこっちを殺そうとする真っ白男が現れたので更に逆に殺し返すことにした。おわり。
「往ね。往ね往ね往ね往ね、往ねぇい!!」
真っ白男こと百銃の王イテゾラさんとやらは、どこぞのカブキが如く勢いで口上を述べる。それに呼応するように、イテゾラの周囲に浮かぶ無数のレーザー銃が撃ち放たれる。ずがががずどどどばきゅんばきゅんと、ひたすらに騒がしい弾幕だ。あと眩しい。
「ああクソ……多い、多い多い多い!! 数が多い!!」
この最上階の面積のほとんどがアカハネ・カゲトラの私室が占めているらしく、俺とイテゾラが対峙している一直線の廊下はそこまで広く無い。つまり、さっきまでよりも弾が避けづらい。
迫りくる無数のレーザーを必死に避けながら、剣に変形させていた杖をガチンと元に戻す。そして杖を振るい、レーザーをどうにかこうにか弾き逸らす。しかし弾幕の全てを制する事は出来ず、何発かが俺の身体を掠める。
場所が悪い。一旦階下へと退避するべきかと、駆け上がってきた階段の方を見てみれば、知らぬ間に分厚いシャッターによって道が閉ざされていた。未だ警報すら鳴らず、警備施設も禄に作動していない事を考えると――恐らくこのイテゾラとかいうハンサム野郎が、俺とカゲトラの談笑の隙に密かに手で力付くで閉めたのだろう。小癪な。ずるいぞ。ハンサム野郎め。
「斬る事自体は出来る……だが、この弾幕の中じゃそんな隙も無い……ていうかなんなんだあの馬鹿みたいな数の銃……どういうトリックだ!」
「誰が依頼かは知らぬが御主の野望は止めねばならぬ。某とカゲトラ殿とはかねてからの旧友。幾重幾重にも重なる莫大な給金、無償にて譲り受ける数多のさいさんたんてくのろじぃ。幾重にも幾重にも奢られし高級焼肉。それが故、カゲトラ殿は決して殺させぬ。故に往ね」
「…………なんて!?」
イテゾラは悠長に喋る。だが弾幕はいつまで経っても止まらない。バッテリー切れはいつだ。全くそんな気配が無い。
『カゲトラはめちゃめちゃ甘い汁吸わせてくれる優良なスポンサーなのに何殺そうとしてくれとんじゃい殺すぞ……って言ってると思う』
「義理でも友情でもなくね?」
『あとあのふわふわ浮いてる銃だけど……あんな兵装は見たこと無いし、検索かけても全然出てこない。多分アカハネインダクトリーの秘蔵の技術なんだと思う……あれこそが百銃の王の呼ばれる所以なんだろうけど……そもそもそれはアカハネの技術だったんだね』
「貴重な情報どうも! ああくそ、耳掠めた!!」
レーザーの一本にジュワっと耳を焼かれながら、イテゾラを睨みつける。奴は無駄にハンサムな微笑を浮かべながらも、余裕たっぷりに腕すら組んでいる。
というか本当に弾幕止まらないな。バッテリー効率良すぎだろちくしょうめ。
「これは大分しんどい……が、ちょびっとだけ目と身体が慣れてきた……なっ!」
「む……」
途切れることの無いレーザー弾幕の中、ようやく俺は回避と防御以外の行動に意識を回す余裕が出来てきた。俺は跳躍と、杖によるレーザーの捌きと並行して、レーザーピストルをイテゾラに向け、引き金を引く。
腕を組みふんぞり返っていたイテゾラは少し驚いた様に目を見開くと滑るように横に動き、イテゾラの周囲に浮いていたレーザー銃共もガチャガチャとイテゾラの回避に追従するように動く。
そしてその追従移動の間、ほんの一瞬、レーザー弾幕が止まっていた事に俺は気がついた。
「…………なるほど」
仮説は出来た。ならば再検証だ。
再び全ての銃口が俺の方を向き、撃たれるレーザーの嵐。避け、杖で弾く俺。そしてちょっぴり身体を焼かれながらもう一度レーザーを撃ち返す。
イテゾラもそれを回避。無数のレーザー銃がイテゾラに追従。その間止まるレーザー弾幕。
「オペ子」
『データはあまりに少ないないけど……多分おっさんの考えで合ってると思う。イテゾラは無数の銃をよく分かんない技術で浮かして操るけど……もしかしたら移動と射撃は同時に行えない……のかもしれない』
「だよな」
『出来れば一回で決めて。何度も通用するとは限らない』
「相変わらず無茶を……。けどやってみるか」
阿吽の呼吸でオペ子と認識を擦り合わせた所で、飽きもせずイテゾラはレーザーを撃ちまくる。
「毛虫かゴキブリの如きしぶとい男よ……我が愛銃、愛華、伊織、浮葉、円六、小織、以下沢山……が放つれーざーから逃れる事は叶わない。謂わば我が愛銃、火蝶、麒麟、黒豆、毛猿、子犬、以下沢山……は我が肉体に等しきく。つまり何が言いたいかというと我が愛銃、砂糖、塩、酢、醤油――――」
「クソッ! こいつ自分の銃に名前付けるタイプの殺し屋だ! 少し憧れる!!」
『おっさんも付ければいいじゃん』
「確かに!!」
『ていうかアイツ最後の方ネーミング雑になってなかった?』
レーザーの間を掻い潜る。避ける、避ける、避ける、避ける。目と身体が慣れてきたとはいえ、この弾幕の中で一発だろうと撃ち返すのは至難の業だ。だが焦らない。ただ撃ち返すだけでは意味が無い。その次に繋げられるタイミングで撃ち返さなくてはならない。
「ばってりー切れを狙っているのであれば無駄な試みよ。我がカネヅルであるカゲトラ殿から与えられし、えなじー銃のばってりー容量は業界とっぷくらす。あかはねいんだすとりーは、えなじーばってりーの製造も行っており、全国ばってりーちゃんぴおんしっぷに置いて2年連続同銀賞を得た――」
「いつまでも余裕こいてると寝首どころか首狩られるぞ。ランク第10位さんよ」
レーザーを避けながらも、俺はじりじりとイテゾラとの間合いを詰めていた。いつまでもくっちゃべって隙を晒してくれている間抜けっぷりのおかげで多少楽は出来た。少しずつ、ほんの少しずつ近づき。そしてついにその時が来た。
「――つまり我が希望としてはカゲトラ殿は今夜の護衛任務の報奨として我に金百封の報奨を――」
「今夜金を貰う殺し屋は俺の方だ!!」
俺はイテゾラに銃口を向ける。レーザーを撃つ。イテゾラは小さく肩をすくめながら再び回避の為跳躍し――。
「馬鹿の一つ覚えよ。その様な豆鉄砲がこの我に――」
「馬鹿の一つ覚えはどっちかといえばお前の方だろ!」
イテゾラは確かにレーザーを避けた。しかしその一瞬、レーザー弾幕が止まることを俺とオペ子は確信していた。
だから思い切り突っ込んだ。ゼロ距離。イテゾラの鼻先まで。
「ぬぅ…………!!」
イテゾラは慌ててふわふわと浮かせたレーザー銃共の照準を合わせる。しかしレーザーは放たれない。
当然だ。照準が俺に合わさったその時には、俺はイテゾラの懐に既に入っていたからだ。このまま俺目掛けて撃てば、貫通したレーザーはイテゾラ本人にも命中してしまう。
「ここまで散々好き勝手してくれたな」
まずは挨拶がてら、突っ込んだ勢いでイテゾラの顔面に頭突きを一発。
「ごはっ!」
「逃がすかっ!」
頭突きを喰らった衝撃を利用して俺から距離を取ろうとするイテゾラに、俺は喰らいつく。
ここはそう広くも無い廊下。俺がレーザー弾幕を避けるのが難しかったのと同様に、イテゾラもまた俺から逃れる事は難しい。一度近づいてしまえば。
イテゾラの腹に蹴りを放ち、壁に叩きつける。もはや杖をわざわざ剣に変形している時間も惜しい。俺はそのまま杖を振りかぶる。
「貴様は杖百叩きの刑に処す」
「ぐぅ…………!!」
とにかく隙を与えない。俺は息が完全に切れないよう気を配りながら、イテゾラの全身を杖で滅多打ちにしていく。
とはいえ、イテゾラの身体も頑丈だ。恐らくその辺のサイボーグ警備共よりもずっと身軽かつ硬いパーツで全身を包んでいるんだろう。そう易易とは仕留められない。
「調子に乗るな……この、薄汚い……どぶねずみが如く殺し屋が……!!」
イテゾラの目が見開かれる。まさか破れかぶれにレーザー銃を撃ちまくるつもりか? と俺が身構えた直後。
俺を襲ったのはレーザーではなく、打撃。ありとあらゆる角度から凄まじい勢いで全身をタコ殴り返される。
「ぐお…………!!」
攻守は突如として逆転。俺の杖を振る手が止まり、その攻撃の正体を確かめる。
『うーわ』
「ああクソ、マジかそれもありかよ……!!」
「すまない火蝶、酢、子犬……」
俺をめちゃくちゃにぶん殴っているのはイテゾラが操るレーザー銃共であった。どうやらイテゾラは、浮かべたレーザー銃を鈍器として扱って俺をタコ殴りにしているらしい。めちゃくちゃだ。
だがどうやらこのレーザー銃共は、至近距離で暴れまわる俺に照準を合わせるのは難しいらしい。その上銃を鈍器として扱うこのやり方は決してイテゾラにとっても好ましい策では無いらしい。俺を強かに打ち付けるレーザー銃が、ひとつまたひとつと壊れ、地面に落ちていく。
『これは新発見。どうやらレーザー銃ふわふわ技術は、レーザー銃そのものが正常に動いてないと発揮できないみたい。レーザー銃を壊せば墜落する。そっちから攻めるのもありだね』
「言ってる場合……」
ガチン!! と俺のこめかみをレーザー銃の一丁が直撃する。一瞬星が見えた。視界の端で粉々になったレーザー銃が見えたが、俺は自分の頭が粉々になってないかの心配で精一杯だった。気が遠くなり、足から力が抜けて崩れ落ちそうになるところを、どうにか踏みとどまる。
「往ね。散っていった十五の愛銃の仇を取る。決して許さん!!」
「クッ…………」
ふらついた俺を見て好機と感じ取ったのか。イテゾラが懐からナイフを取り出し、今度は逆に俺の懐まで迫る。
俺は思わず薄く笑みを浮かべた。
アホめ。怒りと焦りに目が眩んで雑な動きしやがって。貴様の強みはレーザー弾幕だろうが。冷静に距離を取ってもっかい弾幕を張っていれば、勝ってたのはそっちだったかもしれないってのに。
「王は王らしく、腕組んでふんぞり返ってるべきだったな……!!」
「!!」
俺はガリ、と唇を噛んで意識を無理やり覚醒すると、突きの構えで杖を構える。
ここまでの流れで十分理解している。イテゾラが得意なのはレーザー弾幕を用いた『一方的な殺し』であって、真正面からの『戦闘』はそこまで得意ではない。きっとこれまでお得意のレーザー弾幕に対応出来た奴などほとんど居なかったのだろう。
「往ねッ!!」
「今夜はそういう気分じゃいんだ……さっきも言わなかったか?」
イテゾラがナイフを振るうよりも素早く、俺はイテゾラの胸元目掛けて杖を突き出す。
「ガハッ…………!!」
完全に捉えた。イテゾラの胸に杖を突き立てたまま、イテゾラの身体をもう一度壁に叩きつける。
バキリ、と。壁に亀裂が入る音が聞こえた。
「な…………!!」
「そりゃあ天下のアカハネタワーだ。多少ぶつけたくらいじゃ壊れない程度には壁も頑丈だろうよ……だがな、さっきまでお構い無しにレーザー撃ちまくってたのは貴様の方だぜ、イテゾラ」
イテゾラが放っていたレーザーの嵐によって撃たれ、焼かれ。徐々に脆くなっていた一部の壁。その壁が、バキリと歪み、崩れた。イテゾラは杖を掴んで抵抗しようとするが、もう遅い。壁に入った亀裂は更に大きく広がり、構わず俺は杖を突き出した。
「終わりだ」
「――――」
イテゾラの身体がふわり、とタワーの外に放り出される。
ここは66階。流石に死んでくれると助かる。
カキン、と俺の足元にナイフが転がる。どうやら落下しながらも俺に向けてナイフを投げていたらしい。ただの俗物かと思っていたが、どうやら死が確定しようと仕事を果たそうというプロ意識は持ち合わせていたらしい。
「…………」
俺は振り返り、アカハネ・カゲトラが居るであろう部屋に目を向ける。
「随分とカゲトラを待たせちまった。ご歓談の途中で席を勝手に離れたのは――」
『まだだレクター!! 後ろを見ろ!!』
オペ子が叫ぶ。俺は弾かれたように振り返る。
落下し、完全に姿を消した筈のイテゾラ。その超本人が。鬼の様な形相でこちらに跳んでいた。
「終わるか!! 我は!! 貴様を! 必ず! 地獄へと送る!!」
イテゾラが咆哮する。
俺の思考はクリアになり、まるで世界中の時が遅くなったような錯覚を覚えた。
イテゾラの手には一丁のレーザーピストル。奇しくも俺の愛銃と同じアンティークめいた一丁だった。
イテゾラの背後には、無数の銃が見える。それらは階段の様に、螺旋を描いて宙に配置されていた。
……………なるほど。イテゾラの野郎は落下の最中、自らの愛銃を踏み台として利用する事を思いついたらしい。咄嗟の機転。神がかり的発想だ。だが踏み台として使ったそれを制御しきるほどの余裕が無いのか、次々と重力に任せ地上に落下していくのが見える。
イテゾラはひとつひとつ名前を付けるほどに愛していた自らの銃を次々と踏み台として消費し、空中を駆け上がり、そしてついに俺の眼前に再び辿り着いた。奴のこの鬼の様な形相は、愛する相棒の多くを失った事による怒りと悲しみによるものか。
「スゥゥゥゥ――」
息を深く吸い込む。俺とイテゾラの視線が交差する。レーザーピストルの銃口を互いに向けたのはほぼ同時だったと思う。
引き金にかけた指に力を込めるのもほぼ同時。だが、そこからは違った。
イテゾラが構えていたレーザーピストルの銃口は大きく逸れた。何故か? 俺が、足元に転がっていたイテゾラのナイフを蹴りつけ、奴に向けて蹴り飛ばしていたからだ。ナイフが腕に突き刺さり、ぶれた銃口から放たれたレーザーは明後日の方向へ跳んでいく。
「イテゾラ。その銃の名前は?」
「……飛燕。使いこなすには、相応の愛が必要だ」
「そうか」
俺が放ったレーザーが、イテゾラの右目を撃ち抜いた。貫通したレーザーがイテゾラの脳を焼き焦がし、後頭部を吹き飛ばす。
イテゾラは撃ち抜かれる直前、手首を返して奴の愛銃、飛燕を放り投げていた。俺はイテゾラが血とその他諸々の液体を撒き散らしながら地上へと堕ちていくのを眺めながら、それを確かに受け取った。
「百の銃を付き従えるほどの度量は俺には無いが……もう一丁位なら面倒見てやるぜ、イテゾラ」
『元々持ってた銃の名前はどうすんの?』
「んー、んー……そうだな……夜雀……とかどうよ」
『いいんじゃん?』
「だよなー」
殺し屋ランク第10位、百銃の王イテゾラ。殺し屋ランク番外、レクター・ヴィンセントに討たれ、死亡。




