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サクサク読める短編集

毒だからこそ薬

作者: 2626
掲載日:2026/02/25

 豊かで広大な国土を持つ獣人達の国ミュティカの第一王女エメラルディカと、その隣にあるルビオン王国の王弟であるリデウス公爵の末息子ユリウスの盛大な結婚式は、つつがなくルビオンの女神神殿にて進み、いよいよ女神像の前で誓いの接吻を交わす瞬間を迎えていた。


 「兄上、実に苦労しましたなあ」

参列しているルビオン王国の国王と、宰相でもあるリデウス公爵が小声で話し合っている。

「全くだ。貴様の『息子』は本当に反抗的で面倒だった。己の撒いた種くらいしっかりと躾けておくものだ」

太った国王は、一度だけリデウス公爵を睨む。

「まあまあ兄上。されどこれで我らの悲願は叶いますぞ。獣人の王女なんぞの元へヤツが婿入りする代わりに、肥沃なレイオヴ平原が我らの手に入るのですから」

酷く脂ぎったリデウス公爵は、不機嫌な兄を上手になだめる。

それでも国王は不満そうに、

「しかしだ、ヤツが作っていた『若返りの薬』はどうするのだ?獣人なんぞには、あまりにも勿体ないであろうに」

「それが兄上、私の『息子』はとても優秀でして……」

リデウス公爵は懐から、ちらりと小瓶を覗かせた。

液体が詰められた小瓶には『劇薬!取り扱い注意!』と言うラベルが貼られている。

「まさか!?」

顔を驚きに歪めた国王を、リデウス公爵は慌ててたしなめた。

「しっ、兄上!

……そうですよ、ヤツはこれを既に完成させていました。先ほど身体検査をした時に運良く見つけたのですよ……」

「でかしたぞ、我が弟よ!」

国王はにんまりと笑って、女神像の前でいよいよ花嫁のヴェールをめくるユリウスを見た。

「これでヤツには何の価値も無くなった。ヤツの『家族』ももはや不要になったのだ」

ええ、と頷き、小瓶をそうっと仕舞ってから、リデウス公爵もそっくりに笑う。

「ではこの後で処理させておきましょう。兄上、どうぞお任せ下さい」


 いよいよエメラルディカとユリウスの顔が近付いた瞬間。

国王達の背後から凄まじい絶叫が聞こえた。


 ――仰天して振り返った参列者達の目の前を、怪力で投げ飛ばされた護衛の騎士達の体が飛んでいって、歴史ある女神降臨姿を描いたステンドグラスを粉々に突き破った。

他の騎士達の体は白い女神像を倒壊させ、更に別の騎士達の体は祭壇を粉々に破壊した。


 悲鳴を上げて四方八方に逃げ惑う参列者や神官達の間を駆け抜け、武器を構えた黒ずくめの一団が新郎新婦に迫る。

「きゃああああああああああああああああああっ!」

その一団は、咄嗟に新婦を庇った新郎を切り倒し、血しぶきを上げて倒れた彼の骸を引きずっていったのだった……。

血痕だけが残った。




 その後は大騒ぎだった。

ミュティカの女王は『娘の結婚式を穢した国に領土の割譲などあり得ない』と言い、エメラルディカ第一王女共々自国にすぐさま引き返す。

外交官や外務大臣が平謝りに謝って戦争だけは回避したが、ミュティカの態度はなかなか軟化しないままだった……。


 ――あまりにもその対応で多忙を極めたため、ルビオン王国の面々、特にリデウス公爵が『あの事』を思い出したのは、散々に破綻した結婚式から半年後のことである。


 それを思い出した途端、彼は我先に『家族』を監禁していた領地の地下室に急いだ。

しかし、既に遅かった。

領地の地下室には、人間はおろか――この半年以上、人間が生活していた痕跡すら無かったのだ。

「やられた!」

リデウス公爵は青ざめた。




**********


 それから遡ること一年前。


 同じルビオン王国の王宮では、ユリウスとエメラルディカ王女の初めての見合いが開かれていた。

エメラルディカ王女は神々しいまでに美しい竜族の令嬢であったけれども、ユリウスの顔は暗く、何処か引きつっていた。

「……貴方、どうなさったの?」


 四阿(あずまや)で二人きり、遠くに護衛や侍女達はいるけれども会話を聞かれる距離では無い。

だからエメラルディカは思い切って、重たい顔をしているユリウスに事情を訊ねたのだった。


 「……ごめんなさい、王女殿下。何一つ貴女の所為では無いのです……」

ユリウスは消えそうなくらいの小声で、そう言った。

「誰か愛する人でもいるのかしら?」

若い貴族に恋人もしくは愛人が既にいるなんて、良くありそうな話であるが、ユリウスはエメラルディカを見ようともせずに泣きそうな声で呟いた。

「僕の、『家族』が……」


 『家族』ですって?

エメラルディカは不審に思った。

ユリウスはリデウス公爵家の人間であったはずである。

リデウス公爵一家と言えば、この縁談をほくほく顔で歓迎していたと彼女も聞いている。


 ユリウスとエメラルディカの縁談は、貴族ながらも優れた医者であるユリウスの知識と技術をミュティカに譲る代わりに、肥沃なレイオヴ平原の地をルビオンへ割譲する――その協定を結ぶための政略結婚であった。


 獣人には宿痾(しゅくあ)がある。

番病(つがいびょう)という――獣人のみに感染する症であることが、最近になって判明した。

発症すれば特定の相手のみに過剰な性的反応を見せ、執着行為を死ぬまで繰り返すのだ。

もしも運悪く番病にかかれば、その者は即座に社会的な死を迎える。


 ユリウスの生み出した薬には、その番病を一瞬で治癒させる効果があった。

欠点は『信じられないほど苦い!』……だけである。


 「ねえ、ユリウスさん。貴方は私達のような獣人を救って下さった恩人なのよ。もしも貴方が助けを求めておいでなら、私達は直ちに応えるわ――例えば、亡命とかね?」

エメラルディカの言葉に、ユリウスの目付きが変わった。

ほんの僅かに希望の光を垣間見た――縋るような目になったのだ。

どうにか涙を堪えて、彼は語り出した。

「僕は、妾の子でした。ですので、リデウス公爵の領地で……あの地で、この二十年の間、放置されていました」




 ……。

生みの母は僕を産んですぐに病気で亡くなり、僕は召使いだったジョージとサルビアに育てて貰ったんです。

二人にはカトリーナという娘がいて、僕の姉も同然でした。


 今から三年前の春に、僕はカトリーナに一生分の恋をしました。

幸いにも彼女も僕を異性として愛すると言ってくれて……。

ジョージお父さんもサルビアお母さんも僕達を祝福してくれて、本当に幸せな『家族』でした。


 ……僕が、『番病の薬』を生み出してしまうまでは。


 僕は生みの母を殺した病気が憎くて、医者になろうと決めていました。

お父さんもお母さんもカトリーナもいつも応援してくれて……僕が『番病の薬』を生み出せたのはそのおかげです。

本来は他の感染症への特効薬になるはずだったのですけれど、僕の字が汚かった所為で、調合の手違いが起きてしまって。


 僕はあの薬の所為で、名前が知られてしまった。

そうなると、一度も顔を見たことのない父親が僕を呼び出して、国王陛下共々、王宮で研究を続けるように命令してきたんです。

……『番病の薬』や、他の病の薬のための研究じゃない。

彼らは私利私欲のために、『若返りの薬』を僕に作れと命じたんです。




 「……そうだったのね。貴方は『家族』を人質に取られて、泣く泣く『若返りの薬』の研究をしていた……と」

エメラルディカは事情を聞いて、流石に眉をひそめた。

ユリウスは鼻を啜って、頷く。

「はい。『若返りの薬』はある程度は成立しました。だから僕は……もう用済みなのでしょう。

僕は良いんです、僕は何をされても構わない。でも『家族』だけは……僕の大事な『家族』だけは……!」

震えながらエメラルディカを見つめるユリウスに、彼女は優しく微笑みかけた。

「ねえ、ユリウスさん。貴方はね、繰り返すけれども、私達獣人の全てを救ったのよ?だから――」

「!?」


 彼女が耳打ちした『計画』の内容に、最初ユリウスは目を見開いたが、すぐにしっかりと頷いて返した。




**********


 エメラルディカ王女が『マイク』の研究室を訪れた時、マイクは遅い昼飯を食べていた。

彼の妻となった『フェリーナ』が昼食をうっかり食べないで帰ると大層怒るそうで、慌てて食べていた。

栄養も彩りも優れた弁当をつついていた彼に、エメラルディカ王女の隣にいた獣人の貴公子が声をかける。


 「どうだい、マイク。研究の方は?」

「これは、イルッセーゾン閣下!」

マイクは慌てて立ち上がろうとしたが、貴公子は『気楽にしたまえ』と優しく声をかけて止めた。

「それより、君の研究の進捗を聞きたい。今も様々な病に対抗する薬を生み出しているのだろう?」

「は、はい!……目下進めているのは悪しき精神的汚染である『魅了』を解除する薬です」

エメラルディカ王女は驚きに目を丸くした。

「まあ、それは凄いわ!『ヒロイン』と言う訳の分からない怪物がたまにそれを使って暴れて、その都度あちこちで甚大な被害が出ていたけれども、もうその心配をする必要も無いのね……」

急いで水筒からお茶を飲み、マイクは落ち着いて話し出す。

「ただ、まだ副作用として激しい自責感情が発生しますので、医者によるきちんとした処方が必要です」

無論だ、とイルッセーゾンも快諾してから、じっとマイクを見つめて訊ねた。

「実は、先日ルビオン王国の王宮で大量の死者が出たそうだ。国王も宰相も亡くなったらしい。

――君が、何か関与したのかね?」

マイクは静かに頷いて見せてから、小声で話す。

「……僕がユリウスだった時(・・・・・・・・・・)、成功した唯一の『若返りの薬』を彼らに奪われましたから、そろそろだろうと思っていました」

「まさか『若返りの薬』と偽って、毒薬を渡したのかね?」


 だとしたらこの青年医師は、人畜無害な顔をしているが、確かに貴族の血を引いている。


 「いいえ、僕が奪われたのは確かに『若返りの薬』でした」

首を左右に振り、マイクは静かに言葉を続ける。

「ただ、閣下。『薬』と言うものはおしなべて――元を辿れば『毒』なのです。毒だからこそ薬になり得るのです。『若返りの薬』は一時は確かに人の体を二十年分は若返らせますけれども、それほどの強力な毒を摂取したからには、副作用が必ず出てしまうものなのです……」

エメラルディカ王女は思わずマイクに訊ねていた。

「『若返りの薬』の副作用は、何だったのかしら?」

マイクは俯いて答える。


 「摂取してから一定期間後に発生する、過剰に急激な肉体の老化現象です。僕が見た時は――まるで、生きたまま干からびていくようでした……」

「毒にならない文章は薬にもならない」と思ったり等した。

異論や反論も賛否両論も、勿論あるだろうな、とも。

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