第九話 鍵
結局、僕らは二人で行くことにした。
「問題は鍵だよ」
水野さんが持ってきたノートに研究所の見取り図を書きながら、僕は説明した。鍵のある場所に丸を書く。
鍵は研究所の入口に一つと、保管室の入口に一つ。さらに保管ケースに一つ。合計三つ、かけられている。それらを、なんとか開ける必要がある。
「入口においてきちゃえばいいんじゃねえか」マモルは言った。
「最悪の場合はね。でも、それだと、窃盗事件となって警察も黙っちゃいないだろう。できれば鍵の内側にビーナスを置きたい。そうなれば、何かの間違いか、内部の人間の犯行ということにできる。おそらく、その場合、父さんは、それ以上の追求をしないはずだ」
「あの」しばらく静かにしていた、サユリが思い出したように口を挟んだ。
「鍵ならなんとかなると思うんだけどな」
「どうやって?」
「これ」
サユリが出したのは、三個のドングリだった。正確に言うと、普通のドングリよりやや大きくて、形も栗とドングリの中間みたいなものだ。でも、まあ、色や形から判断して、ドングリの一種と言っていいだろう。
「何これ」マモルの声には困惑の色が混じっていた。サユリが何を言い出そうとしているのかわからないのだ。それは、僕も同じだった。何かの冗談だろうか。でも、僕が知っているサユリは、こんな時に冗談を言うタイプではなかった。
「これ、ちょっと前に夕子に貰ったんだけど。水野さん、なんでもいいけど、鍵のかかったものってないかしら」
夕子に言われて、水野さんは小さなオルゴールを持ってきた。かなり古いものだ。箱の上には、細かな彫刻が施されていて、ちょっと見た感じでも、高級なものだということがわかる。
「だいぶ前に僕のおじいさんからもらったものだよ。かなりの高級品だ。もしかして、これを開けようって言うんじゃないかと思うんだけど、おもちゃじゃないからな、簡単には鍵は開か・・・」
「ひらけ」
水野さんの話を遮るように、サユリがつぶやいた。すると、目の前の箱が、カチっと音を立てた。鍵はいとも簡単に開いた。サユリはそれに触ってすらいない。
「すげえ」
「どうやったのこれ」
サユリが言うには、このドングリを持っていると、どんな鍵でも開けられると言う。「ひらけ」と一言つぶやくだけでいいのだ。どんな仕組みになっているのかは、サユリにもわからないらしい。
「夕子の魔法みたいなもなじゃないかしら」最後に、サユリはそう言った。
魔法か。まあ、テレポーテーションとか、タイムトラベルに比べたら、鍵を開けるくらい、簡単な話なのかもしれない。
「俺、試してもいいかな」
マモルが、三つのドングリを借りて試してみる。
「ひらけ」
さっきと同じように、オルゴールの鍵は、マモルの声にも反応した。
「それじゃあ、これではどうだろう」
マモルがドングリを一つだけテーブルの上に置いた。つまり、ドングリ二個だとどうなるか、試そうと言うのだ。
「ひらけ」
鍵は全く反応しない。
「それ、私も試して見たんだけど、三個じゃないと、うまくいかないの」
とにかく、問題は解決した。あとは、夜中に忍び込んで、ビーナスを返してくればいい。




