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第七話 サユリ

「あのう。ちょっと相談があるんですけど。」外から声が聞こえた。その日、僕とマモルは水野さんの家にいて、お化け捜査官について、あれやこれやと話しをしているところだった。水野さんは、小さな卓袱台に向かって、なにやら原稿用紙にペンを走らせていた。

 外を見ると、二人の少女が見えた。

 一人は、僕達と同じクラスの山口サユリだった。クラスの中では、どちらかと言えばおとなしい子で、転校して間もない僕はまだ一度も彼女と口をきいたことはなかった。

 もう一人の子は、見たことが無かった。おそらく歳は僕らと同じくらいだろう。でも、学校では一度も見かけたことがない。おかっぱ頭に、赤いスカートは、なんともレトロないでたちだが、そこからは、確固としたポリシーのようなものが感じられた。

「とにかく入れよ。狭いし汚いけど」

マモルが言った。まるで、自分の家かのような物言いだが、ここは水野さんの家である。

「マモルの失礼な言動については、後で、説教するとして、まあ、とりあえず入って入って、ほんとに狭いけど」

水野さんが陽気に言った。


「タケルは、夕子に会うのは初めてだよな」

マモルはそう言うと、おかっぱの女の子を紹介してくれた。

「この子は、夕子って言うんだ」

「ふうん。名字は?」

何気なく僕が聞くと、その子はちょっと不機嫌になって、おかしなことを言った。

「夕子よ。苗字はないわ」

水野さんも、マモルも夕子という女の子のことは以前から知っているようだった。不思議なことに、名字が無いことについて、二人とも何の疑問も持っていない。

「で、サユリの相談っていうのは何?」

マモルが言うと、サユリが心底困ったという顔をして言った。

「夕子がね。これ、持ってきちゃったのよ」

そう言ってサユリは自分のカバンから、くしゃくしゃに丸められた新聞紙の塊を取り出した。そして、丁寧にそれを広げてゆくと、中から、土の塊のようなものが出てきた。

 僕は、心臓が止まるのではないかと思うほど驚いた。

「これって。もしかして」

「そう、双子のビーナス。の、片割れ」

「持って来たって、どうやって?」

双子のビーナスは、父が厳重に管理していたはずだ。夕子みたいなただの女の子に、持ってこられるはずがない。

「これは、もともと私の物よ。どうして、持ってきちゃだめなのよ」

そう言うと、夕子は、頬を膨らませてみせた。怒り方もレトロだ。それにしても、夕子がこれを自分のものだと主張する理由がわからない。双子のビーナスは、もちろん縄文時代の作で、最近まで発見されていなかった。誰もその存在を知らなかったはずなのだ。

「夕子の気持ちはわかるよ」

水野さんが言った。

「え、わかるの?」

思わず、僕は叫んでいた。僕には意味が全くわからない。

「そうだな。タケルはここに来て間もないからわからないだろうけど。夕子は、ずうっと昔から、この丘に住んでいたんだ。昔、ちょうど今僕の家がある場所には、大きな家が建っていてね。夕子はそこに住んでたんだよ」

水野さんはそう言ったが、僕は納得がいかなかった。昔っていったってたかが知れている。夕子は、せいぜい、十歳くらいにしか見えないじゃないか。

「だからって、双子のビーナスが夕子の物ってことにはならないでしょ?」

「やっぱ、納得いかないか」マモルが言った。

「納得いかない」

「じゃあ、仕方ないなあ、夕子、悪いけど、いつものやつ、見せてやって」

「ええ、面倒臭いなあ、もう」

夕子がそう言った次の瞬間、シュッという風を切るような音と共に、夕子の姿が見えなくなった。

「き、消えた」

今の光景は、単に消えたというより、かき消えたという表現がふさわしい。

「か、かき消えた」

その後、僕は気を失ったらしい。

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