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第六話 発掘

 遺跡の発掘は順調に進んでいた。父さんは実質的な現場の責任者となっており、発掘を指揮していた。

 遺跡に隣接した空き地には、二階建ての簡易住宅のようなものが建てられ、仮の研究所となっていた。一階部分には、発見された物が日々、続々と運び込まれており、その場で、数人の研究者による鑑定作業が進められていた。

 初期に発見された一対の土偶は、双子のビーナスと呼ばれるようになっていた。それらを含めた、特に重要と判断された発見物については、厳重に鍵をかけることができる別室が用意され、さらにそれを保管する棚にも二重の鍵が設置された。

 鍵は、父さんが保管していた。


 その日。僕と弟は、遺跡を見学していた。と言っても、父さんが職権濫用をして、僕らだけが特別扱いされているわけではない。地域の小学生を対象にした見学会が時々行われているのだ。その抽選にたまたま当たったわけだが、本当にたまたまかどうかはわからない。父さんは直接手を下すことはないが、父さんの部下の誰かが、忖度して、僕らをねじ込んでくれた可能性は、ないこともない。

 遺跡をぐるっと一回りして研究室に戻ってくると、ガラス越しに、父さんが見えた。一心不乱に何かをスケッチしている。

「班長、ちょっといいですか」

父さんは、発掘仲間からは班長と呼ばれていた。父さんの横には、不安そうな顔をした男が立っていた。

「どうした、木村」

「すみません。ここでは話せないんで、ちょっと外へ出てもらっていいですか?」

父さんと、木村と呼ばれた男の会話は、そこまでしか聞こえなかった。

 周囲に不穏な空気を残して、二人は研究所の外へ出て行った。僕は、二人の行方を目で追った。ついて行って、話を聞きたいという衝動にかられたが、それがゆるされるような雰囲気ではなかった。


 その日。深夜遅くになって、疲弊しきった父さんが帰ってきた。なんとなく寝苦しさを感じていた僕は、布団の中から、そっと聞き耳をたてた。

「実は、たいへんなことになった」

父さんの声には元気がなかった。

「誰にも言わないんで欲しいんだけど、双子のビーナスの片方がなくなってしまったんだ」

「え」

母さんが息を飲んだ。布団の中で、僕も息を飲んだ。双子のビーナスと言えば、国宝級と言われている土偶だということは僕も知っていた。

「誰かが、盗んだということ?」

母さんの声が震えていた。

「鍵は確実にかけてあった。それを開けた形跡もない。 だから・・・」

「関係者の誰かが、持って行った可能性が高いということかしら」

「あまり、考えたくないんだが、そうとしか考えられない」

 もともと、人のいい父さんは、人を疑うということができない性格だった。それでも、これまで人に騙されたり、裏切られたりしたことはない。(少なくとも、僕は知らない)それは、父さんの持つ、陽気な性格のおかげだろうと、母さんが言っていたことがあった。

 なんとなく僕にもわかるような気がしていた。いつも陽気な父さんを見ていると、人は、この人を助けてあげたいと思ってしまうらしい。

 木村という人は、従業員を徹底的に疑うべきだと主張した。父さんも、その可能性はあると認めていた。しかし、心の底では、仲間たちを疑うことができずに、苦しんでいるのがわかった。

 いつの間にか、僕は眠ってしまったらしい。次に目が覚めた時、まだ、夜は明けていなかった。隣の部屋から、父さんが咳をするのが聞こえてきた。もしかしたら、眠れないのかもしれない。窓の外からは、夜の鳥の声が聞こえた

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