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第五話 マモル

「タケル、今日、水野さんのとこに行く?」

いつも唐突に話かけてくるこいつは、上野守。 長野で初めてできた僕の友達だった。ちなみに『タケル』というのが僕の名前だ。

 きっかけは、給食の時間のことだった。

「タケル。パン。うまいか。」

突然、やつは話しかけてきた。一人で黙ってパンを齧っている僕のことを、マモルは、放って置けなかったらしい。マモルだって、そんなに友達が多いわけではないみたいだが、困っている人を放って置けない、親分肌なところが、こいつにはあった。


「僕、そんなに困っているように見えた?」

「ああ、俺には、雨に濡れた子犬がエサ食ってるみたいに見えたよ」

後日聞いてみると、冗談混じりでそんなことを言った。本当のことを言うと、そんなに困っていた覚えはないんだけど、これがきっかけになって、僕はクラスメートとの会話に加わるようになった。

 マモルは、最初から僕のことを『タケル』と呼び捨てにした。僕も、『マモル』と呼び捨てにした。結果的に、このことがお互いの壁を取り除いた。

 

「行く」

 放課後、僕とマモルは、水野さんの家に向かった。正門ではなく、学校の裏にある塀の隙間を通り抜けると、僕達はまだ何も植えられていない畑の畦道を獣のように走った。その先には、小さな森が見える。その森の向こうに水野さんの家はあった。

 水野さんについて、僕が知っていることはそれほど多くない。マモルは彼のことを友達だと言って、僕に紹介してくれたが、おそらく年齢は二十代後半。完全に大人だ。例の遺跡の近くに、簡単なプレハブハウスのようなものを自分で組み立てて、勝手に住んでいる。仕事は、している気配が無かった。小学生の僕らが、いつ訪問してもその家にいて、僕らの相手をしてくれた。


 水野さんの家に着くと、彼は茶舞台に原稿用紙を広げて、何やら文字を書き込んでいた。覗き込むと、『お化け捜査官』と言う文字が見えた。

「お化け捜査官? なにそれ?」何気なく僕が呟くと、水野さんは少し困惑したような顔をした。

「僕もよくわからないんだ。裏山に古墳があるだろう? そこに古い石碑みたいなものが建っているんだけど、そこに文字が書いてあってね。かろうじて読めるのがこれ、『お化け捜査官』と言う文字」

「かろうじて?」

「そ。かろうじて。他にも何か書いてあるんだけど、古過ぎて読めない」

「ふうん。で、それをどうするの?」

「どうする?。どうもしないさ」

その時は、そんな感じで話は終わった。僕らはいつものように勝手に水野さんに家で、宿題をやったり、絵を描いたりして過ごした。


 次の日。

 いつものように、水野さんの家に行くと、少しおかしな方向に話が展開していた。


「よう、お化け捜査官達」

いきなり、水野さんがそう言った。

「何すか、いきなり」

マモルが聞く。

「『お化け捜査官』って言葉、なんか面白そうじゃないかな」

水野さんというのはこういう人だ。いつも、何か面白そうなことを探し回っている。水野さんによると、昨日寝る前に、『お化け捜査官』という言葉が原稿用紙から飛び出て襲いかかってきたのだそうだ。今は、頭の中は、お化け捜査官と言う言葉でいっぱいらしい。


「任命する。君たちは今日からお化け捜査官だ」

「だから。お化け捜査官って、なに?」

「正義の味方かな」

「正義の味方?」

「そう。正義の味方。まあ、何でもいいや。何をするかは、君たちで考えろよ。あ、一つ言っておくけど、君たちがお化け捜査官であることは、もちろん極秘だ」

 なんだかわからないが、こんな感じで、水野さんは、いつも何か楽しそうなことを探しては、僕たちを巻き込んでいた。そんな、水野さんのことが僕は大好きだった。

「これをあげよう」

そう言って、水野さんは、二つの黒い手帳を取り出した。もらった手帳を開いてみると、

【お化け捜査官 浜 尊】

そう書かれていた。いつの間に撮ったのか、写真まで貼ってあった。

「よし、俺たちは、今日からお化け捜査官だ」

その気になったマモルが叫ぶ。同時に、僕も、自分がその気になっていることに気づいて、少し驚いた。

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