第三話 引っ越し
その年の四月。
引っ越しというのは、僕が初めて体験する一大イベントだった。母さんは数日前からせっせと荷物の梱包を開始し、なんとかその日までに、生活必需品以外の片づけを終えていた。
引っ越し当日。
聞き慣れない大型車の音で僕は目が覚めた。窓から下を覗くと、白いトラックが見えた。運転しているのは父さんだ。どこかから四トントラックを借りてきたのだ。まさかとは思ったが、引っ越し業者に頼ることなく、全部自分でやるつもりらしい。
「まじ?」
「まじ」僕が恐る恐る聞くと、父さんが一言、そう答えた。
非力とはいえ、僕も弟も、戦力としてカウントされていた。箪笥などの積み込みは、父、母、そして子供二人だけではとても無理だと思われたが、ノウハウさえあればなんとかなるもので、父さんはなぜかそのノウハウというやつを身に着けていた。
こうして、三時間ほどで、大方の荷物の積み込みは終了したが、ベッドと冷蔵庫、大型の箪笥などが部屋に残された。さすがに四トントラックには、積み込めなかったらしい。
「このベッドどうするの?」
愛着のある二段ベッドが子供部屋にポツンと残されている姿は、なんとなく寂しいものだった。
「残念だけど、これは持っていくことができないんだ。ま、来年また戻ってくるわけだし、それまではベッドなしでがまんだな。」
父さんの言葉に多少の不満はあったものの、僕はそれ以上文句を言わなかった。
やがて、全ての作業が終了すると、父さんはトラックに乗り込み、僕と弟は、母さんの運転する乗用車に乗って、出発した。振り向くと、これまでの我が家が、いつもより小さく、寂しそうに見えた。




